第137話 貴女とは話したくないわ
「ジョノ、連れていきなさい」
「はっ? いや、それは出来ない」
「どうして? 私は、アズンさんにヒルデを会わせる為に招待したのよ」
「どうして。って言われても、俺はタツキ氏とシェンユ氏を呼んでくるように言われている。普段なら、まだしも、今、この場ではユウ=シャン・ギ=オウの使用人としての立場がある。主人の要望に応えなければいけない」
ジョノは普段はユウの友人として振る舞ってるが、今日はしっかりと使用人の務めを果たしているようだ。
「ダリア頼むよ。理解してくれ」
「貴方こそ、理解すべきじゃないかしら?」
「へっ?」
「普段なら、まだしも、今、この場の私を呼び捨てにするとは、いい度胸ね」
「あ。すみません。ダリア様」
おぉ。ダリアさんも今日はスーパー大貴族モードだ。ちょっと俺も気をつけよう。
「それに、私の立場があるわよ? シャン・レン=ワン家の血を引く私が要望してるのだから、ヒルデも連れて行きなさい」
「うっ ……なるほど」
「大丈夫よ。何かあればタツキが責任をとるわ」
えぇ~!? そうなります?
「分かったよ」
「ジョノさん、ありがとうございます。ダリア様も、ありがとうございます」
「連れて行くだけ。だからな?」
「構わないわ。そこから先はヒルデ自身が、頑張る事よ」
ダリアさんが、ヒルデさんの為に行動してる事に、おそらく全員が驚いただろう。特に魔女教団を嫌っているトゥーイ氏は、終始、口が開いたままになっていた。
「ほら。ユウが待ってる。着いて来てくれ」
ジョノについて行き、パーティー会場の右奥に向かうとユウと綺麗な女性2人が談笑していた。
「ユウ連れてきたぞ」
「ジョノ、ありがとう…… 3人?」
「ダリア様からの指示だ」
「そうかよ。なら、仕方ないのか」
「まぁ。まぁ。ユウ、俺を待ってたって? 学校でいつも会ってるじゃないか? 年末休み程度で寂しくなったのか?」
「違げーよ! 姉貴にタツキを紹介したくてな。本当はノアさんも紹介したかったけど、ワナン国に行ってるなら仕方ない」
「初めまして。貴方がタツキですね。ユウから、よく話をきいてますよ。私はアズン=シャン・ギ=オウです。よろしくね!」
美人さんの1人はユウのお姉さんだった。肩までの黒い髪に大きな丸メガネをしていてユウと似てる。シェンユと似たカンフー衣装のようなズボンスタイル。色が黒なので、スーツ姿の仕事のできる女性って感じに見える。
握手を求めてきたので、俺も社会人らしく背筋を伸ばして、応じる。
名刺交換の文化は無いよな? 俺は持ってないぞ。
「サトウ=タツキです。この歳で冒険者を目指しててユウとはクラスメイトです。いつも話相手になってくれて、歳の差を気にしないでくれて助かってます」
「あら。大人な対応ですね。よければ歳を聞いても?」
「30歳です」
「タツキ言うなよ」
「なんで?」
あれ? アズン氏は握った手を離さない。
「奥さんは?」
「えっ? えーっと、独り身ですが?」
「あら~! 良いわね」
「姉貴。俺の周りの人は、本当に辞めてくれ」
「いいじゃない。私の自由でしょ?」
「あの~。なんでしょうか?」
「将来は冒険者で、エクシィにも通じていて、歳も近い。顔も悪くはないわね。どう? 私の夫にならないかしら?」
「えっ? えぇ~!?」
握手してた手を振り解いてしまった。
俺を守るようにシェンユが前に出てくれた。けど、ちょっと驚いただけよ? 大丈夫よ?
「タツキ、気にしないでくれ。姉貴は俺の8つ年上なんだけど、婚期を逃してて、少しでも良いと思ったら、手当たり次第なんだよ」
「ユウってオイラと同じ歳だっけ?」
「18だよ。シェンユやダリアよりも2つ年上になるな」
「そうなんだ。オイラより年上って、知らなかった」
俺も知らなかった。
という事は、お姉さんは26歳か。結婚するには適年じゃないのか? この世界の婚期っていつなんだろう? 俺は間違いなく逃してる部類なんだろうな。
「凄い髪色の君は?」
「はじまして。オイラはシェンユです。ユウの友達で、エクシィもやってます。上手くは無いけどね」
「へぇ。貴方は独り身かしら?」
「姉貴、やめてくれ」
本当に見境ないな。
「えっと。はじまして、私は」
「貴女とは話したくないわ」
えっ?
なんだって? そんな…… 目の前にいるのに拒絶するというのか?
「アズンさん! ダリア様が許可してるんですよ? ヒルデさんとシャン・ギ=オウ家が話し合うように、この機会をくれたのです」
「アズン様、話す必要はありません!」
もう1人の美人さんが、前に出てきた。長い黒髪を2つ三つ編みにして、身長は低くて、白黒のチャイナ風のメイド服を着ている。
「貴女は?」
「シズ=リバウェル=オウと申します。アズン様の御世話をさせて頂いております」
「そうですか。なら、ちょっと下がってもらえないか? 俺はアズンさんと話をしてるんだ」
「アズン様は、拒否しました。貴方こそ下がりになって頂けませんか?」
「貴女は彼女の覚悟が分からないのか? 歩み寄ろうとしているのに、この無益な歪み合いを無くそうとしているのに」
「タツキ。落ち着けよ。魔女教団なんだぞ。仕方ないだろ?」
「仕方ない? ユウも、そんな事を言うのか」
「俺達、シャン・ギ=オウ家は、コイツ等に多くの損失をさせられたんだ。このユウツオでエクシィの大会を開けなくなったのもコイツ等が、やらかしたんだぞ」
「それは、分かってるよ。でも、魔女教団ってだけで全ての人を判断するのは、おかしいと思う。言葉すら交わさない。なんて…… そしたら、どうやって和解していくんだ?」
「タツキ。オイラ達が下がろう? 大声出して、ダリアちゃんに迷惑かけるのは良くないよ」
シェンユに肩を捕まれたが、俺は動く気はない。ここで引き下がる訳にはいかない。
気まずい空気が流れる。全員では無いが、周囲の人達がこっちを見ている。
すると、会場が少しどよめいた。
隣を見るとヒルデさんが、かがんでいる。腰を下ろして右膝を床につけて、両手も床につけている。
クラウチングスタートの一歩手前か、騎士が忠誠を誓う時の姿勢に似た状態だ。
「タツキさん、ありがとうございます。ですが、良いのです。私が間違っていました。順番が逆でした」
「ヒルデさん?」
ヒルデさんは、頭を下げた。
「シャン・ギ=オウ家、並びに親族の皆様。これまで魔女教団がしてきた数々の無礼をお詫びします。申し訳ありませんでした」
「えっ? 私に謝罪? 魔女教団が?」
アズンさんが驚いている。
どうやらヒルデさんのポーズは土下座のようなものみたいだ。
「私達、魔女教団は変わらなければならないと私は考えいます。その為に御迷惑かけた方々に改めて謝罪を行い、これから良い関係を気づく為に、対談させて頂きたいのです」
「あっ、えっ?」
「名乗っても良いでしょうか?」
アズンさんも侍女の人も、ユウもジョノも、困惑している。まさか、あの迷惑集団の魔女教団が、自分達がしでかした事について土下座するとは思わなかったんだろう。
でも、あとひと押し必要みたいだな。
「アズンさん、俺からもお願いします」
俺もヒルデさんと同じポーズをして、お願いをする。
「ちょ、ちょっと、やりすぎじゃない? タツキ。 お、オイラは出来ないよ?」
「そ、そうだぞ。いくら何でも、やり過ぎるだろ。お前も貴族なんだろ? そう簡単に頭を下げるのは良くないぞ! ノアさんに怒られるぞ?」
「それだけの価値がある。ヒルデさんの話を聞いてあげてください」
「うっ……」
「アズン様。この場を離れましょう」
少しだけ、時が止まったかのように、静寂が流れて、やがてヒソヒソと周囲の小さな声が聞こえてくる。
「2人とも立ちなさい」
「私の名を聞いて頂けますか?」
「分かったわよ! 聞くから立ちなさい」
「ありがとうございます」
「アズンさん。ありがとう」
ヒルデさんの誠意が実った!
俺もヒルデさんも立ち上がって、姿勢を正す。ヒルデさんは右手を差し出した。
「初めまして。私は魔女教団ユウツオ支部、支部長を務めています。ディプルクラス。ヒルデ=レッサー・トギザと申します。よろしくお願い致します」
「えっ? 支部長?」
「はい。私が全権を持ってますので、私がユウツオにいる間は、魔女教団の変革をしていきたいと思っています」
「そう。それで、その、話ってのは?」
「アズン様!」
「シズ。いいの。もう、ここまできたら、最後まで話を聞くわ。あとからダリア様に何か言われても嫌ですから」
「分からました」
「話は長いのかしら?」
「そうですね。できれば、色々と相談させて頂けないかと思っています」
「分かったわ。小部屋を使わせてもらいましょう。シズ、部屋を使うってダリア様に話してききて。ユウ、ジョノ、行くわよ」
「俺等も?」
「当然でしょ? さぁ。貴女も行くわよ、ヒルデさん」
「よろしくお願いします」
さぁて。どんな話をするのだろうか。俺も出来る限りヒルデさんの力になってあげないと。
ユウとジョノと仲良いし、アズンさんには求婚されるアドバンテージを活かして、話が円滑に進められるようにしなくては!
アズンさん、ユウとジョノ、ヒルデさんが廊下に出たのに続いて、俺も出ようとすると、ヒルデさんに止められた。
「タツキさん。本当にありがとうございました。ここからは私1人で大丈夫です。この恩は忘れません! 何かあったら相談して下さい」
「えっ? そんなの? いや、まだ大丈夫か分からないだろう? もう少し手伝うよ」
「いえ。大丈夫です。私1人でやらなければ、いけないのです。それに、タツキさんがダリア様に招待されたのは、私を手伝う為では無いでしょう? シェンユさんも1人にしてはいけないでしょ?」
確かに。シェンユを1人には、しておけない。
「本当にありがとうございます。感謝しています。こんなに真摯に向き合ってくれたのは、タツキさんが初めてです。では、行ってきます」
廊下への扉を閉められた。
少し寂しいような気持ちになったけど、ヒルデさんが1人で頑張っているんだから。陰ながら応援しよう。
「すみません、失礼します」
背後から来たシズ氏が急いで扉を開けて、廊下へと通り抜けて行った。ダリアさんと話をしてきたんだろう。
「上手くいったみたいね」
「あっ。ダリアちゃん。見てたの?」
「いちおう私にも責任があるから、見てはいたわよ」
ダリアさんもやって来た。どうやら、離れた所から観察していたみたいだ。
「ねぇ、タツキ。どうして、あそこまでヒルデの事を助けようとするの?」
「う~ん。どうしてだろうな? 誰かが困ってたら助けてあげたいじゃないか? それが俺に出来る事なら」
「ふ~ん。レッドみたいな事を言うのね」
「えっ? えぇっ!? そんな事は無いよ!」
「へぇ。ドラグマン・レッドって、そんな事言うんだね。オイラもあってみたいなぁ」
「だ、ダリアさんこそ! どうしてヒルデさんに手を貸したんですか?」
「別に。ちょっと思う事があるだけよ。最近ね。見た目だけで変態って決めつけて、その人に命を救われたの。ちょっと反省してるだけよ。人を見た目や、肩書きだけで判断するのは良くないわ」
「ダリアちゃん。カッコイイ! それ、オイラも同じように思うよ!」
まさか、ドラグマン・レッドの行いが、こんな形でヒルデさんを助けるとは、思ってなかったな。
「さっ。2人とも行くわよ」
「行くって?」
「お父様が、自由になるまで、お兄様とお姉様に2人を紹介したいわ。あと、私のユウツオや学校での事を聞きたがってるから、なんか、適当に話をしてくれないかしら?」
「了解!」
「オイラに任せて!」
そのままダリアに連れられて、3人の兄と2人の姉と、お酒を飲みながら話をする事になった。
ダリアさんの素晴らしさ、学校での優秀さを、3割り増しで褒めちぎって伝えたら、シェンユがさらに2割り増しで喋ってきて、2人してダリアさんに怒られてしまった。
でも兄弟の人達は笑ってくれた。
あとになって、アナガリス様とも話をさせてもらった。こっちでもダリアさんを褒めちぎって、さらには「もうカイチュウデントウは貰っても良いのでは?」という流れに持っていった。
ダリアさんが抵抗したので、返す事に変更は無かったけど。
今度、ドラグマン・レッドになる事があったらカイチュウデントウはあげる。って伝えないといけないなぁ。




