第130話 なんもいねぇぞ?
「センギョクさん、ミンレイさん、ただいま~。オイラが帰ってきたよ~」
「おかえりシェンユ。タツキも。あら、今日はポーランも一緒なのね。珍しい」
「あ、うん。たまたま学校の帰り道でタツキさんとシェンユさんに会って。一緒に帰ってきました」
「あれぇ? ねぇ、センギョクさんは? オイラ、話があるんだけど」
厨房にはミンレイさんが、1人で忙しそうに片付けをしていた。
「ノアちゃんと、タツキの部屋で話をしてるわ」
「俺の部屋?!」
ノアめ。今日は迎えに来てないと思ったら、何をやってるんだ?
「ミンレイさん、僕、手伝うよ」
「ありがとうポーラン。でも、いいわ。あなたは勉強を頑張って、上のクラスにいけるように」
「分かった」
「じゃぁ。オイラが手伝うよ。いつも手伝ってるし」
「なら、お願い」
「俺は部屋に見てくるよ。ノアがまた、変な事してるみたいだし」
センギョクさんと話? いったい何をしてるんだが。
急いで部屋に戻ると、本当にセンギョクとノアが話をしている。何か紙を見ながら壁を指差しているけど……
「あっ。お帰りなさいませマスター」
「おう、タツキ。って事はシェンユも帰ってきたか」
「俺の部屋で何してるんですか?」
「なんかノアがよぉ。増築したい。って言い出すんで、ちょっと話し合いをしてるだ」
「増築? なんで?」
「マスター。これまでは資金の問題であったり、材料の確保であったり、色々な事で出来ませんでしたが、準備が整いました。心配する事はありません。全て私に任せてください! この匠に!」
ノアが図面を見せながら、自信に満ち溢れた声でガッツポーズをしている。
「いや。俺が聞きたいのは、それ必要なのか? って事だよ」
「まったく。マスターは! いいですか、必要ですよ! 大問題ですよ! むしろ今まで我慢してきた私に感謝して欲しいですね。男女がワンルームに住んでるんですよ! 私のプライベート空間が必要じゃないですか!」
「いや、お前、隣の部屋借りろよ」
「タツキよぉ。悪いけど、うちは8部屋しかないし、満室だぞ? しかもな、いちおう学生にしか貸さない事になってるから、学生の使用人に、ひと部屋貸す事はできねぇ」
「すみません、センギョクさん。ノリ言ってしまいました。それは分かってます。ノア! だから、別の所を借りる話があっただろう?」
ノアが両手をついて崩れた。
顔を俯いて、肩を震わせて、涙を流す機能がある知らないけど、泣いているように見える。
センギョクさんは、少したじろぐが、俺は動揺すらしない。演技だと分かってる。
「マスターの為に…… 常にそばにいて、世話をし、護衛をし、貴方の為に尽くしたいと思う、この私の気持ちを理解してくれないのですか!」
「お、おい。タツキ……」
分かってる。
もちろん感謝してる。この今やってる事も俺の為なんだろう。ノアは、ノアの中にある計画を強行しようとしてる。結果として俺の為になるのは分かるけど。
なんだかなぁ~。
「分かってるよ。もう、好きにしろよ」
「本当ですか!」
ノアは、すぐに立ち上がって、めっちゃ可愛い笑顔になる。
「分かってくれましたか! マスター大好きです!」
“大好き”とか言うんじゃねぇ!
「センギョクさんは、いいんですか? 今日は、お店まで閉めちゃって」
「費用も業者の手配も全てノアがやってくれる。ってんだから、むしろ、ありがてぇ。店の事は気にするなっ」
センギョクさんは、右足の膝をさすった。そこは、上半分は太い太腿があるが、下半分は木の棒が1本だけだ。
「ちょっと古傷が痛んでな。たまにあるんだ。それで休みにしただけだからよ」
カッコイイ!
古傷が痛むなんて、言ってみたいセリフだ。きっとセンギョクさんが、封印した魔王が、今日、世界のどこかで復活したんだろうな。
こうして、俺の部屋の増築工事が始まった。
※
次の日、学校から帰ってくると、業者の人が外で作業をしていた。我儘亭の入り口のすぐ隣で、柱を4つ程建てているみたいだ。ちょうど2階部分は俺の部屋にあたる。
その業者はなんとも、懐かしい雰囲気をしていた。白い袖長袖にポケットのたくさんあるカーキ色のベストを着ていて、紺色のニッカポッカを履いて足袋をしている。ベルトはゴツくてツールバックがあり、そこにハンマーやらノミやらがぶら下がっている。
前の世界で良く見た、鳶職の人のようだ。
ちゃんとヘルメットもしていて、おそらく木を削って、くり抜いて作ったと思われるが、緑色のラインと十字と“安全第一”と漢字で書いてある。
女性の業者らしく、胸とお尻が丸く出ているシルエットと青色の髪が可愛らしい。
というか、ノアだ。
普段JK制服以外の恰好しないから、どんな格好でも新鮮だ。
「ノアちゃん、何その恰好~。カッコイイね」
「お前、何してんだよ」
ノアは肩に担いでいた木材を回転させながら、こっちを向いた。木材の端が俺の鼻先をかすめて、危うく殴打される所だった。コントかっ!
「お帰りなさいませマスター。シェンユさん。見ての通り増築の作業中です」
「業者を手配するんじゃなかったのか?」
「そんな、お金はありません! 全て私に任せて下さいと言ったのです。材料の確保から製材、設計から施工まで、全て私1人で行いますので安心して下さい」
めっちゃ凄い。まぁ、ノアならできるのか。もしかするとノアなら1人でも、時間と材料さえあれば、一軒家も建てれるんじゃないのか?
「えっ? 材料も自分で? って事は、もしかして森の奥まで入っていってるの?」
「そうですね。建物に使う木材を手に入れるなら、太くて丈夫な浸食域4に生えてる木を使え。との事でしたので、そこに入る為の許可を得たのが1週間前です。シェンユさんは森の浸食域3までは入れるんでしたよね?」
「そうだけど。ノアちゃんは、やっぱり凄いなぁ~」
「マスター、私は作業続けますが、どうぞ、お気になさらずに普段通りに過ごして下さい」
「あ~、うん。なんか手伝うか?」
「いえ。邪魔にしかなりませんので」
ですよね~。
その日、ノアはずーっと外で作業していて、部屋に戻って来たのは夜の9時頃になった。さすがに深夜に作業をして騒音を出す事はしないようだ。
と思ったら、寝て起きて、朝に学校に行く前に確認すると、もうベランダみたいなのが完成していた。どうやら皆が寝静まった後に、こっそりと作業を進めていたみたいだ。
それから水の日と樹の日の2日間は夜まで帰ってこなかった。何してるのか聞いてみると、別の所で部屋を作っていて、最後に合体させて繋げるらしい。ユニット工法って言うんだっけ? なんかプレハブの建物を作ってるみたいだ。
この世界にクレーンは無いけど、どうやって持ち上げるんだろうか?
週末の風の日は、ヒトラ様の所に行く日だからか、俺が帰ってきたらノアはいなかった。もちろん夜も帰ってはこなかった。
※
「おはようございます。マスター」
「ん? あ~、おはよう」
アレ? 今日は雷の日、休みだよな? ノアはヒトラ様の家のハズ……
「お前、なんでいるんだ?」
「今週は特別にマスターと一緒ですよ! それよりも起きて下さい」
ノアの起こされてベッドから立たせると、そのまま背中を押されて、壁の前に立たされた。
いや、以前は壁だった場所の前だ。今はシンプルな襖がある。
「どうですか?」
「どうですかって。これは押し入れじゃね? 部屋を作るんじゃなかったのか?」
「この先の我儘亭の敷地は2メートル程でしたので、これが限界ですね。部屋となると道にはみ出してしまうので。それに青色の未来的なロボットが寝るには最適なデザインとは思いませんか?」
「するとアレか? 俺は成績が悪くて、お調子者なヤツか?」
「さすが! 分かってますね」
黄色いシャツなんて持ってないぞ? あと眼鏡でも無い。
まぁ、ノアがこれでいいなら、いいんだけどさ。
「いつの間に完成させたんだよ?」
「昨晩の深夜にこっそりと」
「なんで、そんな時間に?」
「さすがに、この大きさを私達が持ち上げているのを見られると、マズイと思いまして」
「まぁ、そうだろうな。んっ? 達? 今、私達って言ったか?」
「はい。ノア4号機に手伝ってもらいました。1人でもできましたが、音をたてないようにしないと、いけなかったので。2人で作業しました」
こいつ、ノア4は貴重な残機だから、雑な使い方は出来ないって言ってたのに。パシリ扱いやん!
「センギョク様を呼んできますが、良いですか?」
「あぁ、良いよ」
「では、行ってきます」
あいつ、本当に押し入れに寝るつもりか?
もしかして…… 開けたら、なんか超技術で部屋になってたりするんじゃね?
普通の和室にある、普通の押し入れの襖にしか見えないが、とりあえず開けてみる。
普通だ。ちゃんと2段式になっていて、広さは畳1畳分よりも少し奥行きがある感じがする。下部分にも、ちゃんと座敷童が座っていて……
「うわぁぁぁあああ!」
俺は襖を閉めた!
今、何かがいた。体育座りで、こっちを見つめていた。この世界に妖怪は存在するのか?
「どうしたタツキ!」
「センギョクさん。今、この襖の向こうに、何かがいたんです!」
「なんだと! 泥棒か?」
センギョクさんが勢いよく襖を開けて、スライド音と激しく襖が壁に当たる音が響く。
「なんもいねぇぞ?」
「マスター。寝ぼけているのでは? まだ眠いですか?」
そこには誰もいなかった。
「あれぇ? さっき、間違いなく何か見たんだけど」
「朝飯を食ってねぇから、頭が回ってないのか? にしてもノアは、ここを部屋とするのか?」
「はい。ちょっとした空間さえあれば良いので、問題ありません」
「朝から騒がしいけど、どうしたの?」
「シェンユさん、おはようございます。何でもありませんよ」
俺は寝ぼけてたのか? シェンユまで来てしまった。ちょっと恥ずかしい。
センギョクさんは、襖を開け閉めしたり中を覗いたりして、ノアの仕事っぷりを確かめている。
「しっかりと出来ているな。建物作るのを専門にしてる奴の仕事みてぇだ。ノアとタツキがいいってなら、これでいいんじゃねぇのか? 俺としては費用を出さずに部屋に収納を増やしてもらって、ありがてぇ。何もいう事は無いな」
「ありがとうございます」
「シェンユ。ミンレイが朝飯の準備してるぞ。降りてこい。タツキも降りてこいよ」
「タツキ、おはよう! オイラは先に行ってるよ~」
「あぁ。ちょっとしてから行くよ」
俺は何を見たんだ?
ゆっくりと、襖をあけてみる。
誰もいない。
「そりゃ、そうだ。ノア、この世界に妖怪っているのかな?」
「イマセンヨ~」
後ろのノアじゃない! 押し入れの奥から声がした。
すると、奥からまぁるい物が転がってきて、目が合った。
長い青髪の生首だ。
「ぎゃぁあ――」
俺が叫び声を上げようとしたら、後ろからノアに口を押えられた。
「酷いですよマスター。私と一緒に手伝ってくれた彼女に対して。そんな態度をするなんて」
押し入れの中にある生首はツインテールでは無いがノアとそっくりの顔をしている。
突然、押し入れの床がスライドして、棺桶から死体が這い出てくるように、手が伸びてきて首無しの身体が出てきて、最後には頭と拾って自分の身体に乗せながら、押し入れから出てきた。
「オ久シブリデス、マスター」
出てきたのは、ノア4号機だ。




