第139話 私はドラグマン・レッドだ!
2章でやりたかった4つの事。その2です。
たぶん、しばらく主人公ではない目線で話が進みます。
【ユウツオの定食屋兼寮で、戦闘準備をする冒険者育成学校2年生の副会長】
クソがっ!
なんだって、こんな日に怪人なんて現れるんだよっ!
いや、イライラしても仕方ない。この世の中は、唐突に危険が迫ってくる。こういうのは当たり前の事だ。
8年前だって、そうだった。姉と買い物に行ってる普通の日だったのに、突然、空にドラゴンが飛んできて、狙われたのはユウツオでは無くて、大魔女サヤの弟子の村だったけど、巻き込まれて被害を受けたのは私だけでは無い。
「ジンリー? ジンリー、聞いてるのか?」
「あっ。悪い! なんだっけ?」
「そういう所だよ。時々、話を聞いてないからタツキと同じって言われるんだぞ?」
「それは、気をつけないといけないなぁ。タツキと同じはマズイ」
「敷地の入口にバリケードを作るか? どうする? 寮生の配置はどうするか?」
「うーん。そうだな」
怪人の情報が少ない。奴等は欲する物を頭部に表現するから、ひと目でも見れれば、少しは動きやすくなるんだけどなぁ。
「入口にバリケードはやめとこう。逃げてくる人の邪魔にもなる」
「やっぱ、そうだよな」
「建物の入口の前に少し作ろう。中には重症者をかくまうだ。中のテーブルも椅子も全部外に出して、広い空間を確保しよう」
「なるほど、それは良いな」
「とりあえず、先にそれをやろう」
「了解だ」
私は戦闘力では他に劣る。ウォンリーにもシェンユにも劣るハズだ。
けど、私の強みは、魔闘気による治癒だ。この術を使える人は100人に1人ぐらいの才能で、こういう事態では、治癒を活かさない手はない。なら、その為に最善を尽くさないと。
我儘亭の扉を全開に開くと、ちょうどチェグチェグが階段から降りてきた。
コイツらは金持ち貴族を漁ったり、コネを作ったりと卒業後に楽に暮らす事ばっかり考えているが、才能はあるし、情が無い奴等でもない。頼れる仲間だ。
「ナランチェグ、サルンチェグ、ここに広い空間を作る。椅子とテーブルを外に出すぞ! 入口に立ってるから私に渡してくれ」
「分かった。サルンチェグ、私が奥に行く」
「了解」
「私達は、何かする?」
「ミンレイさんは、お湯を準備しておいて、あと我儘亭を放棄するかもしれないから、食糧と水を鞄に詰めて。フェイギョクとポーランはミンレイさんの手伝いをして!」
あとは配置を考えないと。戦闘力的にはウォンリーとシェンユを入口に配置して、そのサポートにナランチェグとサルンチェグか。
私は中で治癒に徹したいな。
まずは椅子をどかさないと、話にならんな。急がないと。
「?!」
なんだコイツ? 今、上から降ってきたぞ?
「ちょっと、ジンリー! 何止まってんの!」
「マズイっ! なんか来た!」
「えっ? もう怪人がきたの?」
「いや……」
そんなに広くない我儘亭の庭の中心、敷地入口と店の入口の間。私とウォンリーの間に謎の男が立っている。
頭は全て龍面で覆ってやがる。顔どころか表情も読めない。半裸で下半身だけは身体のラインが分かる程のキツいパンツか。股間と尻だけに防具を装備してるなんて……
こんな変な装備スタイルは見た事も聞いた事まないぞ?
「怪人というよりも変人だ!」
「変人?! 何言ってるの?」
「私も何言ってるか、分からん」
ウォンリーは、もう剣を構えてるな。さすがだ。
それにしても、なんなんだコイツ? 動かないけど、怪人なのか?
「おい変人! てめぇ、何者だ?」
「私か?」
おっ? 喋れるのか。
「お前以外に変人がいるかよ!」
「私はぁ、変態では無い!」
「……」
変態って言ってねーよ。
というか、気にしてるなら、そんな格好でウロつくなよ!
「私はドラグマン・レッドだ!」
なんだって?!
「ジンリー! コイツ斬るぞ!」
「ウォンリー、待て!」
コイツが、あの噂の?
そういや、話によると変態的な格好してるんだった。そして、素手で1人でサンダイルを倒す男だ。
「私は急いでる。剣を下ろして、そこを通してもらえるか?」
「何処に行く気だ? その変な頭は怪人だろ! 仲間の所に行く気だな!」
「ウォンリー。行かせてやれ! 名を聞いたろ? 噂のレッドらしいぞ」
「本物か?」
「どっちだって、いいさ。こんな奴に構ってるヒマは無い! 我儘亭の敷地から出て行ってくれるんだから、ありがたい。出て行ってもらえ!」
なんとなくだけど。本物だと思う。
大砂漠の一件依頼、全く話を聞かなかったのに、こんな事態にわざわざ変態衣装でユウツオに来るなんて物好きは、なかなかいないだろ。
コイツが本物なら期待できる。
「行ってくれ」
レッドはゆっくりとウォンリーが構えてる敷地の出口に向かって行くが、そこで足を止めて振り返った。
「ここは大丈夫だな?」
「どういう意味だ?」
「俺は、これから助けを求める声に応える。目指す場所は、ここで問題ないな?」
そういう事か。
コイツは、かなりの人数を助けけるつりなのか? 何人がここに来ても問題ないのか? 心配してるようだけど、相当の自信があるように見える。
「当たり前だ! ここを何処だと思ってる? 冒険者育成学校の優秀な生徒の寮だぞ! 寮の長は、あの両断剣のセンギョクだ! 安全な場所に決まってる!」
こっちも大口を叩かせてもらうか! だから安心しろ! だから助けてこい! ユウツオを守ってこい! お前が本物なら。
「そうか。なら、頼むぞ」
レッドは駆けていった。
なんか、すげぇダサい感じの奴だったけど、何故か誠実さが伝わってる奴だったな。
「アレが噂のドラグマン・レッド……」
「噂通りの変態的な格好だったね。アレで、本当に強いんだろうか?」
振り返るとナランチェグとサルンチェグが顔を出している。
「見てたのか。さぁ、作業に戻るぞ! テーブルと椅子を持ってきて」
「うぃー」
「そういや、タツキとシェンユは、遅いな」
「大変だぁぁぁああ!」
今度はなんだ?
「みんなぁ! 大変だよぉぉ!」
噂をすれば、シェンユが階段から大声を出しながら降りてきた。
まったく、なんなんだよ! 今は緊急事態だってのに!
「どうした?」
「タツキがいないだ! 部屋の扉が開いてて。中にいないんだよ!」
「なんだとっ!」
まさか、アイツ!
単独でセンギョクさんの手伝いに行ったんじゃねぇのか?
【英雄広場の建物の瓦礫の下で、仲間を助けようとする冒険者育成学校で最年少の双子の男の子】
「シャンウィ…… 俺たち、死んじゃうのかなぁ?」
「しーっ! 静かにしろっ! 大丈夫だ。俺の言う通りにしてろ」
なんで、なんで、突然、怪人が現れるんだ? どうしてB級以上の冒険者が来ないんだよ。ユウツオには冒険者の街だろ?
最初にやられたメスの奴隷獣人の他に奴隷使いは来ないし。今、戦っている3人もD級みたいだし、そのレベルでは、あの怪人には勝てない。
「足は抜けそうか?」
「ダメだ。この大きな柱がどかないと3人とも出られそうにない」
「どうする? シャンウィ? シェンファが魔闘気で3人を強化してみる?」
「やめておこう。あの怪人は、強い相手に向かっていってる。最初に魔闘気を使った時に、こっちに向かってきてただろ? 犬獣人が奇襲してくれなかったら危なかった。今は魔闘気は使うな」
変な怪人だ。怪人なんて全部、変な奴等と決まってるけど。
まず、突然現れた。まるで湧いて出たかのように。
そして、たぶん、怪人にしては、そんなに強く無い。D級ぐらいの冒険者を何人も行動不能にしてるけど、圧倒的な戦いではない。
あと、何故か人間を殺さない。動かなくなったら興味がなくなるみたいだ。
この瓦礫の下で、大人しくしてれば助かる可能性はある。
けど、もし、この場に戦える人がいなくなったら……
もしかして、アイツの興味が俺等に向くんじゃないのか?
「元々は獣人なのかな? アイツ」
「そうかもな。頭がデカい犬獣人みたいな見た目だな。頭がデカ過ぎて、サンダイルみたいだけどな」
「シャンウィ」
「シェンファ、どうした?」
「3人の冒険者が動けなくなった。怪人がウロウロしてる」
「皆、静かに。気配を消すんだ」
ここにいるのは、瓦礫に足を挟まれて動けない3人とシェンファと俺だ。
一緒にいた他の5人は英雄広場の裏通りに逃げたけど、大丈夫だろうか?
瓦礫に埋もれて、俺達の姿は向こうから見えないだろうか? こっちから、瓦礫の隙間から見える。
隙間から見える、その姿は犬獣人に近い。
怪人は頭部で特徴や傾向が分かる。たぶん犬獣人と同じぐらい鼻が効くと思う。
よく分からないのは、額にある大きな黒い円盤だ。かなり硬いみたいで、あの円盤のせいで頭部を破壊できないみたいだけど、アレは何の意味があるのだろう?
単純に頭を破壊されないように、防御の意味合いで存在するなら、戦略的すぎる。
怪人ってのは、どいつも本能で行動していて、戦略なんてもんは持ってないハズ。
「うるるるるがぁぁぁあ!」
気づかれたか?
怪人って、なんなんだよ!
身体の半分ぐらいある大きな頭で、どうして二足歩行ができるだ? どうして、頭部以外の傷は再生するんだ? どうして人を襲うんだよ!
「シャンウィ。どうする? こっちに向かってきてる」
「俺が囮になる。魔闘気を全力で出して中央広場に走って行くから、その間に、なんとか瓦礫から出るんだ」
「ダメだよシャンウィ!」
「シェンファ、俺に強化をかけてくれ。俺が時間を稼ぐ」
「出来ない! シェンファも一緒に行く!」
「お前は残って3人を助けるんだ。こっちに気づいてないけど、ギルドの中に人がいる。助けを呼んでくるだ」
「嫌っ! 1人にしないで!」
「2人とも黙って!」
「誰か来てるぞ!」
地面と瓦礫の間にある隙間を見ると、すぐ目の前に足があった。黒くて血走っている怪人のものではなく、人間の裸足だ。
「今、出してやる。瓦礫に気をつけろ」
優しい男の声が聞こえた途端、俺達を此処に縛り付けていた巨大な柱が上昇していく。
俺が魔闘気で強化して、さらにシェンファの魔闘気で強化を重ねても、持ち上がらなかった柱が。
瓦礫が崩れて砂埃が巻き上がる中、柱が上がるにつれて、声の主の姿がだんだんと見えてくる。
足下は何故か裸足。そこから上に防具は無く、膝下から腰にかけて黒いかなり狭そうなズボンを着ているが、上半身には服も防具もなく、股間にのみ1枚の防具があるだけという異様さ。何より変なのは、頭部を完全に覆っている赤い龍面をつけている事。
どう見ても変人なんだけど、太陽の光を背に、柱を肩に担いで立っている男は、カッコよく見える。
「大丈夫か?」
「あ、ありがとう……」
「おいアンタ! 後ろ!」
注意したが、間に合わない。
巨大な口が。子供ならひと口で飲み込めそうな上顎と下顎が、龍面の男の胴体を挟み込む。
上半身と下半身が、真っ二つになるかと思ったけど、そうはならないで、拳ほどの牙が突き刺さるだけで済んだ。それでも、かなりの負傷のハズ。
なのに龍面の男は、噛んできた怪人の上顎を、左腕と自身の脇腹で挟み込んだ。
「さぁ、これで大丈夫だ。みんな怪我はないか? 走れるか?」
「俺達は大丈夫です。それよりも、血が大量に出てますよ!」
「私は問題ない! 我儘亭は分かるな? そこが避難場所になっている。今のうちに、そこまで走るんだ!」
「ぐるるるるるうううう!」
「うわっ」
怪人が暴れて、男の両脚を鋭い爪で切り裂く。血が吹き出すけれど、男は動かない。
「安心しろ! コイツはこの場から動かさない! さぁ早く行くんだ」
自分は傷つきながら、俺達を救う事を優先するなんて、なんてカッコイイ人なんだ。
「シェンファ、先に行け。念の為に3人を強化してから走るんだ」
「シャンウィは?」
「大丈夫。すぐに追いかけるから」
「分かった。皆、行くよ!」
今度は行ってくれた。状況的に安心したのか? シェンファは普段は強がってるクセに、こういう時に俺と離れるのを嫌がる。
「少年も行くんだ」
「はい。あの、名前を聞いてもいいですか?」
「私はドラグマン・レッドだ!」
この人が。あの噂のレッド……
誰かを助ける為に、自分の犠牲を気にしないなんて。カッイイ人だ。
「レッドさん、あそこの瓦礫の下に、たぶんメスの犬獣人がいます。1番最初に俺達を助けようとして戦ってくれた人です。奴隷獣人なんですが……」
「任せろ! 人間も獣人も関係ない」
「お願いします」
あの獣人は奴隷だけど、助けてあげたい。俺達を助けようとしてくれた。
魔闘気で自身を強化する。そして、先に行った4人に追いつけるように走る。
もしも、怪人がこっちに来るなら、俺が時間を稼ぐ。レッドが他の人を助けられるように。
ドラゴンと戦い、皆を守って死んだ、父さんと母さんのように、誰かを守れる冒険者になるんだ。
ドラグマン・レッド。誰かを守る為に戦う謎の男。
あんな、カッコイイ人がいたなんて知らなかった。




