第121話 勘違いするな!
早起きして、準備を済ませて、中央広場へと行く。昨日は、よく分からんうちに、皆で来たらしいが、今日は2人だ。
そして、その相手はノアではない。シェンユだ。
決闘開始時刻は9時で、今はまだ7時なのに中央広場の賑わいは、昨日よりも増している。しかし、昨日よりも屋台の数が減っているようだ。
その理由が中央の特設闘技場に着いて分かった。昨日よりも大きくなっている。
相対的に広場の屋台が使える面積が減ったんだろう。
ゼルトワ達が昨日と同じ天幕を使ってると聞いたので、西側の控え天幕に行くと、入口に昨日と同じように2人の祭運営の人が立っていた。
「すみません。ヒトラさんの控え天幕は、ここであってますか?」
「そうだが。何の用だ?」
「オイラ達は、ヒトラ様の友達で~、応援したくて、ちょっと話がいたいんだけど」
「本日は誰も入れるな。と言われてる。応援なら観客席からやれ!」
「ちょっとだけで、いいんだ。話をさせて貰えないか?」
「ダメだ!」
「ヒトラさんは、中にいるんだろう? せめて聞いてみてくれよ」
「例外は無い! 去れ」
マジか。中に入れないぞ。どうする?
「その声はタツキか?」
「あっ。そうです!」
誰かが、中から声をかけてくれたので、大声で返事をした。
すると、ヒョウカさんが出てきた。
「すまんが、この人は例外だ。入れてくれ」
「はぁ、分かりました」
「ヒョウカさん、オイラは?」
「悪いが、待っててくれ。タツキも長居は出来ないからな!」
「そっかぁ、しょうがない。タツキ、オイラは此処で待ってるよ」
「あぁ」
中に入ると、ヒトラ様がくつろいでいて、他に3人の人がいる。
ヒトラ様の後ろでお茶を準備しているは、以前にも見た使用人の婆さんだ。少し離れた所で椅子に座っているのは昨日も会ったトラヒコさんだ。そして、奥で刀の手入れをしている小柄で、髭面の横幅のある老人は初めて見る人だ。いかにも鍛治師という格好をしている。
「タツキか。昨日は残念だったな。しかし素晴らしい戦いだったぞ。おぬしが、あれほど実力を隠してたとはな」
「夏休みで真面目に鍛錬しましたから。でも負けてしまいました」
ヒョウカさんが、椅子を差し出してくれたので、座る。
ちなみにヒトラ様は前に見た袴姿で女侍のような恰好をしているが、ヒョウカさんは楔帷子と布面積が少ない和服の姿で、セクシーくノ一って感じだ。
「あれは仕方ないんじゃないかな? タツキ君は人数も装備も不利だったからね」
「まぁ、それはあるだろうよ。が、トラヒコは甘いぞ! 戦いは不利な事が多い。負けた理由にできるのは、何も失わず、生きてる時だけよ」
「そうじゃ。ヒトラ様の言う通りじゃ」
「そうですね。ノアを失ってしまいました」
さすがヒトラ様。厳しい方だ。
「して、妾に何用だ?」
「ノアの為に決闘してくれて、ありがとうございます。それと――」
「勘違いするな!」
「はい?」
ヒトラ様から、凄い圧を感じる。
「ヒトラ様、どうぞ確認を」
「うむ」
後から、老人が刀を渡してきた。
素人でも分かるような綺麗な刀だ。きっと凄い名刀なのだろう。
ヒトラ様は、その刀の刃を眺めてたり、座ったまま構えたり、と何かを確かめながら口を開いた。
「ノアの為では無い。当然、タツキの為でも無い! 妾が動くのはワナン国の為。忘れたのか? 妾がノアが欲しいと申した時の事を」
そうだった。ヒトラ様は強者を集めている。ワナン国を強い国にする為に、勧誘していて、ノアもその誘い話があったんだった。
「ノアのタツキへの忠誠は理解しておる。アレは簡単に断ち切れるものでは無いな。そんなノアが決闘では、大人しくリー・オ=ワン家のものになる事を承諾した。タツキを信じていたとも思えるが、さすがに、貴族の古来からの、しきたりには逆らえぬとみた」
「ノアを手に入れるチャンスだったと?」
「そうだ。好機であったからな。ひと月前から準備しておった。もしも、タツキが負けるなら、妾が決闘をしかけてやろう。とな」
この人は、思ってたよりも危ない人かもしれない。
「勝てるのですか?」
「貴様! その言葉は何だ!」
「よせ、ヒョウカ。タツキは心配してくれてるのだよ。己の大切な者を取られそうなのに、その相手を心配するとは、トラヒコの様に甘いヤツじゃ」
「ヒトラ様。俺はそんなに甘いですか?」
「シシゾウに聞いてみろ」
「甘いな」
トラヒコさんは、この中では立場が低いのかな? なんか弄られてる感じだ。
「して、勝てるか? とな。むしろ、負ける要素が見当たらんわ! トラヒコはC級冒険者ぞ? シシゾウもC級冒険者じゃ」
「えっ? トラヒコさんも参加するんですか?」
「するよ。だって俺はヒトラ様の配下だからね」
「えぇ? そうなんだ」
たしかに、C級冒険者が2人に、優クラスの成績ランキング1位と4位の2人。人数は互角で質はこっちが完全に上だ。
鍛治師のようなシシゾウさんが、20本ぐらいの刀を整備してるし、武器の用意も圧倒的だ。
「ゼルトワ達が勝てる要素が無いですね」
「シシゾウは10年前から、俺は7年前から、このユウツオで活動してるけど、それはワナン国の為だ。こういう事態の時に力に、なれるように昔から準備していたってワケさ!」
「決闘前日に準備を始めた俺とは大違いだ。ならイーゼァも問題ないですね」
「イーゼァ? あのハイファルネン流の使い手か。何か問題があるのか?」
ヒトラ様の目が鋭くなった。
「いや、別に大した事は」
「そういえば、タツキよ。先は途中で言葉を切らせてしまったな。何だ? 何かあるなら申してみよ」
ヤバイ。これ、言わないといけないヤツだ。
「俺と決闘する時に、実力はヒトラ様よりも上だと言ってました」
「ほぅ」
「なんと傲慢な! ヒトラ様が、あの小賢しい奴の使用人ごときに、劣るものか!」
言わなきゃやかった……
「トラヒコ、シシゾウ。作戦変更じゃ。ヒョウカの次は妾がやろう。イーゼァとやらに直接、妾の実力を味わってもらうかの」
「ヒトラ様! そんな必要はありません。このヒョウカが全員、倒してみせます!」
「ヒョウカ。妾は昨日にアレほどの啖呵をきったのだ。少しぐらい刀を振るわせて貰えんか? 妾の愛刀も血を欲してるのでな」
「分かりました」
ヤバイよ。ヤバイよ。
ヒトラ様は怒らすと、マジで危ない人だよ!
「タツキ。もう良いであろう? 観客席から妾があやつを、仕留める姿を見るといい」
「あっ。はい。分かりました。失礼します」
俺は早急に天幕を出ようとした。
「そうじゃ! 肝心な事を忘れておった」
「はい。何でしょうか?」
「決闘が終わったら、妾の屋敷に1人で来い。話がある。ノアにも会わせてやろう」
そうか。勝ちは揺るがないと。
そして、せめての情けにノアに合わせてくれるのか。
「分かりました」
俺は天幕を出て、待ってたシェンユと一緒に観客席へと向かった。
ノアは、ヒトラ様の物となるだろう。
さて、どうやって奪い返すか? ゼルトワ達よりも難易度が上がった気がする。
ノアが、もしも夢のように虐殺したとしたら、ワナン国も敵にまわるぞ……
チケットの指定席に行くと、ダリアさん、ユウ、ジョノ、ヒルデさんがいた。
「あっ。タツキさぁーん! こっちです」
「ヒルデさんの隣か。ありがとう」
「何でコイツが一緒なんだよ! コイツら魔女教団はエクスィーの未来を、1つ潰したんだぞ! 分かってるのかタツキ!」
「まぁ、まあ、ユウ。仲良観戦しよう。な!」
「ふん」
そういえば、ユウは魔女教団のヒルデさんが嫌いなんだった。
「何で、こんな席なの? オイラは昨日みたいに皆、近くにいると思ったよ」
「今日は急遽決まった決闘でしょ? チケットを買ったタイミングもバラバラだし、仕方ないんじゃないから?」
「そういう事なんだ」
「それより、ヒトラさんとは話できたの? 会いに行ってたんでしょ?」
「あぁ。話せたよ。負ける要素が無いってさ!」
「だろうな。俺らのクラスで1位のヒトラ様だぞ?」
「ユウは、もう良クラスでしょう。じゃなくてノアについては?」
「取られちゃいそうだ……」
「そう……」
皆少し、うつむいた。俺とノアの絆は皆よく知っている。何かと思ってくれてるのだろう。
『さぁ皆さぁ~ん! 私の事を待ってたかしらぁん? まさか急遽こんな素晴らしい祭り事ができるとは思ってなかったわぁ~ん』
そうか。毎回、アンタなのか。
そして、昨日も聞いたような、この決闘が行われる経緯と簡単な両陣営の紹介が行われる。ヒトラ様はの流派は、“幻魔心流”の中級と紹介された。
客席が、どのめいたので、シェンユに聞くと、「決闘術5大流派の中で修得が2番目に難しいと云われているんだよ」と教えてくれた。横からユウが「6大流派な!」と訂正してシェンユが苦笑いをしていた。
なんだろう? 謎の流派が1つあるのか?
そして、逸話と功績については、数多く。とだけ紹介された。
『では、賭けは締めきらせてもらうわぁ~。実は昨日は大損しちゃったわぁ~。やっぱり~、賭けるならイケメンによねぇ~』
ブ男で悪かったな!
『でも、トラヒコちゃんも、ゼルトワちゃんも選べないから、今日は困ってしまったわよぉ』
おい! 決闘はゼルトワとヒトラ様だろうが!
『ルールは昨日と一緒よぉ。ひと~つ、気絶させる等で戦闘続行不能になる! ふた~つ、意識があり負傷が無くても戦意喪失する! み~っつ、敗北宣言をする! いずれかが満たされた時にぃ~敗北となり、退場させられるわぁ。決闘相手の陣営の戦える人がいなくなったら勝利よぉ~。今日は、このぐらいで理解してくれてそうねぇ。では~、いくわよ~。両者構えて!』
東側はガリャンとベムが構えている。昨日は、ほとんど外傷を与えなかったし、1日時間があったから元気になったみたいだ。
対して西側はセクシーくノ一のヒョウカさんだ。気合いが入ってるのが分かる。
『決闘開始!』
始まりの合図と同時に、小さな破裂音がして、闘技場の中央が煙につつまれた。ガリャン、ベム、ヒョウカさんの3人の姿が見えなくなる。
観客席が、ざわめき、進行役と盛上げ役が、拡声器で実況すること、だいたい2分ぐらいして、煙の中からヒョウカさんが現れてた。そのまま、歩いて西側門付近で正座をしている他3人の所へ戻り、ヒトラ様に一礼して正座をした。
『ど、どういう事だぁあ? まだ、そんなに時間は経ってないぞぉ! まさか、決闘者ガリャン、ベムの両名はやられたのか? 終わったのかぁあ?』
すると、ヒトラ様とトラヒコさんが立ち上がり、煙のすぐ側まで移動する。
そしてトラヒコさんが、刀を大きく薙ぎ払うと突風が起きて、煙が霧散した。
「タツキ、アレが擬似宝剣だよ」
「擬似宝剣?」
「小さな特殊効果を持つ剣さ。使用も10振りすると壊れるらしい。本物の宝剣には、及ばないけど、結構便利な武器だよ。そして、あの、おじぃちゃんが、擬似宝剣鍛治師のシシゾウさんだよ。なんと、材料さえあれば、冒険中でも戦闘中でも擬似宝剣を作っちゃうんだ。凄いよね?」
「スゲェな。それ」
シシゾウさんの正座する隣には、控え天幕にあった20本もの刀が置いてある。
アレが全部、擬似宝剣だとすると、凄い戦力だ。
煙が完全に晴れると、倒れて動かない2人の姿があった。
まさか、死んでないよな?
こんな短時間って事は一撃か? 煙を撒いて、背後から急所を狙ったのか? ヒョウカさんって、完全に忍者やん!
『なんて事だぁ! 2人とも倒れているぞぉ! 恐るべき決闘者ヒョウカ! 情報によりますと彼女も幻魔心流の初級の使い手だそうだぁ!』
「邪魔だ! 雑魚共を退けろ!」
ヒトラ様が大きく叫ぶと、ゼルトワ側からすぐに使用人が走ってきて、ガリャンとベムを回収していった。
そして、イーゼァが中央へと歩いていく。本当はヒトラ様が元の位置に戻る予定だったろうが、俺の余計な一言で、トラヒコさんが元の位置に戻っていく。
決闘が始まって間もないのに、もうクライマックスの開始だ。




