第134話 俺はビンゴだぁ!
「皆さん、飲み物は手元にきてますかぁ? 大丈夫ですかぁ? 何故かクランリーダーをする事になったので、仕切る事になった俺です。ですが! 俺は現場で剣を振るのが性に合ってるし、パーティならまだしも、クランをまとめ上げる能力なんてない。なので、現在ある人に声をかけてる。年明けには引き抜けると思うが、それまでは、この俺で我慢してくれ」
「私は年明けは無理そうだぞ~!」
えっ? ルーファン氏、クランに入るのか? しかもクランリーダー?
「マジか。まぁ、その話は後でやろう。えーっと、ついにユウツオに5番目のクランが誕生した。パーティは最低数の4つで小規模クランだが、俺等の結束力は他のクランよりも強い! 他のクランから誘われるほどの実力パーティがクラン加入を断り続けたのに、たった1人の女に、まとめられてしまった。まったくアイツはスゲェ奴だったよ。アイツの想いをクランの方針として、困ってる人に手を差し伸べるそんなクランにしていきたい」
「長いぞ~。料理が冷めちまうぞ~」
「ワシは早う酒が飲みたいわい!」
「うるせぇ! 文句があるなら、トラヒコお前がやれよ!」
皆、大笑いだ。
「そんじゃあ! クラス結成と、俺等をまとめてくれたパメラに、乾杯!」
「「「「かんぱーい!」」」」
それぞれが近くの人とグラスを響かせる。俺は社会人の癖で、歩き回って全ての人とグラスを交わらせた。そして奥の厨房まで行って「乾杯」ってだけ挨拶をしてきた。ウルシュはメッチャ喜んで、イアルフは笑ってた。他の3人の獣人は驚愕の顔してた。
やはり、人間と獣人には主人と奴隷という絶対的な壁の認識があるみたいだ。
厨房から元いた場所に戻ろうとしたら、シェンユがルーファン氏に絡まれてたので迷ってたら、のリーダーの人に声をかけられた。
「よぉ。タツキだな? コウからよく話を聞いててな。獣人に対して寛容的らしいな」
「あっ、ども。そうですかね? 自分では普通と思ってるんですが、他人からだと変に見られる事が多いです。獣人達からも」
「良い事だ。奴隷使いの俺としては好感が持てる。ライノフ=ウスペンスキーだ。よろしく」
握手を求めてきたので応じる。どうやらケモナー仲間と思われているみたいだ。
獣人は、珍しいさというか、男児なら誰でも好きなんじゃないか? と思ってる。ケモナーって程ではないかな。
「俺も、いつかは獣人と一緒に冒険してみたいと思うんですが、大変な事とかあります?」
「そうだなぁ~。実は俺達は、最初はクランに入る予定は無かったんだよ」
「えっ? そうなんですか」
「俺達のパーティメンバーは5人だが、俺が2匹、他の4人が1匹づつ奴隷獣人を契約してるから11頭の生活費がかかる。しかし、依頼は基本的に人間の数しか支払られない。だから、クランの維持費を出せないかもしれなくてな。他の所からも誘いがあったが断ってきたんだ」
奴隷使いで冒険者って、そういう大変さがあるのか。2人分稼がないといけないのに、依頼料は1人分しか支払われないんだな。
「でも、リーダーはパメラさんに、落とされたんだろぉ~」
「ちげーよユーラ。パメラさんを落とそうとして5回も告白したんだよ」
「ユーラもニコライも違うぞ! 結婚を8回申し込んだんだ!」
マジか! すげー!
んっ? 待てよ。たしか、フォルストも実はパメラ氏に気があって、トラヒコさんもパメラ氏に気があったんじゃなかった? もしかして、このクランってパメラ氏に恋したパーティリーダーが集まって結成されたのか!
「もちろん断られてしまった。けど、そんだけ好きだった女性の夢を、俺は叶えたくなったんだ。だが、まぁ、主にユウツオからまでの大砂漠と森の境目ルートで、物の運搬や用心の護衛、商人の護衛などやってるから、1回の依頼が長期なる。あまりクランハウスにはいないかもしれん」
「そうなんですね」
「獣人好きとして、助け合っていこうな。もし、学校を卒業して、アテが無ければ、俺のパーティに入れよ。コウから奴隷獣人を買って」
「ははは。考えおきます」
獣人と一緒に冒険してみたいけど、奴隷は嫌だなぁ~。
「おーい! タツキ!」
「あっ、フォルストが呼んでる。失礼します」
正面入り口近くの階段に座ってるフォルストは、トランプみたいなのをシャッフルしている。
「やろーぜ。なんだっけ? ビンゴ? プレゼント交換をよ」
「早くないか? メインイベントだろ? こう、もうちょっと皆が仲良くなってからさ」
「もう、皆、出来上がってるぜ? それによぉ、あの動く箱が気になってよぉ~」
俺が持ってきたヤツだ。なんか、スマン。
「分かった。フォルストが仕切るんだろ? 頼むぜ?」
「おう。けど、お前が詳しいんだからな、なんか俺が間違っていたら、すぐにフォローしろよ?」
「分かってるよ」
「それじゃ、コレ。お前の分だ」
ノアのお手製ビンゴカードを1枚渡された。
「えっ? こういうのは選びたいんだけど。運が絡むし、あと不正とかないように、無作為に選ばせてくれ」
「そうなのか。悪い、全部配っちまった」
「えっ? えー、じゃぁ。しょうがないか……」
もう、初っ端から間違いの気がするが、しょうがない。
「おーし! お前等ぁ! タツキ考案のビンゴゲームするぞぉ~。ビンゴカードは皆持ってるな?」
「「「「持ってまーす!」」」」
皆さん、ノリノリじゃねーか。
「前にも説明したけど、大丈夫か? 再度説明が必要な人いるかぁ?」
「「「「大丈夫!」」」」
いつの間に、説明しておいたんだ?
「それじゃ始めるぞ! さぁ、タツキ1枚めくってやれ!」
「おうよ! とりゃ、6だぜ」
「おぉ! あるじゃん!」
フォルストは1発目で穴を1つ開けれたらしい。他の人達も開いたり無かったりで、いろんな声があがった。
2枚目、3枚目、4枚目を引いた時に隣のフォルストが叫んだ。
「リーチ! あと1つでビンゴだぜ?」
「なんだって! お前、何か仕組んでるだろ!」
「俺は運もお前より上なのよ、トラヒコ!」
「さては、タツキだな? フォルストから、いくら貰ったんだよ?」
「いえいえ、そんな事ないですよ! ちゃんと、やってます! なら、次はルーファンさん、引いて下さいよ」
ルーファン氏が5枚目を引いてもフォルストは静かだった。おかげで俺が皆に睨まれた。しかし、6枚目をシェンユが引いた時に大声があがった。
「きたぜぇぇえええ!」
早い。フォルスト、ビンゴか?
「フォルスト! 追いついたぜ? リーチだ! 俺はな、尻上がりなんだよ。そして、いずれはお前を抜くんだよ!」
トラヒコさんだった。
「それは無理だな」
「なんだと? どういう事だ?」
「俺はビンゴだぁ!」
「「「「えぇー!」」」」
フォルストめ、もってやがる。
「よし! さっきから気になってた、あの動くデカい箱を、もらうぜ?」
「くっそ! 俺もそれが欲しかった」
「へへ。悪いなトラヒコ」
フォルストが俺の持ってきた箱の上部を開けて、中から鳥籠のような物を取り出した。その中には小さい生き物が入ってる。
黄色に茶色のストライプが入っていて、太いけど平たく長い尻尾。手と足の間に翼のような膜があって、顔はトカゲみたいなシルエットだが毛に覆われていて可愛らしい。ベビーモモンガドラゴンみたいな感じだ。
「こ、こいつは、ポスメッセじゃねぇか?」
「すげー。ギルマスが持ってるのしか見た事ないぞ?」
「というか、ギルマスぐらいしか持てねぇんだよ。かなり希少なドラゴンだぞ」
「この箱は誰が持ってきたんだ?」
「それって聞いちゃいけないルールじゃなっかたっけ?」
「あ~、それ、俺が持ってきた」
全員の視線が俺に突き刺さる。そんなに凄い物だったのか。ノアめ、どっから仕入れてきたんだよ!
「タツキが?」
「最初はクランへの贈り物の予定でノアが準備してたんだ。けど、プレゼント交換するなら、持っていけって」
「なるほど。ノアちゃんは、森の侵食域4まで入れるんだったな。なら、納得だ。偶然にも捕まえたんだろう」
「それって、そんなに凄い生き物なのか?」
階段下にいるフォルストの所へ行って、近くで見てみるが、よくある異世界ペットって感じにしか見えない。
「その子は、侵食域7より奥に生息していると言われているわ。けど、ごく稀に侵食域5、4で飛んでるのを確認されるの。深緑の支配者は森に、よく入るけど、1度しか見た事ないわ」
「俺は見た事ねぇ」
「フォルストは、肉付きが良い大物しか見てないからでしょ!」
「悪かったな! そんで、コイツはこの長い尻尾が袋になってて、食糧を詰めて、かなりの長距離を早く移動できるんだよ。ギルドマスターとギルドの幹部が飼っていて、尻尾に手紙を入れて使ってるんだ。連絡鳥の上位版だな」
電話やメールが無いこの世界においては、手紙をスムーズにやり取りできる、この生き物は、貴重な存在なのか。
「こんなん貰っていいのか? これギルドに持ってったら、なかなかの値段で買い取ってくれるぞ?」
「いいんだ。ノアが良しとしてるから」
「どっちが御主人か分からねぇな!」
皆、笑いながら「確かに」とか「タツキが使用人じゃね?」とか好き勝手に言っている。俺よりもノアが優れているから、しょうがねぇ。
「さぁ、続きしようぜ! 俺みたいな豪華プレゼントが、まだまだあるかもしれないぞ?」
「よっしゃ! フォルストに続くぜ」
「私も狙ってる物が欲しいわ」
それから約1時間、プレゼント交換のビンゴゲームは大盛り上がりした。
皆が用意してたプレゼントも様々で、ギルドの豪華食事券4枚組とか、トライアッド商会の2割引券とか、20振りだけ炎を吐く擬似宝剣は欲しかった。
そして皆がビンゴし、プレゼントを受け取り、残り1つになっても、俺のビンゴカードは1つも穴が開かなかった。
半分ぐらいビンゴが出た時に違和感を感じたさ。残り6人になってた時に確信に変わったよ。これはハメられたってな。
もう、なんか、手遅れ感があったし、どうみても全員グルっぽいから、ノってあげる事にしたよ。
ちょっと虚しいけど。
「えー。アレぇ? タツキは、まだビンゴしないのかぁ?」
「そうなんだよ。ビンゴどころか、1つも空かないんだよ。これは俺の知ってるビンゴじゃねーな。フォルスト式か?」
「俺? いやいや、ちゃんと教えてもらったルールでやってるぜ? さて、どうするか。次のカードをめくるか?」
「俺がビンゴ出るまで、めくってくれ。って言ったらやってくれるのか?」
「や、やってもいいけどよ。タツキの運の無さだと3日やってもビンゴ出ないんじゃねーか?」
俺のビンゴカード。数字が1つもカードに入ってないようだな。
「フォルスト。オイラは、もうビンゴにしてあげてもイイんじゃない? って思うな。ね? ルーファン」
「そ、そ、そうだよ! 皆、プレゼントあって酒が美味しいってのに。タツキだけ当たらないのは、アレだよ。だからビンゴにしよう!」
無理矢理すぎるだろ。
「しょーかねぇな! 特別だぜ? 今日はクランパーティだからな。クランリーダーの俺がタツキをビンゴにしてやるよ! なぁ? 皆ぁ、良いよなぁ?」
全員が笑いながら、肯定的意見を出してくる。笑うな! もう、やるなら、最後までやり通せよ~。
「ほら、あそこに最後の木箱があるぞ。行って開けてこいよ」
「どうも!」
俺は穴が1つも無い綺麗なビンゴカードをフォルストに渡して、階段下のプレゼント置き場に向かった。
そこには残ったプレゼントが1つ置いてある。なんか、どっかで見た事ある木箱だ。サッカーボールが入りそうな大きさで、ちょっと持ってみると振り上げられるほど軽い。
「シェンユ、開けていいのか?」
「えっ? えぇ? ど、どうしてオイラに聞くのさ。タツキが貰ったプレゼントでしょ? 好きにしたらイイんじゃない?」
「そっか。そうだな」
木箱の上面を開けると、中には大量の白い花弁が入っている。
「花びら? 何に使うんだ? 花茶とかになる花なのか?」
「タツキ、それは衝撃緩和によく使われる花だよ。ギルドでも重要な物を送る時に使うから、いらなかったら後でくれない?」
「いいですよ。という事は、他に何か入ってるのか」
フワフワの花弁の海の中に両手を突っ込む。硬そうな、木っぽい手触りの厚みがそれほど無い、感触がある。
それを掴んで、木箱の外へと引っ張り出した。
「これは……」
鮮やかな赤を誇張してあるが、繊細な作り込み、男の子心をくすぐるドラゴンのデザイン、どこかで見た素晴らしい龍面。
「おっ! なんだソレ? カッコイイな! 俺の当てたポスメッセほどじゃないが、良い物っぽいな!」
「タツキ、良かったね! カッコイイ物が当たって、オイラにも後で見せてね」
クリスマス会の話してしまって、このプレゼント交換が企画されたけど、最高のクリスマスプレゼントじゃないか。
そういや、クリスマス会なんて、最後にやったのは、いつだったかな?
中学生、高校生の時なんて、友達3人しかいなかったし。
社会人になってからは、引っ付き合い自体を、あまりしなくなった。
小学生の時、親戚の家で過ごした日々はサンタなんて来なかった。
思い出した。あの人が、まだ生きてた時だ。あの夏の日の半年前、一緒に過ごした最後の冬に2人でしたクリスマス。
たしか、あの時もヒーローの変身グッズを貰ったんだっけ?
「タツキ? どうしたの? 気に入らなかった?」
「あり、が、とう……」
「うぉ。ちょっと、タツキ。どうしたんだ? 泣いてるじゃねーか」
「えっ? えぇ?」
酒が入ってたからか。いつの間にか、俺は涙を流していた。
「すっげー、嬉しいからさ。ちょっと涙が出ちまったよ。シェンユ、ありがとう」
「そ、そう? それは良かった」
新たな世界で出会った、多くの素晴らしい人達のおかげで、何十年かぶりに、最高な年末を過ごす事ができた。
本当に、俺はこの世界が好きだ。
ここで、この世界の人達を助けられるヒーローに、改めてなろうと思う。




