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「え? あんたザリガニなんて食べたの?」
貴行が昨日の事を話すと京子は目を丸くした。
「京子がお金貸してくれないし、食べ物もくれないから」
貴行は京子に対して恨みを漏らす。
「酷いの、京子は」
刀間はどうやって見つけたのか貴行のエロ本を捲くっている。
「あわっ! 刀間! それはダメ!」
鈴と、すでにエロ本へとお金を付き込んだと知っている京子にも見られたくなかった。
もちろん刀間にも見られたくなかったが、刀間に関してはもう手遅れだった。
急いで刀間から本を奪い取って押入れの襖を開けて本を放り込んでから閉めた。
刀間はしばらく本を持ったままの姿勢で居たがやがて手を太股の付け根へと置いた。
貴行は慌てていたが京子はその様子を気にしていなかった。
それよりも貴行が自分の所為でザリガニを食べるまで困ってしまったという事に罪の意識を感じていた。
「あ、アンタが悪いんでしょ……」
俯いて震える声で言う。
「アンタが、えっちな本なんて買うから悪いんでしょ!!」
自分の罪悪感を振り払うように京子は叫んだ。
その言葉に鈴が反応する。
「えっちな本ですか?」
「あわわわわあああああ!! あああああ!!」
うやむやにしようと貴行は大声を張り上げた。
「貴行、うるさいぞ」
刀間は冷めた視線で貴行を見た。
京子は顔を赤くして言葉を続ける。
「で、でも、あんまりにも可愛そうだから、食べ物を買ってあげるわよ」
「え? いいの?」
「お金を上げるとまたえっちな本、」
「うわああああああああ!!」
貴行のおかしな様子に気付いた鈴が貴行を見る。
「ご、ご主人様、さっきから大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫だよ、それより京子、続けて」
鈴に心配は無いという事を伝えてから、えっちな本という言葉を発するなと京子に目配せをする。
それに京子は溜め息を付いて了承の意思を表した。
「お金を上げると無駄使いしそうだから、一緒に4日分の食べ物を買いに行きましょう」
「あ、ありがとう!」
その言葉を聞いた貴行は目に涙を浮かべて京子の手を取った。
「べ、別に……良いわよ……」
京子は貴行に手を握られて頬を赤くする。
「私は待ってますから」
「私も行かぬ」
鈴は家事から、刀間は怠惰から留守番の意思を表明した。
京子は貴行と二人きりで買い物に行くという事が咄嗟に頭へと思い浮かんでさらに耳まで真っ赤にした。
その様子に気付いた貴行が声を掛ける。
「顔赤いけど熱? 大丈夫?」
「だ、大丈夫よ、馬鹿……」
京子はしおらしい態度になっていた。
訪れるスーパーは京子がアルバイトをしているスーパー。
田舎にも出展する中型チェーン店であり品揃えも中々の物だった。
貴行の生活圏にあるスーパーはここ一つだけだ。
「で、貴行は、何食べたいのよ」
「なんか京子さっきから様子おかしくない?」
「お、おかしくないわよ」
京子は貴行と二人で食べ物を買いにスーパーへと来る等新婚のようだと思っていた。
バイト先という関係上、知り合いにも当然出会う事になる、もし誤解されてしまったら等と考えると、頬が火照った。
「あ、お、お刺身とかどう? 海鮮物好きでしょ?」
京子は目に留まった貴行の好物を勧める。
「食べたいけど、日持ちしないよね」
貴行のその言葉に京子は納得した。
今日は貴行の好物を買いに来た訳ではなく、4日分の食料を買いに来たのだった。
貴行との二人きりの買い物に浮かれていた京子はすっかり失念してしまっていた。
「そ、そうね、今日はやめておこう」
「日持ちする物、日持ちする物……缶詰かなぁ」
「か、缶詰? 4日もずっと缶詰食べるの?」
「うん、余っても取って置けるし」
京子は貴行の逼迫した生活を察して悲しくなった。
「アンタ、難民みたいな生活してんのね……」
「いや、そんな事ないよ、普段はお金あるし、鈴が新鮮な料理出してくれるよ」
貴行の口から出た鈴という言葉に京子の表情は曇る。
「今鈴さんの話はやめて、貴行は私と買い物に来てるの」
京子は少しでも貴行との二人だけの時間を感じていたかった。
そこに鈴と言う他の女の名前が出るだけで少し不満を持ってしまうのだ。
京子の口調と表情から静かな怒りを感じ取った貴行は意味を理解する事はできなかったが大人しく引いた。
「あ、ご、ごめん」
京子はあえて何事もなかったかのように話し始める。
「やっぱりお刺身買ってもいいんじゃない? 今日食べれば」
京子は先程の納得の際に漠然と感じていた違和感を具体的に掴んでいた。
今度は貴行が納得させられる。
「そう言われるとそうだね」
「じゃあ今日は特別に奮発して、柵で買ってあげる」
京子は貴行へと笑い掛けた。
貴行と二人で居られる事への、心の底からの純粋な笑顔だった。




