第119話 殺しはルール違反だぞ?
「最後の警告です」
仰向けに倒れている俺を、イーゼァが見下ろしている。
「敗北宣言をして下さい。右は利き手でしょう? 1つでも残るのと、四肢の全てが使えないのでは、かなり生活が変わりますよ?」
「そうだな。もう勝てる気がしない」
本当は、まだ、ここから逆転する要素は残っている。けど、何故かそれは上手くコントロールできない。
「では、どうぞ」
「悪いが、最後まで付き合ってもらえないか? こんな俺だけど、俺を信じてくれる人達がたくさんいるんでな。敗北宣言だけはできない」
そうだ。ノアだけじゃない。皆が俺の奇跡を信じてくれている。
「素晴らしいですね。この状況で、まだ諦めないというのか」
「それしか、取り柄が無いんでな」
「私は貴方を見誤っていた。ゼルトワ様を入れれば4対1の決闘に抗議もせず、こちらは専用の特殊な武器を持っているが、貴方はただの木刀だ。さらに、こちらが要求したのは、最も大切としている使用人。対して要求されたのは、はした金だ。それなのに、正々堂々と全力で挑んでくるとは…… 貴方は素晴らしい武人に値する」
いや、決闘をよく分かってなかっただけなんです。
「貴方のような人は、シン大帝国の為に4大貴族の下で仕えるべきだ。それが国の為になり、人族全体の為になる」
なんか、ちょっと、ヒトラ様と似てる考えの持ち主なのか?
「共にゼルトワ様に仕える気は無いか?」
「へっ?」
それは、絶対に無いだろ!
「ゼルトワ様は、努力しない者、立場を理解していない者に対して、必要以上に強く当たる悪弊があります。ですが、それは国を想っての事。相応の事を成せば評価し、認めてくれます。血筋と財力や権力だけを評価する他の貴族とは違うのです。この私もゼルトワ様の良さ知ったのは最近の事です」
ゼルトワに仕える人達にとって、それなりの仕える理由があるんだな。
にしても、あの金額を、はした金というのか……
「無理だな。俺から言わせれば、全ての人が、その人なりの努力をしている。小さな努力を笑う奴に仕える気はない」
「貴方の使用人は、これからゼルトワ様に仕える事になるでしょう。貴方もゼルトワ様に仕えれば、一緒にいる事ができますよ?」
「なっ! それは、たしかに」
その、発想は無かったな。
「私から進言します。ゼルトワ様は私の言う事には耳をかしてくれますので」
「他の人の言う事も、ちゃんと聞くように言っててくれ!」
今のは、不快に思ったか? イーゼァが、少し顔を歪ませた。
どんなに好条件でも、ゼルトワに仕えるのは無理だな。
努力をしていない? 立場をわかってない? 共感できる部分もあるよ。理解できる所もある。まさに、前の世界の俺だよ! 大嫌いだよ!
自分の実力と出来る事を分かってなくて。立場的に、やるべき事と、やってはいけない事も分かって無かった。
でも、それが全てじゃないだろ? 俺だって、俺なりに努力してたつもりなんだ。だから、証明したかったんだ。あの人は間違っていない!
あの人が、普通に考えれば、間違った事したって分かってるよ。でも、それが必要だったんだよ! あの時はアレが最適解だったんだよ!
俺は実力や立場だけで、全てを決めつけるのは好きじゃないな! 人と人は信頼とか、愛とか、計るのは難しい事で繋がっていると思う!
「ノアは俺だけに仕えてくれる。俺もノアの主人以外になる気はない」
「ならば、死をも覚悟して下さい! 決闘のルールに反しようとも、ゼルトワ様の意志を遂行するのが私の役目!」
今度こそトドメの一撃を放つべく、剣が振り上げられる。
『何か会話をしているようだったが、決闘者タツキの命乞いだろうか? ルールでは殺しは御法度となっているから心配するなぁー。それとも時間かせぎか? まだ立ち上げれるのか? ここから逆転があるのか? さぁ、どうなるぅ?』
『頑張ってタツキちゃ~ん。ノアちゃんが取られたら、おねぇさんが、使用人になって怪我の世話してあげるわぁ~』
お前は、いらん!
時間稼ぎか…… いい案だな。けど、脚の再生には1時間ぐらいはかかるだろう。そんなには稼げない。
俺の“怠惰”の能力が覚醒状態まで発揮されれば勝機はあるんだが、発揮される気配はない。
俺の中に魔力が大量流入されるトリガーは誰かを守りたいという気持ちだ。それは間違い無いだろう。しかし、それは簡単ではなかった。
思い込みでは発動されない。今、突然、野生のドラゴンが襲ってきて、もしくは怪人がやってきて、ユウツオがピンチになる。シェンユやダリアさんを守らないといけない! と思っても発動しない。そんな可能性は低いからだ。
おそらく無意識のうちに俺が、そんな事は起こりえない。と思っているからだろう。
可能性というか事が起こっていれば間違いなく発動する。サンダイルとの闘いがまさに、そうであった。大平原の横断中もそうだった。目の前で起こっていれば間違いなく発動される。そして、可能性として起こりえるならば発動する。
夏休みにシェンユと一緒に、円柱地形の上にあるシェンユの故郷で、たまに訓練してた。誰も来ないし、ある程度の広さがあるので良い場所だった。しかも、かなりの高さがあるので、結構遠くまで見渡せる。
すると、偶然にも空飛ぶドラゴンを見つけたのだ。何もしないで飛び去って行く事が多いが、気まぐれで街を襲ったりする事もあるらしく、その時の俺は魔力が溢れて「タツキ! 魔闘気が使えてるよ!」ってシェンユに言われてしまった。まだユウツオが襲われているワケでは無いのに。
誰かも守らなくてはいけない。その可能性が高ければ発動する。
なので、おそらく今回は発動しないのだろう。
俺は最初から、ガリャンとベムと戦う前から、ロナウと会話をしてる時から「ノアを守りたい」と強く思っている。本気で、心の底から思っている。
しかし、そんな事は必要ないのかもしれない。
常にノアは俺を守ってくれる立場だし、俺が負けてもノアがゼルトワに奪われても死ぬワケでは無い。俺の精神が死ぬかもしれないぐらいだ。
そして、決闘前のあの言葉……
さすがにノア4を爆破させたりはしないだろう。貴重な残機だし。けど、何かしら戻ってきそうな気はしている。
そして何より、ノアは能力発動の対象外かもしれない。
「殺しはルール違反だぞ?」
イーゼァの剣には鞘が1つも付いていない。ルールを無視すれば決闘が無効になるらしく、つまりノアはゼルトワの使用人には、ならない。
この作戦でいくか? 心臓に剣を突き立ててもらって、いったん死んだ事にするか? 時間が経てば復活できるだろうが、それはそれで、後から問題になりそうな気がする。
最悪の場合、ユウツオから去らないといけなくなるか?
色々と考えているうちに、剣が振り下ろされた。本当に殺すつもりだったのか、寸止めで恐怖させ敗北宣言を引き出そうとしていたのか、分からなが、俺は唯一、動かす事のできる右腕を剣に貫かさせた。
掌に剣が深々と刺さる。でもこれで、剣を封じた。
『おっとぉ! これは苦肉の策だ! 最後の一撃も右腕を犠牲にして防いだぁあ! これまで様々な決闘がありましたが、使用人の為に、ここまでボロボロになっても戦う男がいたでしょうか? 決闘者タツキ、恐ろしい執念です!』
『違うわよぉ~! これは愛よ! 主人タツキから使用人ノアへ対しての愛よぉぉおおお』
実況者と司会進行って、毎回この2人が担当してるのか? ちょっと、うるさいぞ!
右の掌に剣が貫通していて、かなり痛そうだが、ペインアブソーバー的なのは発動しているんだろう。感覚が麻痺していて、痛みが熱に変換されている。いつもよりは多めに魔力が流れて再生速度が上がっている気はするが、身体能力は上がっていない。
「捕まえたぜ? これで、連撃も重い一撃も奥義も使えないだろ?」
この状態で、手足が再生するのを待つか? でも再生したとしても、俺の実力じゃ、イーゼァに勝つ事は出来ないだろう。最低でも“怠惰”の能力の覚醒状態が発動しない限りは勝てない。
「掌を切り飛ばせば、何の問題にもなりません」
そうか。魔闘気なら、それぐらいできるか。それは問題だな。この世界では欠損した部位を生やすなんて、術は存在しない。
大勢の前で掌が消えて、後日、元通りになってるのはマズイ。
「でも、その必要もありません。せめての情けです。掌は残してあげましょう」
すると、地面に転がっていた2つの鞘が浮かび上がった。ゆっくりとした動きで、俺の顔の左右に回り込む。
「終わりにします」
鞘が俺の首に圧力をかけてくる。2つの鞘と地面で三角形を作り、その内側に相手の首を収めて、ゆっくりと締めていく。
今回の相手というのは俺にあたる。まさか、俺がガリャンに決めた三角締めで、俺が落とされる事になるとは!
左腕も両脚も動かない。剣が刺さってる右腕も、当然、動かない。
これまでの疲労。損傷したボロボロの身体、すり減った精神。圧倒的実力差を感じて、少し絶望していた俺は、5秒もしないうちに意識を手放した。




