第230話 お取り込み中だった!
町の人達を救うには、今どういう状況なのか? そもそも町の人達は何処にいるのか? 敵の正確な人数は? 配置は? 少しでも情報が必要だ。
俺とシェンユで調べられれば問題ないが、俺達は索敵能力なんて無い。
となると、知ってる奴に聞くのが早い。そしてそれは、この事件を引き起こしている、龍支配の空賊のメンバーを捕まえるのが間違いないだろう。
「オイラに任せて。すぐに捕まえてくるよ」
シェンユの目がおかしい。なんかちょっと微笑んでるようにも見える。
コイツに任せると、ギリギリ喋れる状態で引っ張ってきて、取り調べが拷問にかわって、勢いあまって殺してしまうかもしれん……
「いや、2人で行くぞ。相手は虐殺を普段からしてる奴等だ。感情任せで動くと、やられる」
「そ、そうだね」
とりあえず、手頃な獲物がやってこないか、しばらく家の中から通りを見張ってみた。
だが、誰も来ない。5分しても待っても誰も通らないので、こっちから探す事にした。
本当に100名規模の部隊がいるのか?
空を見て分かるのが、煙は町の中央あたりが登っている。なので、燃えてるのもそこだろう。
おそらく、中央広場には人がいる。
町の南を外側にある建物に沿って、東へと移動してみる。
もう少しで、中央広場に繋がる南大通りって所で、2軒先のにある建物の中から声が聞こえた。
女性の声を殺して叫ぶような、息苦しいような声だ。
もしかすると拷問されてるかもしれないと思ったら、作戦を考える前に、シェンユが走って家の窓から侵入しようとした。
だが、何故か。数秒固まった後に走って戻ってきた。
「タ、タ、タ。タツキ。どどどど、どうしよう!」
シェンユの顔が赤い。慌てているように見えるが、本当は怒っているのか?
「なにを見た?」
「お取り込み中だった!」
「お取り込み中? 何言ってんだよ。相手は1人か?」
「1人? 何言ってんだよ。2人だよ。2人でやってたよ」
2人か。でも、まぁ、何とかするしかない。1人の相手を狙いたいが、あまり時間をかけ過ぎるのは良くない。
「俺が突入して気を引くから、シェンユは後から来て行動不能にしてくれ」
「えっ!? あ。う、うん」
なんで、コイツは急に混乱しているんだ?
とりあえず、静かに素早く移動して家の窓のある壁に張り付く。
突入前に、敵の位置や武器を確認しようと思って、窓から中をバレないように覗いた。
見える部屋は広めのリビングのようで、テーブルや椅子や大きなソファーが確認できる。
中央には、2人のリズミカルに動く人影があり、よく見てみると。
小柄の方は、床に両手をついて頬を擦りつけながら苦しそうな表情を浮かべ、高くお尻を上げて四つん這いになっている女性。下半身は完全に露出していて、長い足の脛から下は黒い毛で覆われている。大きく捲れた服は、肩や首と腕しか隠せていない。なので、小ぶりだが確実に存在感を示している2つの胸が、激しく前後に揺れている。そして、息も絶え絶えに、かすれる喘ぎ声を発しているではないか。
もう1人の筋肉質の方は、俺からは後ろ姿しか見えないので、確実性は無いが男だろう。上半身が裸なので、逆三角形の立派な広背筋が確認できる。下半身は膝下まで衣服を下ろしているので、ほぼ裸みたいな格好だ。そして、引き締まった尻を前へ後へと、激しく運動をしているので全身に汗が滴っている。
うむ。これは間違いなく、お取り込み中だ。
シェンユの発言は間違っていなかった。こんな状況で、こんな光景を目にしたら、混乱するもの理解できる。仕方ない。
そして、この光景を俺は見入ってしまった。男の本能なので、これも仕方ないのだ。
「ちょっと! タツキ、何じっと見てんだよ!」
「あっ」
シェンユに後ろから、ど突かれて我に返った。その時に少し飛び上がってしまったので、建物の中にいる相手と目が合った。
鋭く琥珀色の目が俺を捉えた。
暗くて見えなかった。と言うのは言い訳になるだろう。激しいシーンが気になって見落としていた。それが正解だ。
お取り込み中の2人の奥にあるソファーには、黒い大きな生物が寝そべっていた。中型2輪バイクぐらいの大きさがあり、全身が黒い短い毛に覆われていて、少し黄色の縞模様が入っている。しなやかな身体と優雅に揺れる尻尾が、貴族が腕で撫でる猫を連想するが、そんなカワイイものではない。
黒い猫科の生物が起き上がった。
直感的にマズイ! と思った俺は、すぐに覗いてた窓のある場所から離れた。
その瞬間、建物の内側から壁が炸裂して、中から黒い大きな生物が、爪を立てながら飛び出してきた。
あのまま、あそこにいたら、大ダメージを受けてあの生物に押さえつけられていただろう。
「えっ!? 何、アイツ! あんなのいたっけ?」
「その気持ち分かる! 俺も他に気を取られてしまったから」
「タツキのバカー!」
えっ? なんで?
「グルルルル」
牙を見せつけながら唇を振るわせて唸る黒い生物は、丸っこい耳と頬の特徴的な毛があるので虎に見える。
「お前等、動くな!」
黒い虎が破壊した壁の横穴から少女が出てきた。
黒髪に白いラインが入った頭の上には、丸味のある獣耳が生えている。身体を全て覆うトラ柄のポンチョ姿をしており、黒い毛の足と縞模様の尻尾だけが下から出ている。
「まぁだ、捕まってねぇ町の奴がいたのか。せっかく、いい感じに楽しんでたのによぉ~」
不機嫌そうな男も建物の横穴から出てきた。鼻、耳、唇、と顔に多くのピアスをつけている短髪のワルって感じの奴上で、半身は服を着ておらず、腰布を縛り直してズボンを整えている。両腕には幾何学模様のタトゥーがあり、それが胸と肩まで伸びている。
お取り込み中だったのは、この2人だろう。
「オマエ、町の人達を何処にやった?」
さっきの狼狽ていた姿が消えて、ドスの効いた低い声をシェンユが発した。
「何処にって、全員一緒に…… おやぁ? お前等、町の人間じゃねーな? よーし、よーし。なら楽しめるぞ!」
「オイラの質問に答えろっ!」
「って事は、殺してもいい奴って事じゃん! せっかく、上級奴隷を使えるってのに、つまらねー見張りの任務なんで、サボってたんだけどよぉ。こりゃ、ラッキーじゃん!」
奴が左腕をこっちに向けた。腕に描かれているタトゥーが赤く光りだす。
「カゲトラ。殺せ」
「グルルルルガァァアア!」
雄叫びを上げた黒い虎が突っ込んでくる。
俺が素早く反応できた。それとシェンユを狙ってたのもあって、上手く避けれた。
と思ったのだが、足を何かに掴まれて投げられ、俺は1回転して地面に落ちた。
すぐに背後に目をやると、シェンユが掌底を突き出してカウンターを合わせている。だが、ギリギリのところで黒い虎は跳び上がり、シェンユの頭上を越えていく。さらに、そのすれ違いさまに尻尾を振って、シェンユの顔面を2発殴打していった。
大したダメージでは無さそうだが、不意打ちをもらってシェンユは、よろめいた。
俺は起き上がって戦闘体勢を整える。
「タツキ、あいつ普通の獣じゃない」
「分かってる」
今のは俺に対して狙った動きをして、シェンユに対して状況に合わせた動きをした。
戦闘慣れしているし、かなり知能が高い。
あの半裸野郎のタトゥーは妙な形だったから、ただのオシャレと思っていたが、勘違いしてたようだ。
アレは奴隷紋だ。つまり、黒い虎は奴隷獣人って事になる。しかも完全獣化できる強敵だ。
黒い虎は数メートル離れてこちらの様子を伺っていたが、また突進してきた。
と思ったら、右側の建物の壁へと跳んでいる。それを確認できたら視界から消えた。
「タツキ、後ろだ!」
マズイ、背後を取られた。
全力で振り返ろうと身体を動かすが、足が動かない。動かせない! 何かに掴まれている!
上半身と顔だけを捻って、なんとか背後を確認した。すると、信じられない事に、黒い虎の体毛が伸びて俺の両足に絡みついている。
それともう1つ、鋭い牙が並んだ大きな口が迫ってきて、俺の左肩に噛み付くのが確認できた。
「ぐわぁぁぁああ!」
「タツキぃ!」
シェンユが即座に動いて強烈な蹴りを当てる。おかげで黒い虎は俺から離れてくれた。
「タツキ大丈夫っ?」
肩の傷は深そうで、血で服が赤く染まり左腕を血が伝って垂れてくる。だが、すぐに修復が始まったので、10分もあれば元通りだろう。
「ぐぅ。痛いが大丈夫だ。くっそ、見えなかった」
「向こうにある木2本に跳び移って、オイラを避けてタツキの後ろに回ったんだ」
「早いな」
「うん。しかも、普通の獣人じゃない。体毛を伸ばしたり形を変えたりできるみたい。今のオイラの蹴りも瞬時に体毛の盾を作って受けてた。あまり効いてない」
シェンユは効いてない。と言ったが、黒い虎は何故か休憩でもするかの様に、半裸野郎の周囲をウロウロと回り始めた。
その半裸野郎は、信じられない事に、ポンチョ女の子を椅子にして両手をポケット入れて、ふんぞり返っている。
「やるなぁ。簡単には死ななくて嬉しいじゃん! ピンク頭はカゲトラの動きについてこれるのか。オッサンの方は想定外に丈夫だな。普通なら今ので腕が噛みちぎれてるハズなんだけどよぉ」
早い動きで相手を翻弄して、隙ができたところに自慢の牙と顎で攻めてくる。
単調な動きだが、速度に対応できなければ、確実にダメージを受ける事になる厄介な相手だ。
今の俺では対応しきれないが、以前にも、こんな奴と戦った事があるような気がする。
脚力を活かした戦い方。獣らしい跳ねる動き。必殺の噛みちぎる攻撃。
「あっ!」
「タツキ、どうしたの?」
チャイラ怪人だ。この黒い虎の戦い方、アイツと似てる気がする。だとすると……
「倒せるイメージがある」
「おぉ? さっすがだね!」
「シェンユ、協力してくれるよな?」
「もちろんさ!」
どんなに早くても、目で追いきれなくても、攻撃する時は噛み付いてくる。
なら、その時に捉えられる!
「スゲーじゃん! マジかよ! コイツ等は奴隷の中でも2番目に強い双子なんだぜ? んで、カゲトラに勝てるってか? 本気か?」
奴が立ち上がった。
おかげでポンチョ女の子が解放された。
ちょっと、可哀想だったから良かった。
「いいじゃん。いいじゃん。まだ楽しめそうじゃん!」
今度は右手をこっちに向けた。タトゥーでは無く、変則デザインの奴隷紋が赤い光を発していく。
まぁ、最初から分かってた。頭の上の丸い耳と縞模様の尻尾を見た時から、奴隷獣人ってのは。
「エーコ、お前も戦え」
「ニャー!」
可愛らしい猫みたいな雄叫びとは裏腹に、その姿は獰猛的な形に変わっていく。
全身が黒い毛を覆われ、琥珀色の鋭い瞳と恐ろしい牙が現れ、中型2輪バイクほどの大きさに肥大化する。
まさかの、こっちも完全獣化できる虎獣人だったようだ。
「最悪だ……」
「マズイね。コレは……」
チャイラ怪人と同等の強さがある奴隷獣人が、2匹になってしまった。




