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京子はすぐに貴行の隣へと引っ越した。
宣言の通りに丁度4日後には荷物の搬入が終わっていた。
早々に引越しの挨拶を兼ねて貴行の部屋へと赴く。
チャイムを押しながら声を掛けた。
「貴行ー、来たわよー!」
鍵の開く音がして、ドアが開かれる。
部屋へと入った京子の目には寝ぼけ眼で自分に対応する貴行の姿と、正座をしながらそれを見つめる鈴の姿が映る。
「本当に一緒に暮らしてるんだ……」
頭では分かっていた事を改めて実感した。
「でも監視って、何するつもりなの?」
貴行が質問をすると京子は気を取り直して答える。
「あ、そ、そうそう、監視って言っても時々様子を見に来たり、貴行まともな物食べて無いだろうから食べ物も何か持って来てあげる」
「あ、あぁ……」
「何? なにかあるの?」
貴行は言い難そうに言葉を出す。
「りょ、料理は、鈴がしてくれるんだよね……」
目を逸らす。
「鈴? 鈴ってその女の事?」
鈴の方を見る。
「うん、そう」
「……ふーん、私の料理よりもその人の胸の大きな料理の方がいいんだ?」
「え?」
「貴行、家に居る時から大きなおっぱいが好きだったもんね」
そこまで言われてやっと意味に気付いた貴行は弁解する。
「す、鈴はそんなんじゃないんだってば、説明したでしょ?」
「じゃあ何で胸が大きいの? 違うなら小さくても良くない?」
京子の言っている事は支離滅裂だった。
「し、知らないよ」
「無職で、穀潰しで、それで若い女と同居なんて、アンタは本当に救いようの無いゴミよね」
悪態を吐きながら貴行の横を通り抜け、ちゃぶ台の前に敷かれた座布団へと腰を下ろす。
「お茶」
「あ、はい、ただいま」
貴行に言ったつもりだったが鈴が立ち上がってしまい少し戸惑う。
貴行はドアを閉めてちゃぶ台の前へと座った。
京子が使ってしまっているので座布団はなく直接畳へと座る。
鈴が席を立って空いた座布団を奪うという事は良心の呵責によって行われなかった。
「仲が良いんですね」
ヤカンを火にかけながら鈴は言う。
「そ、そう?」
貴行が返事をする。
「そうですよ、仲が良いのは良い事です」
鈴は貴行と京子とのやり取りにはあまり口を出さない。
それは兄と妹とのやり取りは部外者である自分が割って入れる物ではないと考えているからだ。
例え、それが自分の進退に関わる事であったとしても、決まった事に身を任せようと考えていた。
それが恩人である貴行への気遣いだった。
自分が変に口を出してしまえば、長年の兄妹関係に影を落とす事になるかも知れない。
そうなれば貴行が悲しむ結末を見る事となってしまうかもしれない。
加えて鈴は貴行と京子の仲を信頼もしていた。
自分の事で言い合いになっていようとも、貴行と京子は兄と妹、家族だ。
部外者の自分が口を出さなければ、二人の仲は何れ丸く収まる物だと考えていた。
しかし、それと同時に妹である京子が兄である貴行に対して恋愛感情を抱いているという事にも気付いていた。
それに関しては鈴も譲るつもりはなかった。
兄と妹との間に割って入る事はできないが、男と女としての想いならば自分も京子も同じだと思っていた。
京子と貴行は長年を一緒に過ごしたがそれは恋人としてではなく、兄妹としてだ。
それは現在の貴行と京子とのやり取りを見ていた鈴にも分かる。
妹として積み上げた物はあっても、恋人として積み上げた物はない。
いつの間にか鈴は貴行へと恋心を抱いていた。
手を差し伸べ、律儀に秘密を守り、暖かい言葉を掛けてくれる。
そんな貴行の事が好きになっていた。
「どうぞ」
京子と、貴行にもお茶を出す。
「あ、どうも……」
京子はそのお茶を手に取り気まずそうに啜った。
「なんで最近そんなに不機嫌なの?」
貴行の無神経な言葉に京子はちゃぶ台を叩く。
「はぁ!? うっさい!! 死ね!!」
「うわっ、熱っ!!」
ちゃぶ台が揺れて落ちたお茶が貴行の太股へと掛かる。
「あ……ご、」
「大丈夫ですか」
京子がごめんと言い掛けた時にはすでに鈴が貴行のズボンを脱がせていた。
その様子を見て京子は一抹の寂しさを覚える。
京子が謝罪の言葉すらも述べられない内に鈴は手際良く貴行の介抱をした。
それが京子の心に小さな穴を開ける。
「私、荷物の整理があるんだった」
京子は立ち上がって部屋を出る。
外へ出て貴行の部屋のドアへと寄りかかり、一言呟いた。
「……馬鹿」




