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第4話 カジノ

一月二日、俺は仲間たちとパチンコに行った。


今でこそ年末年始も当たり前のように営業しているパチンコ屋だが、当時は元旦から営業している店など珍しかった。


正月だからといって、特にやることがあるわけでもない。


結局、俺たちが向かう場所はいつもと同じパチンコ屋だった。


今では考えられないかもしれないが、当時のパチンコ屋はずいぶんとのんびりしたものだった。


店員の中には、ホールの隅で平気な顔をしてタバコを吸っている奴もいた。


帰る時も、出玉をジェットカウンターに流すのは客自身。今のように店員が何から何までやってくれるわけではなかった。


それが当たり前の時代だったし、俺たちも特に何とも思っていなかった。


夕方になる頃には、俺たちは全員、当たり前のように負けていた。


正月早々、誰一人として勝てなかったわけだが、それほど落ち込む奴もいなかった。


負けることに慣れてしまっていたのかもしれない。


何人いたのかはっきり覚えていないが、確か四人か五人だったと思う。


パチンコで負けた俺たちは、その後、酒を飲みながらくだらない話で盛り上がっていた。


負けた金のことなど、もう誰も気にしていない。


そんな時だった。


仲間の一人が、突然こんなことを言い出した。


「カジノ行こうぜ」


話を聞くと、そいつは小さな車屋で働いていて、以前、職場の先輩に一度だけカジノへ連れて行ってもらったことがあるらしい。


俺たちにとっては、まだ馴染みのない世界だった。


酒の勢いもあったのだろう。


「よし、行ってみようぜ」


誰が言い出したのかは覚えていないが、話はあっという間にまとまった。


俺たちはそれぞれ十万円を握りしめ、繁華街へと向かった。


当然、飲酒運転だ。


もちろん当時から違法だったが、今ほど取り締まりも厳しくなく、世間の認識もずいぶん甘かった時代だった。


今考えれば、とんでもない話だ。


しかし、あの頃の俺たちは、そんなことを深く考えることもなかった。


そして、俺たちはカジノの店内へと足を踏み入れた。


最初に感じたのは、意外なほど普通の人間が多いということだった。


カジノと聞けば、もっと怪しげな連中が集まっているものだと勝手に想像していた。


ところが、店内にいる客は、どこにでもいそうな普通の人たちばかりに見えた。


少なくとも、俺の第一印象はそんな感じだった。


そして俺は、持ってきた十万円をチップに交換してみた。


すると、新規の客にはサービスがあるらしく、十万円に対して十二万円分のチップが渡された。


いきなり二万円も得した計算になる。


まだ何も賭けていないのに、すでに二万円勝ったような気分だった。


もちろん、それが現金二万円をもらったのとは違うことくらい分かっていた。


それでも、何となく得をした気分になった。


初めて座ったのは、バカラのテーブルだった。


もちろん、ルールなど全く知らない。


俺は一度カジノに来たことがあるという仲間に、やり方を教えてもらいながらゲームに参加した。


そして、言われるがままに一万円分のチップをベットした。


すると、ディーラーから俺にトランプが一枚渡された。


何のことだかさっぱり分からない。


突然カードを渡され、どうしていいのか分からずキョトンとしていると、他の客から声が飛んできた。


「早く絞れよ!」


絞る?


何をどう絞るのか、それすら分からなかった。


こっちは初めてバカラをやっているのだから、そんなことを言われても困る。


カードを手にしたまま固まっている俺を見かねた友人が、横からそのカードを取り、さっさとめくってディーラーに渡した。


俺はただ、その様子を眺めているだけだった。


一万円も賭けているというのに、自分が何をしているのかすら分かっていない。


そんな俺を見て、笑っている客もいれば、呆れている客もいた。


しかし、中には優しい客もいた。


「初めてなら分からないわな」


そう言って、俺に優しく声を掛けてくれたおじさんがいた。


さっきまで他の客に怒鳴られていた俺にとって、その一言は妙にありがたかった。


名前も知らない、どこの誰かも分からないおじさんだったが、何となく親しみを感じた。


それ以来、俺たちはその人のことを「優しいおじさん」と呼ぶようになった。


ここで、バカラというゲームについて少し説明しておこう。


バカラとは、トランプ五十二枚を六組、つまり三百十二枚まとめてシャッフルし、プレーヤー側とバンカー側にそれぞれ二枚、場合によっては三枚のカードを配って勝敗を決めるゲームだ。


ルールはいたって単純で、カードの数字を合計し、その一の位が九に近い方が勝ちとなる。


例えば、七と八なら合計十五なので五。四と五なら合計九なので九となり、後者の勝ちだ。


絵札と十はゼロ、エースは一として数える。


客はプレーヤー側かバンカー側、どちらが勝つかを予想して金を賭ける。


一万円をベットして勝てば、一万円の儲け。元金と合わせて二万円になる。


要するに、当たれば倍になるという単純な話だ。


ただし、バンカー側に賭けて勝った場合は少し違う。


コミッションと呼ばれる五パーセントの手数料が引かれるのだ。


つまり、一万円を賭けてバンカーが勝った場合、儲けは九千五百円。元金と合わせて一万九千五百円になる。


なぜバンカーだけ手数料を取られるのか。


それは、ゲームの仕組み上、バンカー側の方がわずかに勝つ確率が高いからだ。


その有利な分を、手数料で調整しているというわけだ。


もっとも、そんな細かいことは後から知った話で、初めてテーブルに座った時の俺は、バカラのルールすらまともに理解していなかった。


そして、この店にはもう一つ独特の決まりがあった。


プレーヤー側とバンカー側、それぞれに一番多くベットしている客が、カードを受け取って絞ることができるという仕組みだった。


後から分かったことだが、俺が座ったのは比較的レートの低いテーブルだった。


最低ベット額は二千円。


どうやら、その時たまたま俺が賭けた一万円が、プレーヤー側で一番大きな金額だったらしい。


だから、何も知らない俺のところにカードが回ってきたというわけだ。


ルールも知らずに座り、いきなり一万円を賭け、カードを渡されればキョトンとしている。


周りの客からすれば、ずいぶん間抜けな初心者に見えたことだろう。


そして、記念すべき俺のバカラ初勝負は、あっさり負けに終わった。


何が何だか分からないうちに、一万円が消えたのだ。


そこで俺は、もう一つ初めて知ったことがあった。


一万円のチップは、そのまま一万円として賭けるしかないと思っていたのだが、千円のチップ十枚に両替できるというのだ。


考えてみれば当たり前の話なのだが、何しろカジノなど初めての経験だ。


そんなことすら知らなかった。


最低ベットが二千円のテーブルなのだから、わざわざ一万円も賭ける必要はなかったわけだ。


それから俺は、一回の勝負で二千円から三千円ずつベットするようになった。


パチンコなら二千円、三千円など、あっという間になくなる金額だ。


ところがバカラでは、ほんのわずかな時間でその金額が倍になったり、消えたりする。


俺は少しずつ、このゲームの面白さを知り始めていた。

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