第120話 皆さん、ありがとうございます
「う、う~ん」
「マスター、マスター」
「う~。んっ?」
「おはようございます。目覚めましたか?」
「おはようノア。アレ? ここは?」
「荷車ですよ?」
辺りを見渡すと、長期大型訓練で乗った時と、ほぼ同じ光景だった。
「えっ? なんで? どうなった?」
「今は深夜の1時です。あれから10時間ほど経過しております。色々とありまして、シン大帝国から出て行く事になりました。申し訳ありません」
「なんだって?! どこにいくんだよ!」
「シン大帝国よりも南で、マギアスの森の西側。大砂漠を越えたところにあります、僧国パレバノニスアラリアへと行きます。ヒルデ様に協力していただきますので、魔女教団へ入らないといけないカモです」
嘘だろ……
「大丈夫ですよ! 仲間もいますから! きっと楽しい新天地になりますよ!」
「仲間?」
「まずは、ヒルデ様。冒険者資格を取る事で教団内での立場を、上げるつもりでしたが、私達が全力でサポートすると約束しましたので、退学してくれました。今は前で馬獣に乗ってます。それからダリア様です。冒険者志望でしたが、別に冒険者をやりたいワケではなく。家柄に縛られずに騎乗獣を乗り回す生活がしたいそうなので、ドラグマン・レッドの正体がマスターである事を伝えると、着いてきてくれました。今は犬獣に乗ってますよ! 最後にシェンユ様です。冒険者になるのは、ユウツオから1人で出る為だったらしいので、冒険者を諦めてもらい、一緒に世界中を旅してくれるそうです! 良かったですね~」
良くねぇーよ!
「何で、全員、冒険者の道を閉ざしてしまってるんだよ! なんで学校を辞めちゃうわけ?」
「ギルドを敵に、まわしたからです!」
「えぇぇぇええええええ!?!」
世界5大勢力の中でも、最も力があって、人々から信頼されてる組織だぞ!
なんで、こんな事に……
「お前。何やったんだよ?」
「皆殺しにしました!」
はっ? えっ?
「マスターが負けた後に、ユウツオにあるリー・オ=ワン家の屋敷へと連れて行かれました。なんとか穏便に解決しようと交渉をしたのですが、聞く耳を持たず。さらには、性奴隷使用人として仕えろ! との事でしたので、ユニットDDをターン・システムで呼び出して、屋敷ごと殲滅しました!」
「何してくれてんだ!」
「えぇ〜。じゃあ、イイんですか? 私が毎晩毎晩、意地汚い4人の男の慰みものになっても良かったんですか?」
いや、それは嫌だけど。ってか4人同時なの?! しかもイーゼァも入ってるの?!
「だいたい、マスターが負けるから、こうなるんですよ?」
それは、そうだけど。アレは勝てないだろ? 俺だって頑張ったんだよ!
「ちょっと、失礼するよ!」
荷車の後がはためいて、男が入ってきた。
「もう、会わない約束だったけどな。悪いな! 俺もいちおうギルドに所属する者なんでね」
金髪に、大剣、パンツと股間プレートのみ。
「それに、ノアを殺せるのは俺だけ、だろうからな!」
「ジークっ!」
「じぁっ。死んでもらう」
ぎゃぁぁぁあああ!
「あああぁぁぁ……?」
俺は目を覚ました。
慌てて飛び起きると、俺のよく知ってる部屋だった。というか我儘亭の俺の部屋のベッドの上だった。
夢か。夢で良かった。
「どうしたのタツキ!」
部屋の扉がバーンと開いてシェンユが入ってきた。
「いや、ゴメン。何でもない。ちょっと変な夢を見てただけだ」
「急に叫び声が聞こえたから、ビックリしたよ」
「すまん」
ちょっとジークは、トラウマ的なのに、なってしまてってるのかな?
「俺は負けたのか? そうだよな。ノアは?」
「ノアちゃんは。そのぉ~、いったん、ゼルトワの屋敷に連れて行かれたよ」
「そうか……」
そうだよな。それで、性奴隷に……
「シェンユ! 今、何時だ?」
「夕方の6時だよ。あれから3時間ぐらいかな?」
「貴族区画で異変は起こってないか?」
「えっ! 何で知ってるの?」
やはり。つまり、さっきの夢は正夢か!
「マズイぞ! ゼルトワ達が危ない! すぐに行かないと!」
「えっ? えっ、大丈夫だよ! 祭運営の人が3人もいるから」
「運営の人? まぁ、どうでもいい。そんなんじゃ死人が増えるだけだ! 今すぐノアと話をしないといけない!」
俺はすぐに立ち上がる。
「わぁ! ちょっ、ちょっと! 服! 服は?」
シェンユが、慌てて顔を覆った。
「あれ? 何で全裸なんだ?」
「ウォンリー先輩とセンギョクさんが、傷を確認して、運んで包帯を巻いてくれたんだよ」
そっか。たしかに、両脚と両手が包帯で巻かれている。運ばれた時は、まだ、骨折してたのかな? けど、今は完治してる。
外すのが面倒なので、そのまま服を着る。
「服着た? どこ行くのさ?」
「ゼルトワの屋敷だ。問題が起きる前に止めないと!」
「大丈夫だよ! ヒトラ様は、そんな短絡的な人じゃいよ! とりあえず明日までは様子を見ようよ!」
「ヒトラさん? なんでヒトラさんが出てくるだよ」
「えっ? 貴族区画の異変って、警戒網の事でしょ?」
「警戒網? なんだそれ?」
なんか、話が噛み合わないぞ?
「タツキが動かなくなって、すぐに、ヒトラ様が闘技場に入ってきて、ゼルトワに決闘を申し込んだんだよ」
「えぇ?! なんで?」
「元々、ノアちゃんを、ヒトラ様が狙ってたから、決闘をする権利があるってさ。それに、ワナン国はシン大帝国の属国みたいなもんだから、ヒトラ様がゼルトワに決闘を申し込むのは、成立するみたい」
俺が寝てる間に、凄い事になってるな。ヒトラ様がノアを奪い返してくれるのか。
「最初はゼルトワが渋ってたんだけど、ヒトラ様が、めちゃめちゃ煽ってさ。見ててちょっと面白かったけど、どんどん激しくなっていって、最終的に大口論になってさ。イーゼァが殺気だって、ヒョウカさんも入ってきて、大変だったんだよ~」
ヒトラ様に煽られるゼルトワ。ちょっと見たかったかもしれん。
「それから、祭運営の人達が間に入って、取り決めをしたの。決闘は、明日の朝から始まるって。ルールは今日と同じ。ヒトラ様の要求はノアちゃん。ゼルトワの要求は、ワナン国のニシトラ地方の一部。ヒトラ様の個人的に治めてる土地を貰うみたい」
ノア1人の為に領地を賭けたのか! そんなの事して大丈夫なのか? 心配だ。ヒトラ様に迷惑をかけるのは良くない。
この状況ならノアもまだ、暴れたりは、しないだろう。
「分かった。ゼルトワは安全かもしれん。ヒトラさんに話を聞きに行ってくる」
「無理だよ」
「えっ? なんで?」
「だから警戒網があるんだってば! 両者が熱くなりすぎてたから、決闘前に大事を起こさないように、ユウツオの騎士団が警戒網をしいているだ。今、貴族区画には、許可ない者は入れないし、貴族区画内部でも可能な限り屋敷の中にいるように。って領主様から言われているんだ」
「そうなのか。じゃぁ、どうする? どうすればいい?」
「ヒトラ様と話がしたいなら、明日の決闘の時に、控え天幕に行くのがイイかも」
決闘の時までは、何も出来ないというのか。
「話だけならね。もし、ノアちゃんを取り戻すというなら、オイラはタツキを止めるよ。悪いけど、決闘での決まり事は絶対だ。それを反故にするなら、多くの貴族を敵にまわす事になる。場合によってはギルドも敵になるかもしれない。だから、タツキを止めるよ」
「おぉ、おう。それは分かってる。そんな事しないよ」
いまさっき、ギルドを敵にしてMA級冒険者が襲ってくる悪夢を見たばかりだ。その意味を、恐ろしさを、疑似体験してきたよ。
「明日、早めに起きて、天幕に行くよ」
「うん。それが良いね。さぁ、下に行こう。皆さ、心配して待ってるよ」
「えっ? 皆待ってるの?」
「えーっと、金持ちの人だけかな。はははは。負けて損した人達は、明日の決闘の準備の仕事をしてるよ。せめてチケット代は稼がないと~!ってさ」
ヤベェ。悪い事をしたなぁ~。
1階の我儘亭は、今日は臨時休業になってて、ダリアさん、ユウとジョノ、ジャオさん、ジンリー先輩とウォンリー先輩、ポーラン君、そして、ミンレイさんとセンギョクさんがいた。
それぞれ雑談をしてる様子だ。
「あら? タツキ」
「おぉ~タツキ。大丈夫かぁ? あたしゃ~、死んだかと思ったぞぉ~! なぁ? ウォンリー?」
「ジンリー、飲み過ぎだよ」
「タツキ氏。自分で歩けるのか?」
「うわっ。シェンユが支えてると思ってたのに、歩いて大丈夫なのか?」
あっ! ヤベェ。
皆からしたら、かなり重傷なダメージだったよな? 骨折が3時間で完治するのは、問題すぎる。
「えーっと、大丈夫です。その~」
「まーったく! ユウとジョノは分かってないなぁ! アレは演技だよ? やられてるフリをして相手の疲労と反撃の隙を狙ってたんだから! オイラには分かってよ!」
えっ? 何それ?
「本当かぁ? なら、なーんで負けたんだよぉ~? あたしのサイフが減っちまたよ~。酒代が減ったよ~」
「ジンリー。タツキの心情を少しは考えてやれよ」
「無駄だ。ウォンリー。コイツは、放っておけ」
センギョクさん、厳しい。
「そりゃ~。スタミナ切れ? だよね?」
「あ、あぁ。そうだな。さすがに、3人目だったからな。体力が持たなかったんだ」
「そうだよ! やっぱりなぁ。オイラもそうだろうと思ったよ! 最初からイーゼァと1対1だったらタツキが勝ってたね!」
いや、それでも負けてたと思うぞ。
「だよなぁ~。そもそも4人って、卑怯だよ! しかもハイファルネン流の専用の武器使ってくるし。ゼルトワは汚ねぇ」
「でも、ユウ。それを良しとしたのはタツキよ」
「ではダリア氏は、ゼルトワ氏は正々堂々としていると?」
「いえ。そうは思わないわ。でも、タツキはもっと決闘をする前から、色々と考えるべきだったと思うわ」
すみません。その通りです。
「でも、4人ってのは、卑怯だと思います。タツキさんは、負けてしまいましたけど。凄かったです! 私は同じクラスメイトとして誇りに思います!」
「おっ? ジャオちゃんは、タツキが好きなのかい? あのオッサンねぇ~、今なら使用人を募集してるぞぉ~?」
「えぇ? いえ。そんなんじゃ無いです」
「コラ! ジンリー。後輩を困らすな! ダメだな。コイツは。ウォンリー、酒瓶持って部屋に連れて行ってくれ」
「センギョクさん了解です! 行くぞ、ジンリー!」
「うい~。飲めるなら、何でもイイや~」
なんか、皆さん。平常運転だな。
「タツキは問題無さそうだし、俺とジョノは、そろそろ帰るか。また明日、闘技場でなタツキ」
「おう。ありがとう。期待に応えられなくて、すまんかった」
「何言ってんだよ! 凄かったぜ」
2人とも、いい奴だ。
「私も帰るわ。あまり遅くなると、貴族区画に入れなくなってしまうから」
「ダリアさんも心配してくれて、ありがとう」
「ノアの事は、何とかなるわ。まずは明日の決闘の結果を見ましょう。はい、コレ」
渡されたのは、木製のカードみたいな物だ。
「コレは?」
「明日の決闘のチケットよ。負けたけど、タツキは頑張ったわ。私からの奢りよ。それじゃ、明日ね」
「ありがとうございます」
やったぞ! チケットをゲットした。
「なら、私も帰ります」
「そんじゃ、晩飯の準備するか。他の奴もそろそろ帰ってくるだろう。ミンレイ」
「はい。作りましょうか」
「皆さん、ありがとうございます」
俺は皆に、頭を下げた。
何が、ありがとうなのか、明確には分からないけど。今日は、俺に期待してくれて、応援してくれて、心配してくれて……
本当に、良い人達に巡り会えた。
感謝しかない。
涙が流れてきた。
「タツキ。大丈夫だよ。オイラ達がいるからノアちゃんの事は、なんとかなるよ」
「違うんだ。そういう涙じゃなくて、皆が優しいから、嬉しくて」
「タツキ!」
「センギョクさん?」
「今日は、お前が思ってるよりも、疲れてんだよ。身体も心も。俺も決闘で何かを失った事があるからな。先に飯出すから、今日は、とりあえず食って寝ろ。そして、明日に備えろ。冒険者は生きてたら、それで勝ちだ!」
「はい」
歴戦の猛者の言葉は、身に染みた。
まずは、明日。ヒトラ様に会って、話をしないといけない。




