第138話 怪人だぁぁあ!
「うぅ…… 頭が痛い……」
ベッドで丸まっている俺は、昨日のシャン・レン=ワン邸での酒で二日酔いをしてしまったようだ。
そんなに、たくさん飲んでいないけど、何故こんなに怠いのか。おそらく、あの果実酒のような物だろう。
ビール好きで、いくら飲んでも大丈夫な人が、ワインを飲んでデロデロになる感じだと思う。
あの酒は、俺には合わなかったようだ。
朝食は食べに行かなかったけど、センギョクさんは怒ってないだろうか? ちょっと水を貰いに行ってこようかな。
廊下に出ると、下から少し騒がしい声が聞こえてきた。頭を抑えながら階段を降りると、シェンユとジンリー先輩とウォンリー先輩が何かやってる。
「おはようございます」
「あっ! おはようタツキ。やっと起きたの? オイラなんて、朝から手伝ってるのにぃ~。まったく、寝ぼすけだなぁ~」
「昨日はさぞかし、美味い酒を飲んだんだろう。あの4大貴族様のパーティーだもんな。私に土産で一本ぐらい持って来てくれても良かったんじゃないか?」
「ジンリーは飲み過ぎ。昨夜は俺と飲んでただろ」
ジンリー先輩は昨夜、飲んでたのか。この人は、本当に酒に強い。酔っ払うけど、次の日にはケロっとしてる。
「おう、タツキ起きたか。遅ぇ~ぞ!」
「センギョクさん、すみません」
「何か食うか?」
「本当に、すみません。少し食べたいです。あと水も欲しくて」
「座ってろ」
センギョクさんは怒ってるというよりは、呆れているみたいだ。
入口付近のテーブルとその隣は、シェンユとジンリー先輩とウォンリー先輩が作業に使っているので、1番奥のテーブルに座る。
「3人は何してるんですか?」
3人とも俺を見ると驚愕の顔をした。
「ちょっと。お前、本気か?」
「タツキが忘れっぽいのは、知ってるけど。オイラ、昨日もダリアの所で話したよ?」
「ジンリーよりも酷いな」
「コラ。私は、そんなに忘れっぽいないぞ!」
ヤベェ! 何か大事な事を忘れてるみたいだぞ。くっそ! 二日酔いしてる場合じゃねー! 俺の頭ぁ~、動け~、働け~!
「タツキ。今日は龍滅祭の冒険者担当の日だったでしょ! タツキの知り合いの子達も来るんでしょ? はい、水」
後からミンレイさんが来て、水を乗せてたトレイで頭を、軽く小突かれた。
忘れてたなぁ~。言われたら思い出したけど、これって特殊能力のデメリットなのか?
という事は、皆さんが森に狩りに行くようなフル装備なのは、冒険者役をやる為か。そして、今大量の飴を3個づつ小袋に分ける作業をしているのは、子供達に渡す為か。
「すみません。俺もすぐに準備します」
「と言われてもねぇ~。オイラ達の所は、ほとんどの準備が終わっちゃうよぉ~」
「外にチェグチェグとポーランとフェイギョクがいるから、そっちを手伝ってきてくれ」
そうか。外も何かしら準備をしてて、皆様総出で作業してたのか。
これは、マズイなぁ~。
「たぶん、外もやる事ねぇと思うぞ。ほら、とりあえず食ってから、自分の準備をしろ」
センギョクさんが用意してくれた遅めの朝食は、名物スープにプレーンまんが、ヒタヒタにされてて、少し濁ったどっかで見た事ある飲み物が付いていた。
それが二日酔いに効くのは過去に体験済みなので、一気に飲み干す。
そしてヒタヒタの柔らかく食べやすいプレーンまんを、ゆっくりと食べる。センギョクさんの優しさが伝わってくるような気がする味だ。
「俺もな。若い頃に酒で失敗した事は、たくさんある。けどよぉ、タツキ。お前もう30だろ? もう、そろそろ大人としてな」
「センギョクさんダメだよ。酒は美味いんだ! いくつになっても、やめられねぇ」
「ジンリー黙ってろよ。いや、お前も今から酒の飲み方を考えてた方が良いぞ!」
「オイラは一生飲まないね。美味しさを全然わかんないよ」
そういや、シェンユは酒飲まないな。この世界に年齢による飲酒制限ってあるのかな?
「ちょっと~!」
店の扉が少し乱暴に開けられて、不機嫌そうなナランチェグ先輩が顔だけを覗かせてきた。
「そろそろ外に出て欲しいんですけど~! もう最初の子が来てますが?」
「おっと! いけねぇ、俺も準備しないとな。ミンレイ、すまんが、後片付けを頼む」
「分かってますよ。タツキも早く食べて準備して」
「あ。すみません」
「ウォリー、シェンユ、1人ひとカゴ持てよ。外に出すぞ~。あと、木剣を持つのわすれんなよ!」
なんか、慌ただしくなってきた。
胃と相談しながら、俺も急いで食べ終えて、ミンレイさんにお礼を言った。それから2階に駆け上がったが、途中で重大な事に気付いた。
俺って、装備ないじゃん!
大平原横断の時も普段着で行ったし。決闘でも木刀をフォルストから借りたけど、防具とか付けなかったし、そもそも持ってない。
訓練してくれてるノアの戦闘スタイルが無手だったし。まぁ、アイツは怖しい装備を持っているんだが…… 俺自身もヒーローは拳で戦うのがカッコイイと思ってる。
すぐに方向転換し、階段を降りて外に出た。
朝起きてから着替えたので寝巻きではない。大丈夫だろう。
「怪人だぞ~!」
「だぞ~!」
ちょうど2人の男の子が爪を立てるポーズをチェグチェグ先輩にしてる所だった。2人の先輩は持ってる小さな木剣で、男の子を小突いて「日々の恵みに感謝」と言ってセンギョクさん手造りのアメを渡している。
「タツキ! こっち、こっち」
「おう」
シェンユが呼ぶ方へ行くと、ノアが作った外用テーブルが入り口前に移動されてて、アメ置き場になっている。
「はい、コレ」
「ありがとう。可愛い怪人かドラゴンが襲ってきたら、この木剣で小突いてやれば良いんだな?」
「そう、そう。そのあと感謝の言葉を言ってアメをあげてね」
「了解」
なんかハロウィンのトリックオアトリートみたいだな。
「それにしても、今回のアメは前よりもデカくない? センギョクさん気合い入ってるなぁ~」
「ジンリー先輩は、前も参加した事あるんですか?」
「あぁ。私はユウツオ生まれのユウツオ育ちだからな! 我儘亭のアメは美味しいって子供達からは人気なんだぜ?」
そうなのか。他の所って何を出してるんだろうか? ちょっと気になる。
「ドラゴンだぞ!」
「ドラゴンの群れだぞー!」
「タツキさーん。シェンユさーん。来ましたよぉ!」
見た事ある龍のお面をした子供達が10人ぐらい来たと思ったら、シャンウィ君とシェンファちゃんのいる孤児院の子供達だった。
「よっしゃ! 俺が追い払ってやるぜぇ? さぁ、この木剣に小突かれたい奴は、かかってきな!」
「うえ~。タツキは弱い者イジメが好きなのか? 決闘では負けたくせに?」
「相手が子供だと、気合い入ってるなぁ~。決闘も、そのぐらい頑張って欲しかったわぁ~」
「あ、あの時はすみません」
チェグチェグ先輩は決闘で俺に賭けててくれたらしく、大負けをしたので、ちょくちょく、決闘ネタで弄ってくる。
俺も精一杯頑張ったんだけどなぁ~。
人数が多いので、我儘亭の寮生全員で小突いて、アメを渡してると準備を終えたセンギョクさんが出てきた。
「んん? 今回は少ねぇな? お前等どうしたんだ? 病気でもしたのか?」
「センギョクさん。今回は2組に分けたんです。もう1つの組は先に倉庫区画の裏に行ってから、こっちに来ますよ。俺等は、これから倉庫区画に向かいます!」
「フォルストの所だな?」
「そうです!」
フォルスト? アイツ何かやってんのか?
「ねぇねぇセンギョクさん。フォルストって、どういう事? オイラ何も聞いてないよ?」
「アイツ等クランを建てただろ? だから今年は龍滅祭に大きく参加するらしい。獣の串焼きを配ってるそうだ」
「へ~。ちょっとオイラ、行ってみたいかも」
「後で交換して休憩とるから、その時に行ってくるといい」
「フォルストさんは、我儘亭には負けないって言ってましたよ! わざわざ孤児院に宣伝に来ていましたから」
「俺のアメには絶対に勝てん!」
なるほどぉ~。それで今回のアメはデカいのか。フォルストがねぇ~。まぁ、子供好きみたいだし、むしろ、何故、今までやってなかったのか? と思わなくもないな。
「それじゃ。俺達フォルストさんの所に行ってきます! ありがとうございましたぁ!」
「「ありがとうございました!」」
「おう! フォルストに頑張れって言っておけ」
それからしばらく尋ねてくる子供を小突いてアメをプレゼントするという事をした。
お面か被り物をして来る子供達は様々で、兄弟だったり、親子だったり、友達どうしだったり。
3人ほど大人もやってきた。子供頃に貰った我儘亭のアメが忘れらない。との事で、ちゃんとウンコの被り物をして訪ねてきた。センギョクさんは、説教しながらも、ちゃんとアメを渡していた。
だんだんと来客が減ってきて、お腹もすいてきたなぁ。と思ったら、2時間も経過していた。
「おーし! そろそろ休憩を挟むか。この時間帯は、皆メシ食ってるだろうから来客は少ない。お前等もどっかでメシ食って1時間ぐらいしたら戻って来い」
「えぇ? じゃぁ、今日は我儘亭からの昼食は無し?」
「悪いな。アメを作るので手一杯だったんだよ」
「そんなぁ~」
「えぇ~」
「まいったぜ。まったくぅ~」
お前等センギョクさんの料理好き過ぎるだろ。他よりは美味いけどさ。飽きないのか? たまには違う物食べたいとは思わんのか?
「安心しろ。今日は俺の奢りだ! 金を渡すから好きなもん食ってこい」
「「「やったぁぁあ!」」」
そっち!? 出費の問題なの?
「怪人だぁぁあ!」
せこい寮生が喜んでたら、新たな客が来た。
中年ぐらいのオジサン3人である。まさかの子供では無いアメくれオジサンである。しかも今回は、お面も被り物もしてない。
「なんだ? ちょっと、オッサン達さぁ。さすがに考えよう? ここは子供向けにアメを配ってるんだよ?」
ジンリー先輩は厳しい。
「違う! 本物の怪人だ」
「センギョクさぁん! いるかぁ!」
新たに男女2人組がやってきた。冒険者っぽい格好をしている。汗だくで息が荒く、そして所々に血の痕がある。
「英雄広場で怪人が出現した! すまんが、手を貸してくれ!」
「本当なのか? 英雄広場の前にはギルドがあるだろう? 冒険者は?」
「龍滅祭で、中央広場に行ってる奴が多くて。残りも貴族区画前の防衛に駆り出されてしまった」
「クーは?」
「ギルドマスター達は、任務でユウツオの外に出てるらしい」
「なんて事だ。すぐに行く!」
「フェイギョク! 俺の宝剣を持って来い!」
「分かった!」
なんてこった!
どうやら本物の怪人が出たみたいだ。しかもユウツオの街中に。
これは、なんとかしないと! 今日は多くの子供が街を出歩いている。被害が出ないうちに、どうにかしないと!
「センギョクさん!」
「タツキ。ここを守れ」
「えっ?」
「ジンリー! ウォンリー! お前らがリーダーだ!」
「「はい!」」
「ここを非難場所とする。俺が街の人々をここに誘導するから、ここを皆で死守するんだ! どうしようも無くなったら、裏から回って北の隣村に非難だ。怪我人もいるかもしれん。ジンリー、お前が頼りだ。任せるぞ?」
「おう。任せろ!」
「センギョクさん。宝剣よ」
我儘亭から大剣を持ってきたのはミンレイさんだった。
「もう、引退したんだから無理しないで」
「分かってる。怪人とは戦わねぇ。街の人々の人命救助に徹するつもりだ。ミンレイもここを頼む」
「センギョクさん! オイラも行くよ」
「センギョクさん。俺も行きます!」
「ダメだ! お前達はここを守れ。シェンユの力が必ず必要になる。タツキ、お前が1番年長だ。経験値はジンリーやウォンリーが上だが、いざとなったら皆の支えになるんだ」
そうか。俺は経験値的に無理だと判断されたか。でも仕方ない。
相手は怪人だ。誰だって力不足になるだろう。
「分かりました」
「うぅ~。でも、必ず帰ってきてよ!」
「分かってる」
センギョクは大剣を背中に担ぐと、男女の冒険者と一緒に英雄広場の裏側に向かって行った。直接は対峙しないで、非難誘導をするつもりだろう。
「タツキ! ボケっとするなよ。お前、装備はそれで良いのか? 他に使える物は持ってないのか?」
「ウォンリー先輩、俺はこれで」
「いいか! 全員もう一度装備を確認するだ! 使えそうな物が部屋にあるなら持って来きてくれ!」
どうする?
どうしたいい?
いや…… やる事は決まってる。
「ウォンリー先輩、ちょっと部屋を一回見直してみます」
「あぁ、行ってきな。落ち着いてな」
「ウォンリー、お前の装備は大丈夫か? 大丈夫なら、どうするか考えよう」
「了解だジンリー」
チェグチェグ先輩達も部屋に戻るみたいだ。
ポーラン君は、怯えているみたいだ。ミンレイに励まされている。
フェイギョクさんも自分を鼓舞して、気合いを入れている。
俺も急いで部屋に戻る。
俺の後からシェンユも階段を駆け上がってきた。部屋に取り物があるみたいだ。
「タツキ、絶対に我儘亭を守ろうね!」
「俺はユウツオを守るよ!」
自室の前で決意をかけあって、それぞれ部屋に入った。戦闘準備をして、皆すぐに一階に戻るだろう。
けど、俺は戻らない。
誰に、何を言われても構わない。
まずは、部屋に鍵をかける。そして襖を軽くノックして声をかける。
「ノア4、緊急事態だ。ユウツオの街中に怪人が出たらしい。俺は変身して、どうにかするつもりだ。いちおうノア3に説明しておいてくれ」
返事を待たずに服を脱ぎ捨てる。
ベッド下に隠しておいた黒い下地で自分で赤い模様を入れたレギンスのような物を履く。シェンユから前に教えてもらった伸縮性の高い服だ。
アクタースーツみたいになるように小さめを買ったら、長さも足りなくて膝下少しまでしかない。
あとは、どうするか? 考えて無かったな。上半身は裸でも良いが、顔は隠したい。
「マスター。コレヲ」
振り返ると、いつのまにか襖が開いていて、ノア4が床から顔と手を出している。そして、その掌にある物を見て、感動してしまった。
赤い龍面だ。
両眼が1つに繋がっていて、黒いバイザーが付いている。さらに、顎部分には硬い物が付いていて、その先にある両耳には3センチぐらいの円柱状の機械っぽいパーツが付いていて、角のような突起物が後方に出ている。
完璧だ!
「顔ニ当テテ下サイ。ソシテ、コレデ後頭部カラ挟ンデ下サイ」
別の半球状のパーツを受け取り、言われた通りにすると、音を立てて龍面と別パーツが1つになり、ヘルメットのように俺の顔を覆った。
完璧すぎる……
「アト、コレハ、ノア3カラデス」
「これは?」
「灯鱗ヲ複数枚重ネテ作ッタ股間ヲ守ル、プレートアーマート、オ尻ヲ守ル毛皮ト、ソレラヲ装備スル為ノ、ベルトデス」
ありがたい。けど、ノアは、そんなに俺の股間が心配なのか……
装備してみると、全体的なシルエットはヒーローというよりも、蛮族っぽくなってしまった。
「マスター。押入れノ上カラ天井ニ上ガッテ下サイ」
「お、おう」
言われた通りに天井に行くと、立てる程の空間があり、目の前にハシゴが見える。
「ハシゴガ、見エマスカ?」
「あぁ。見えるぞ」
「登レバ、屋根ニ出レマス。ソコカラ向カッテ下サイ」
「そうなのか! ありがとう」
ノアめ。なんてもんを作ってんだ。
「ノア3号機ニハ連絡シテオキマス。私モ、可能ナ限リ、サポートシマス」
「それじゃ、行ってくる」
「御武運ヲ」
パメラさんみたいなのは、もう御免だ。必ずユウツオの人々を守ってみせる!




