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「あのさ、鈴」
食器を洗っている鈴の背中へと話しかける。
「はい、なんですか?」
手を止めて貴行の方を向く。
「その耳とか尻尾って何の動物のなの?」
貴行は気になっていた。
黒い毛が生えた耳と尻尾。
「動物ですか? 動物じゃないんですけど、でも強いて動物で言うなら犬です」
「犬だったんだ」
貴行はこの時にようやく鈴に生えている耳と尻尾が犬の類の物だと知る。
共同生活を始めてから1ヶ月近く経っていた。
「犬に近いんですけど厳密に言うと犬の神霊です、神様に仕える存在として神様の御霊の一部を頂いて生み出されました」
「犬は忠誠心が強いからとかそんな感じなの?」
「そうです、犬は忠誠の象徴みたいな動物ですから」
「ほ、本当にそうなんだ」
「そうなんですよ」
鈴は笑顔を見せて耳を動かし尻尾を軽く振った。
「あ、あんまり見ないでください、なんか恥ずかしいです」
「あ、ご、ごめん」
貴行は顔を赤くして俯いてしまう。
それを見た鈴も頬染めて、それを紛らわすように洗い物を再開する。
少しの無言のあと貴行が口を開いた。
「ところでさ」
「な、なんでしょうか」
今度は振り返らずに洗い物を続ける。
「お花見に行かない?」
「……お花見ですか?」
また鈴の手は止まる。
「わ、私と?」
「うん」
「ご主人様、で?」
恐る恐るといった様子でゆっくり貴行の方を振り返る。
「うん、俺と鈴で」
「行きたいです、お花見」
耳を萎めて尻尾を垂らし、頬を紅潮させて、目は真っ直ぐに貴行を見つめている。
その真剣さと可愛らしさに貴行は少し戸惑いながら答える。
「そ、そっか、そこの山の所にある公園さ」
「はい」
「人があんまり居なくてそれで大きい桜が一本生えててお花見にぴったりなんだよ」
「そうなんですか、そこへ連れて行ってくれるんですか?」
期待を込めた眼差しを向ける。
「うん、そこに行こう」
「嬉しいです、私とびきり美味しいお弁当を作りますね」
潤んだ瞳の鈴の笑顔は純粋さを湛えて輝いていた。




