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貴行は揺らめく炎を見つめていた。
「なんで真夏に焼き芋……」
夏の照りつける日差しと高い気温、そして目の前で燃え盛っている焚き火の熱も加わって、貴行は汗でびっしょりになっていた。
着ている半丈のズボンやTシャツは汗が染みていない所が無い。
「ちょっと、文句言ってないでちゃんと見てなさいよ」
京子はかなり後ろから貴行が怠けないように見張っている。
「なんで京子が言い出したのに自分でやらないの?」
「こ、怖いからよ! 言わせないで!」
「は?」
京子は焚き火で作った焼き芋が食べたいと自分で言い出しておきながら火が怖いからと後ろから命令を出していた。
「まぁまぁ、いいじゃないですか、確かに火は危ないんですし」
鈴は額を湿らせてはいるが涼しげな表情をして薪を焚き火へとくべている。
貴行は暑さにも寒さにも強いという鈴を少し羨ましく思った。
「なんじゃ、もう根を上げるのか、情け無いぞ」
刀間は賽銭箱の前の階段に腰を下ろし、腕組みをしながら貴行を見ている。
「刀間、ちょっと交代してよ」
貴行は芋を見張る役目の交代を刀間へと頼む。
「いやじゃ」
特に理由もなさそうに断られる。
「くっそ……」
文句を口の中で漏らしながら貴行は芋の見張りを続けた。
貴行と鈴と京子と刀間は神社へと集まって焼き芋を作っている。
京子が言い出した事に鈴と刀間が乗り、貴行は付き合わされる形となっていた。
「ほら、たぶんこれもう焼けてるよ、誰か食べる?」
貴行は火箸で、湿らせた新聞紙で包んでからアルミホイルで覆って蒸し焼きにしたサツマイモを取り出す。
刀間の方を見ると貴行のすぐ背後を目で差す。
貴行がそちらを見ると京子が軍手を填めて立っていた。
「早く頂戴」
貴行は火鉢で掴んでいるアルミホイルで包まれたサツマイモを少し見る。
「どうぞ」
火傷をしないよう慎重にその焼き芋を京子へと差し出した。
京子もそれを慎重に受け取る。
アルミホイルの上の部分を破いて、次に中にある新聞紙を破く、すると焼けた芋の頭が顔を出す。
京子は目を輝かせながら、頭頂部の硬い部分をもぎ取って捨て、頭から焼き芋へと齧り付いた。
「美味しいですか?」
その様子を見ていた鈴が声を掛ける。
「うん、美味しい」
京子は勢い良く焼き芋を食べて行き、すぐに平らげてしまった。
「そんなに焼き芋食べたかったの?」
「そうよ」
無い胸を張って言う京子に貴行は苦笑いを浮かべる。
「早く次の」
「あ、あぁそっか」
京子に言われて貴行は焚き火へと向き直った。
再び熱気へと晒されて思い出したかのように汗が流れ出し、地面に染み込んで行く。
「ご主人様、もう薪は要りませんよね?」
「あ、あぁ、うん、一個焼けたって事はもうほとんど焼けてるって事だからね」
鈴は薪を入れる作業を終りにして貴行の隣へと来る。
「どれが焼けてますか?」
揺れる炎を眺めながら聞く。
「これとか、火の強い所にあったからもう良さそうだね」
貴行は火の中心部近くにあった焼き芋を引っ張り出す。
それを見ていた京子は貴行へと声を掛けた。
「寄越しなさいよ」
京子はまた自分が食べるつもりだった。
「京子はさっき食べたから次は鈴か刀間だよ」
その言葉を聞いた京子は悲しそうな表情を浮かべて静かになった。
貴行が食べるつもりならば奪ってしまおうと考えていたが鈴や刀間の物となると気が引けたからだ。
「私はまだ良いので刀間様に上げてください」
「わかった、刀間」
貴行が刀間へと軽く声を掛けると刀間は立ち上がって手を差し出す。
「熱いよ?」
素手で受け取ろうとする刀間を貴行は心配した。
「大丈夫じゃ、神霊は通常の炎の熱程度で火傷を負ったりはせぬ」
「そ、そうなんだ」
貴行は刀間へと焼き芋を渡した。
包装を開き、一口頬張る。
「美味い」
頬に芋の欠片を付けながら微笑んだ。
「ご主人様、この端の方にある奴ももう良いんじゃないでしょうか」
鈴は後で良いとは言った物の待ちきれない。
「そうだね、もう全部出しちゃおうか」
「はい」
貴行が一つ火の中から焼き芋を引き出すと京子は透かさずその一つを手にとって食べ始める。
その様子を鈴は困った笑顔を浮かべながら眺めていた。
貴行は一つまた一つと火の中からアルミホイルに包まれた焼き芋を取り出して計5つの焼き芋を引っ張りだした。
すでに京子と刀間が食べている物も合わせると合計8個の焼き芋が作られていた。
貴行は疲れ、休憩を取る為に芋を頬張る刀間の横を抜けて刀間が座っていた階段へと腰を下ろした。
鈴は置かれている5つの芋の一つを手に取って、包みを剥がしながら貴行の元へと向かう。
「どうぞ」
息を吹きかけ、冷ましてから貴行へとその芋を差し出した。
「あ、ありがとう」
貴行はそれを受け取り少し頬を染める。
その光景を芋を頬張りながらの京子と刀間が見ていた。
「た、貴行、た、食べかけ、じゃが、どうじゃ?」
「貴行、私のも食べさせてあげる、美味しいわよ」
すぐに鈴の真似をして食べ掛けの芋を差し出す。
「い、いや、これもそれも同じでしょ」
京子と刀間は示し合わせたように不機嫌な様子になる。
「なんじゃ、鈴が出した物は食べられて私が出した物は嫌じゃというのか」
「鈴さんのは良くて私のは嫌なの?」
「い、いや、そういう事じゃなくてさ、同じでしょ?」
貴行は鈴と刀間の勢いに腰が引けた。
「同じではない!」
「同じじゃない!」
ほぼ同時にその声は発せられる。
鈴はその様子を眉を困らせた笑顔を浮かべて見守っている。
辺りには焚き火の木の跳ねる音が響いていた。




