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  京子は話があると言って貴行を自分の部屋へと呼んでいた。

 実際は特に話等はなく、ただ二人きりになりたいからだった。

 貴行はドアを開けて京子の部屋へと入る。

「京子の部屋の入るなんて久しぶりだね」

「そ、そう?」

 京子は頬を赤らめた。

「で、話ってなんなの?」

 京子は貴行の言葉をあえて聞かない。

「ところで貴行、お腹減ってない?」

 初めから話等無いからだ。

「いや、別に減ってない、それでさ」

「いやいやいやいや、減ってなくても食べてよ」

「え?」

「久しぶりに私の手料理が恋しいでしょ?」

「別に恋しくないけど」

「恋しいでしょ?」

「恋しくない」

「私の料理食べたいでしょ?」

「食べたくない」

 京子は貴行の腹へと拳による打撃を加えた。

「食べたいでしょ?」

 貴行には訳が分からないがこれ以上の苦痛を被らない為には同意するしかなかった。

「はい」

「じゃ、そこに座って待ってて」

 部屋の中央に置かれた木目のお洒落なテーブルの前へと座る。

 部屋は簡素だがきちんと整頓され、随所には拘りも感じられた。

 真面目な京子らしい部屋だった。

「じゃあステーキを焼くわね」

「ステーキ? なんでステーキ?」

 京子から発せられるステーキと言う言葉に貴行は目を丸くする。

「なんでって貴行ステーキ好きよね?」

 笑顔で貴行を見る。

「ま、まぁ好きだけど、なんでまたステーキなの」

「ごちゃごちゃうるさいわね、また殴られたいの?」

「いえ」

 貴行は恐怖を感じてすぐに席へと直った。

 京子は僅かに頬を赤らめている。

 冷蔵庫からステーキが出され、塩と胡椒が振りかけられる。

 コンロに火をつけてフライパンを暖めた。

「ねぇ、貴行」

 京子は背を向けたまま貴行へと話しかける。

「何?」

「鈴さんの料理って美味しい?」

「あ、うん、美味しいよ」

「私の料理よりも?」

 振り向いた京子の目尻には涙が滲んでいた。

 そのしおらしい様子に貴行の心は刺激を受ける。

「あ、いや、京子と同じぐらい」

「本当に?」

「ほ、本当」

 貴行は妹である京子に少しときめいてしまった。

 普段は粗暴な京子のしおらしい態度。

 とても貴行の心へと来る物があった。

「そっか、時々私の料理も食べてよね」

 心が動かされかけている貴行は普段よりも京子に対して素直になっていた。

「わ、わかった」

 牛肉がフライパンへと下ろされて、焼ける音が響き、しばらく二人は無言になる。

 肉が焼けると京子は貴行へと声を掛けた。

「ほら、私の奢りよ」

 京子は1円でも惜しい生活費の中から貴行に食べさせる為にステーキ肉を用意していた。

「ステーキ食べるの久々」

「そうでしょ」

 貴行の向かいへと腰を下ろす京子の前には何も置かれていない。

「あれ?」

「どうしたの? あ、飲み物ね」

 貴行は飲み物がない事を気にした、と思った京子は立ち上がって冷蔵庫からペットボトルのお茶を出す。

「あ、いや、飲み物じゃなくて、京子の分のステーキは?」

「私お腹空いてないから、ほら、食べて」

 京子は笑顔でテーブルにお茶を置いて座った。

「そ、そんな、俺だけ食べるなんて、なんか気まずいんだけど」

「私が良いって言ってるんだから良いのよ」

「で、でもね……」

 貴行は軽く思案顔をする。

「あ、そうだ、俺もあんまりお腹減って無いし、半分食べてよ」

「え?」

「こっちこっち、隣に来て」

 貴行のその言葉に京子は頬を染めた。

「い、いやよ、貴行の隣なんて、汚い」

 本心では貴行の隣へと行きたかったが恥ずかしさから心にも無い言葉で突き放してしまう。

「じゃあ半分残して捨てるけど良いの?」

「そ、それは良くない」

「じゃあこっちに来て、半分食べて」

 京子は少し固まってから無言で貴行の隣へと座布団を引き摺って移動した。

「はい、あーん」

 貴行は一口大に切り分けたステーキをフォークに刺して差し出す。

「な、なによ」

 京子の顔は一気に上気する。

「あーん」

 貴行は繰り返す。

 少しの間、目を逸らした京子は意を決したように貴行が差し出すステーキを口に含んだ。

 ゆっくり咀嚼して嚥下する。

「美味しい?」

 恥ずかしさから味は分からなかった。

「あ、アンタも食べなさいよ」

 今度は京子がナイフとフォークを手に取り、肉を切り分けて貴行へと差し出す。

「あ、あーん」

 顔を真っ赤にして耳まで染めながら仕切りに目を逸らす。

 差し出される肉を貴行は頬張って食べる。

「美味しいよ」

「そ、そう」

 京子はステーキの味や感想等ではなく、貴行と間接キスをしたという事実が気になって落ち着かなかった。

 貴行は口に肉が入ったまま喋り始める。

「それで、話って結局なんなの?」

 貴行は気になっていた、何かとても大切な話かもしれないと思っていたのだ。

「あ、あぁ、それね、もういいのよ」

 京子は適当な事を言ってうやむやにしようとする。

「もういい? 教えてよ」

「嫌」

 京子は問い詰めてくる貴行を突き放す。

 それ以上は貴行も言って来なかった。

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