第136話 貴女は呼ばれていません
今回はどうしても、まとめきれずに2話分に分割してしまった。
本当は1話にまとめたかったけど、長くなり過ぎなので、つまらない話が2話続きますが、よろしくお願いします。
「凄い美味しかったね~。あんな場所に、あんな店があるなんてオイラ知らなかったよ~」
「気に入ってもらえて良かったです。苦手な人は苦手だったりするので」
「俺も美味しいと思ったよ。まぁ、物によっては、ちょっと遠慮したい食べ物もあったけどな」
俺とシェンユとヒルデさんの3人で、ヒルデさんオススメの焼肉屋みたいな店で、昼食を食べてきた。
英雄広場から東に進んで貴族区画に向かう上り坂の前から、右に曲がった坂の脇、川の隣にある小さな汚い店だった。
始めは不安だった。見た目も微妙だったし、店主から「普通の店では出ない肉を出すからな」と、言われたぐらいだ。しかし、食べてみると美味しかった。それから中華まんプレーンで、焼肉が食えるとは思わなかった。
普通の店では出ない肉というのは、普段は捨てられてる部位で。タンとかモツを食べ慣れてる俺にとっては久しぶりに食べれて、とても美味だった。
「ヒルデちゃん、ゴメンね。オイラ、ちょっと、君の事を苦手に思ってたよ。その、オイラは魔女教団と揉めた事あるから」
「良いのです。私達、魔女教団が多くの方に迷惑をかけているのは事実ですから。むしろ、その事は忘れないで頂きたいです」
「分かったよ。それにしてもエクシィにも興味があったんだね」
「訳あって、勉強中なのです」
「ふっふっふっ。オイラも春から始めたばかりだけど、それなりに詳しいんだよ。教えてあげるよ」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
シェンユとヒルデさんが仲良くなって良かった。シェンユはそもそも良い奴だ。相手の本質を分かってくれる。
最初は堅い感じだったのに、ヒルデさんから今日の服装を褒められたら、コロッと態度を軟化させやがった。どんだけ、今日の服を気に入ってるんだよ!
まぁ、カッコイイけど。
長袖で胸元に留め具がある青紫の服に、黒いズボン。すっごくシンプルで、カンフー服? みたいな感じだ。シンプルだけど、背中に大きく2本の旗が交差するような大きな刺繍がされている。たぶん大魔女サヤを意識したデザインなんだろう。
ちなみに俺は、水色の半袖ワイシャツに紺色のズボンとネクタイ、紺色の長袖のジャケットだ。左肩に白いモールや、胸と右肩には警備会社のワッペンが付いていてる。
シェンユは褒めてくれた。この世界では珍しい服装でカッコイイらしい。
魔法使いと、格闘家と、警備員という変な3人組でゆっくりお喋りしながら、ダリアさんの家に向かった。
シェンユは後輩カード使いがいて嬉しかったのか、ヒルデさんとエクシィの話で盛りがっていた。ヒルデさんがTCGに興味があったとは以外だ。
途中でコウの同僚の女性と会った。ウルシュ、イアルフ、ウルテフの犬獣人3人娘を連れて夕方から倉庫番の仕事だそうだ。
本当はウルシュはコウを主としてるが、コウともう1人の同僚と男犬獣人3人で緊急な任務でユウツオの外に出てるので、特別に主不在での活動になってるらしい。
昨日クランパーティに参加して、朝から仕事に行ってるコウは社会人の鏡だ。
お喋りが多くて思ってたより歩調が遅く、シャン・レン=ワン亭に着いたのは予定より少し早いけど、16時過ぎになっていた。
「大きな屋敷ですね~」
「ダリアちゃんはシン大帝国の4大貴族だからね。そりゃ大きいわけだよ」
「という事は、ゼルトワの屋敷も大きいのかな?」
「オイラいちおう場所を知ってるけど、ここよりも大きいよ」
「だと思ったよ。さて、行こうか」
門の前まで行くと、6人の門番うち2人が、凄い剣幕で寄ってきた。
「止まれ!」
「それ以上、近づくな!」
「俺達は招待された者です!」
「そんなワケあるかっ!」
「魔女教団をシャン・レン=ワン家が招待する事など無いっ! この付近から立ち去れ!」
ヤベェ。懇親会に参加する前から問題が発生したぞ! まさか見た目で立入禁止をもらうとは思わなかった。
「オイラ達はダリアちゃんの友達だよ!」
「そんな事は無い! さっさと、向こうに行け!」
「もう! 本当だってばぁ!」
シェンユが騒いでくれてる。本当は落ち着いて欲しいけど、ヒルデさんの為に声を上げてくれるシェンユに感動だ。
「何を騒いでいる!」
「あ、ガオレン様! 魔女教団どもが、ダリア様の友人などと言ってまして」
「なんだと。てぇめら! いや……」
ガオレン? この人は確か、帝都で会ったダリアさんの婚約者の人だったハズ。
「お前、帝都で会ったな。ダリアと学校の長期大型訓練で、大平原を横断した友人だったよな?」
「そうです。貴方は、ダリアさんの未来の旦那様になる方」
「ダリアとお似合いで、カッコイイ旦那だなんて、よせやい」
そこまでは言ってない。にしても、顔見知りがいて良かった。
「良し。お前等3人、俺についてこい。中に入れてやる」
「ちょっと、ガオレン様! 魔女教団ですよ?」
「うるせぇ! 俺に逆らうのか? お前は3人の後ろにつけ。俺が合図したら斬っても構わねぇからよ」
「はぁ。分かりました」
「いちおう、変な物を持ってないか、確認はしておけ。そこのローブの女! その杖はダメだ、ここで預かる」
「これは杖ではありません! 大魔女サヤ様の加護を受けた旗です!」
「どっちでもいいだろ! めんどくせぇ。武器になりそうだから預かるんだよ。さっさと渡せ!」
「どっちもいいではーー」
「まぁ。まぁ。ヒルデさん! 今日は大人しくする約束でしょう?」
「そうですね。失礼しました」
ヒルデさんは大人しく、門番に旗を渡してくれた。さらにローブをめくられ、身体を触られたけど、涼しい顔をしている。
隣のシェンユの方が、めっちゃ抵抗して、嫌そうな顔をしていた。
ヒルデさんは、サヤ様が関わると熱くなるから、その時は要注意だな。
ガオレンさんの後に着いて歩いている途中で、シェンユが小声で質問を投げてきた。
「ねぇ。ダリアちゃんって、あの人と結婚するの?」
ヤベェ。言わない方が良かったかな?
「俺も詳しくは知らないから、本人に聞いてくれ。俺から聞いたって言うなよ?」
「分かった」
大きな正面入り口を抜けて、左に曲がる。シャン・レン=ワン邸もコの字型をしていて、前に来たときは右に曲がった。たしか長い廊下の左右部屋がたくさんあって、奥に食堂がある造りだったな。
今回は左に曲がると短いけど壁に装飾品がある豪華な廊下があって、その先に大広間があった。
豪華なシャンデリアのような照明が3つ吊り下がっていて、壁も華やかである。
多くの人がいて、俺達を見た瞬間にヒソヒソと小さな声で話始めた。おそらくヒルデさんを見て、何か言ってるんだろう。
すると、左奥から綺麗な女性が小走りで駆け寄ってきた。
「3人とも早いじゃない。まだ、お父様にも説明してないわ。どうしようかしら」
ダリアさんは前に帝都で見た、胸元より上に布が無い改造チャイナドレスの青紫っぽいバージョンを着ていて、首から白いファーのような物をかけている。とても美しい。
「やっぱりダリアの友人だったか。こんな変な奴等を招待したなら、事前に言っておかないと困るぞ? ちょっと外で揉めてたんだからな?」
「そうなのね。まぁ。その格好は揉めるわね。ヒルデは他に服は無かったの?」
「すみません。ですが、私の存在が、私が何者か分かる方が良いと考えて、あえて、魔女教団の正式な格好で来ました。私にとっては、最も敬意を表した服装です」
「そう。よく考えてきてくれたのね。ありがとう。なら、何も言わないわ」
全員に言わずとも魔女教団と分かる状態で、失礼の無い対応、しっかりした態度で懇親会に参加し、魔女教団をイメージを変えるつもりだろう。
それでも、その見た目だけで、悪いイメージが先走りして、全てを見てもらえず、悪評をしてくる人は大勢いるだろう。
ヒルデさんは、凄い覚悟だ。
その覚悟を認めて、その選択を良しとしたダリアさんも凄い。ちょっとでも間違えば、シャン・レン=ワン家とアナガリスさんに迷惑がかかるというのに。
「ガオレンありがとう。あとは私がいるから大丈夫よ。警備責任者の仕事、頑張ってね」
「お、おう。任せてろ!」
「ありがとうございました」
ガオレンさんが立ち去るのを見送ってると、後から嘲笑うような声がした。
「ありえねぇ~。ダリア本気かよっ。笑うしかないじゃん。イカレ魔女崇拝者を招待するか?」
現れたのは、ダリアさんと似た赤い改造チャイナドレスに、白ベースに黒い模様の入った獣の毛皮のコートを纏ったギャルだった。
「げっ」
「なんだよオッサン。分かりやすい嫌な顔をするなよ!」
「い、いえ、その~。何故いるのかと思いまして~」
「タツキ。トゥーイは口は悪いけど、根は可愛い子なのよ」
「うるせぇ~よ」
「私の昔からの友人の1人で、今はクラスメイトだし、何より、トゥーイ=シャン・ギアル=ワンはユウと同じで私の親戚になるのよ」
なっ! トゥーイ氏ってシャン・レン=ワン族の仲間だったのか! たま~に、ダリアさんと喋ってるなぁ。と思ったら親戚だったとは……
「タツキ氏。来てましたか! 待ってましたよ」
今度はジョノが右奥から小走りで、寄ってきた。
「うわっ。出たよカード族」
「トゥーイ。俺には良いけど、ユウやアズン様には、言うなよ立場が違うんだからな! タツキ氏。ユウが待ってます。こっちに来て下さい。シェンユ氏も」
「あっ。ちょっと待ってくれ、アナガリスさんに挨拶しないと」
「オッサン。アナガリス様をさん呼びは良くないと思うぞ?」
そっか。よく考えたら、この国でかなり偉い人だよな。
「いいのよ。お父様は今、ユウツオの貴族とか商人とか取引先と話をしてるから、後からでイイわ」
「よし、なら向こうに行きましょう」
「あっ。あの! 私も行きます!」
ヒルデさんの発言にジョノは嫌そうな顔で睨みつけた。
一瞬にして、嫌な空気が流れる。
「貴女は呼ばれていません」
普段は温厚なジョノから、嘘みたいに冷たい言葉が吐き捨てられた。




