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  貴行は蒸し暑い寝苦しさで目を覚ました。布団と半ズボンはぐっしょりと濡れている。

 Tシャツは寝ている内に暑苦しく、脱いでしまっていた、上半身裸だ。

 遮光カーテンが引かれた窓からは光が漏れて入って来ている。朝だった。

 窓は3分の1程度だけ開けられており換気が十分ではない。

 貴行の部屋にエアコンはなく、寝苦しい日が続いていて、暑さで目を覚ます事は特段珍しい事でもなかった。

 しかし今日は何かが違う。

 貴行の背に何かが触れて熱を伝え、夏掛け布団内部の温度を上昇させている。

 それは良い草木の香りを漂わせて寝返りを打ち、貴行の背中へと抱きついた。

 貴行は振り返って背の方を見る。

 そこには鈴が晒巻き姿で貴行の背中へと大きな乳を押し付けていた。

 股間部とは違い、豊かな乳房よって前突している胸の晒は寝ている間に何度も貴行へと当たり、貴行の汗を吸って湿っており、より扇情的な雰囲気を際立たせていた。

 鈴には貴行が予備として実家から持って来てあった布団が与えられており、鈴はそれを敷いて昨夜も眠りに付いたが、寝ている内にいつの間にか貴行の布団へと移動してしまっていた。

 鈴は家に来た時から寝る際は足袋はもちろん着物と袴と長襦袢と肌襦袢も脱いで眠っていた。

 そしてそれらを脱いだ下にあるのは晒。

 鈴は下着の変わりに胸と股間部にそれを巻いていた。

 「ん、んぅ……」

 鈴が艶かしい声を出しながら貴行の背中へと顔を埋める。

 上半身に服を着ていない貴行の背中へと直接に鈴の息使いが伝わる。

 貴行は興奮した。

「お、おぉ、お、落ち着け」

 口の中で呟いてから深呼吸をする。

 貴行は平静を装う事ができると確認してから鈴を起こした。

「鈴、朝だよ、起きて」

 鈴の肩を揺する。貴行の手が直に鈴の素肌へと触れた。

 貴行の鼓動が早くなる。

「ふぁ、あぁぁ……ご主人様、おはようございます」

 鈴はすぐに目を覚まして、欠伸をしてから起き上がり、挨拶をしながら笑顔を見せる。

「お、おはよう」

 なんとか気を落ち着けながら挨拶をする貴行の様子を見て鈴は驚いた表情になる。

 それを見た貴行もなぜか驚く。

「な、何?」

 鈴は一瞬の間を空けてから言う。

「ご、ご主人様、すごい汗ですね」

 心底驚いた顔を見せた。

「そ、そうだね」

 そんな鈴に貴行は苦笑を浮かべながら答えた。

 そもそも貴行がこのように汗だくになってしまったのは鈴による所が大きかったからだ。

 きちんと鈴が自分の布団に寝ていれば、貴行は寝ている間にかく汗も少なくて済み、そして暑さで目を覚ましてから、おかしな冷や汗をかく事もなかったのだ。

 しかし貴行にとっては嫌な事ばかりでもなかった。

 鈴の柔らかい胸の感触が背中に残っている。

 貴行は苦笑を浮かべながらも驚いた顔をする鈴の胸元を窺い見ていた。

  目が覚めると鈴は自分の布団を畳んで押入れへとしまう。

 そして貴行に座布団へと移動するように促して、貴行が布団を後にすると、鈴が貴行の布団も畳んで押入れへとしまった。

 その後に服を着始める鈴の背中へと貴行は声を掛ける。

「ねぇ、鈴」

 鈴は振り返らずに答える。

「はい」

「こんなに暑いのに鈴は全然寝辛そうじゃないけど、暑いの平気なの?」

 貴行は気になっていた事を聞いた。

 鈴は貴行が知る限り、暑がったり、寒がったりする事がなかった。

 そもそも鈴は貴行の家に来た春先からずっと寝る時は晒巻き姿だった。

「神霊は暑さや寒さに人よりも強いんですよ」

「やっぱりそうだったんだ」

 貴行は薄々そんなような事があるのかも知れないとは思っていた。

 以前に刀間も風邪を引かないと言っていた。

  鈴が作った朝食を食べ終わって、しばらくテレビのニュースを眺めているとチャイムが鳴る。

 京子だった。

「おはよう貴行」

「なんでいつも朝から俺の部屋に来るの? 自分の部屋があるのに」

 貴行の開口一番の嫌味を聞いた京子は少し固まる。

 その後、徐々に顔を下に向けて行って、俯いて止まる。

 次の瞬間、貴行の股間に膝蹴りが食い込んでいた。

 よろめきながら数歩下がって負傷部位を手で押さえる。

 足の力が抜けて玄関へとへたり込んだ。

 京子も玄関へと入ってきて靴を脱いでから貴行へと一瞥をくれる。

「死ね」

 貴行は放置され、京子は貴行が使っていた座布団を乗っ取って、持って来た雑誌を捲り始めた。

 京子が何をしに来ているのか、貴行には分からなかった。

  京子は貴行の部屋へと貴行と過ごす為に来ていた。

 会話の無い時間や、ケンカ等も大好きな貴行との物ならすべてが大切だった。

 大切な時間を重ねて行く為に、貴行の部屋へと来ていたのだった。

 「ほんっと、何しに来てるのかわからないよ」

 京子の気を知らない貴行は無神経な文句を漏らし続ける。

 そんな言葉を貴行が吐く度に、京子は貴行の頭を平手ではたいた。

「自分の部屋にいれば良いのに」

 透かさず京子が貴行の頭を叩く。

「いて、家庭内暴力妹、ドメスティックバイオレンシスター」

 貴行は小学生のような悪口を紡ぎだす。

 それを聞いた京子はまた貴行の頭を叩く。

 そんなやり取りを何度も何度も繰り返す。

 その様子を見ていた鈴が噴出した。

「あはっはははっははは」

 貴行と京子は顔を見合わせる

「い、今の面白かった?」

 貴行が鈴へと聞く。

「面白い、というより、ははっ、子供同士のやり取りみたいです、本当に仲が良いんですね」

 楽しそうな顔の鈴に言われて、二人は顔を赤くして俯いた。

  昼を過ぎた頃に再び部屋のチャイムがなる。

 来たのは刀間だった。

 刀間は玄関に立ち止まり、笑顔になって言う。

「貴行が何時も暑苦しそうにしておるから、風鈴を持って来てやったぞ」

 そんな刀間の言葉に貴行は感想を漏らした。

「風鈴ねぇ、涼しくはならないけど、風流だとは思うよ」

 京子がそれに付け足す。

「風鈴だけにね」

 部屋が静まり返った。

 貴行と鈴と風鈴片手の刀間が一斉に京子の方を見る。

 貴行は分かっていて京子の傷を抉り始める。

「え? 今なんて言ったの? もっかいお願いできる?」

 貴行の恍けた顔を見た京子の腹の底から煮えたぎった油のような感情が顔を覗かせた。

 しかしそれ以上に恥の感情の方が大きく、貴行の言葉に答えないまま、顔を真っ赤にして身を震わせながら俯く。

 刀間は冷ややかな目で京子を眺めた後に草履を脱いで居間へと上がり貴行の座布団へと陣取った。

 鈴は何事もなかったかのように洗い物へと戻る。

「だから刀間、また俺の座布団取らないでよ」

 家に来た刀間が貴行の座布団を奪うのはお決まりの流れとなっていた。

 二つある内の座布団の一つは京子が使い、もう一つを貴行が使っていた。

 鈴は立っている事が多い為、座布団はあまり使わない。

「じゃったらほれ」

 横に体をずらして空けた座布団を叩く。

 また貴行の上へと座るつもりだった。

 貴行がそれを甘んじて受ける事もお決まりの流れとなっていた。

「よいっしょ」

 座りの掛け声を出しながら座るとすぐに刀間が貴行の太股の間へとお尻を乗せて女座りをする。

 その様子をまだ赤みの収まらない顔で京子が睨んでいた。

「ロリコン」

「俺はロリコンじゃない」

「ロリコンとはなんじゃ?」

 刀間は風鈴をちゃぶ台の上に起きながら聞いた。

 それに京子が答える。

「幼女に興奮する気持ち悪い変態の事よ」

 その言葉を聞いた刀間は自分の体を見てから言う。

「私は幼女か?」

「そう、ね……」

 京子は決まりが悪そうにした。

 刀間は貴行へと後頭部を向けたまま話掛ける。

「貴行は私のような幼女に興奮する変態なのか?」

「刀間、自分が何言ってるのか分かってるの?」

「わかっておる、私の体に興奮するのかと問うておるのじゃ」

 少し俯き、しおらしい態度になる刀間に貴行の心は掌握されかかった。

 それを機敏に察した京子は立ち上がって貴行の隣まで来る。

 刀間はその姿を不思議そうに眺めた。

 次の瞬間、貴行の脇腹へと滑り込むような横蹴りが打ち当たった。貴行の体は弾き飛ばされ、壁に当たって止まる。

 弾き飛ばされた貴行の体の上に乗っていた刀間の体は成功したテーブルクロス引きのように座布団の上へと乗る。

「ばっかじゃないの!? 死ねば!?」

 京子の罵倒の言葉を聞きながら貴行の意識は薄れて行った。

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