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怪異9.Alternative Facts2-破れかけのタロット-

怪異。誇り高きマインドを持ったボヘミアンは目覚める。そして、彼らは被害者の共通点を導き出していた。わずかな、とても些細なことを。

このすべてがつながったとき、


Alternative Facts(もう一つの真実)


が浮かび上がる。

 六月十五日。窓ガラスを伝う雫は側溝へと吸い込まれていく。

 忌々しい程の湿度は男二人の燃え上がった執念を湿らせていくには十分だった。


 有線放送からは葛城ユキのボヘミアンが流れている。

 テーブルに置かれた灰皿には山のようにシケモクが積み上がり、グラスの氷は全て溶け、わずかに茶色い液体を残すだけとなっていた。

「まさかこんなハシゴの外され方するとはな」

 山中はくの字に折れた最後のセブンスターを大事そうに真っすぐに伸ばす。

「やっぱり、十年前の事件とつながってるんですかね」

 三杯目の水を口につける服部は、死体検案書のデータを持ち出したノートパソコンで見る。エッジタブのもう一つは十年前の死体検案書を開く。その二つの異なるPDFファイルにはコンフィデンシャルと大きく書かれた灰色の文字が浮かんでいた。

「さあな。やけど、どう考えてもこれは殺しが続くぞ」


 令和八年六月七日に見つかった変死体――


 水死体は一週間もたたないうちに事故死として処理された。事件性はなく、泥酔した状態での転落から水死に至るまで。死因は溺水による窒息死。死亡推定時刻は深夜一時ごろ。目立った外傷もなく、争った形跡もなかった。

 被害者の情報としてA市在住、五十代会社員男性、妻子あり。前日まで同僚とA市内で飲食しており、その数時間後に遺体として発見。当時、飲食をともにしていた同僚たちからの話を聞いたが、その供述はいずれも整合性がとれており、なんら問題なく辻褄があっていた。


 大量のチョコバットをくわえていたという強烈な違和感さえなければ――


 報道機関や遺族にも遺体の状況は伏せられ、特定の現場関係者と県警本部の上層部しか知りえない事実として淡々と処理されていた。捜査本部を立ち上げられることもなく、事故死として記録が残るだけになっていた。

 世間や周辺もその死が見つかった三日ほどは熱が上がっていたが、日常の隙間に埋もれていく。

 現場に手向けられたわずかな花とお菓子、缶ビールなどが供えられていた。

 いつしかそれも数を減らし、今では小さな花束だけが置かれて、崩壊した柵に触れられないように最低限のスペースを規制するだけにとどまっていた。


「行き詰ったか。それとも上が何か隠してるか。どっちかでしょうね」

 画面でPDFファイルを二分割にし死体検案書の内容を比較するが、どちらも内容はただの溺死であることしか記載されていない。当時の事件ファイルも持ち出してみたが、犯人と思われる人物のプロファイルや情報が多すぎて今回の水死体と比較すると均一性がまったくない。

「後者やろうな」

「まあ、僕らも行き詰ってますしね。一週間経って、特にあれの遺体のチョコバット以外は目立ったことはないですし」

 猟奇的な死に方には違いない。古今東西探してみても大量のチョコバットをくわえた遺体などはこの世に存在したためしはない。

「……どうしたもんかね。捜査本部も立ち上がらんし、公式に事故死として扱われた以上は俺らも身動きとれんのは事実やしな」

「唯一の共通点はあるにはありますけど、行ってみますか?」

「気乗りせんな……」

「と言っても、それ以外アテはありませんし」

 服部は深爪しすぎた左手でスマホの地図を拡大し、その地にピン留めした。

「せやな。後ろ向きなマインドはいかんな。よし、来週二日年休取っていくか!」

 最後のセブンスターには火をつけず、胸ポケットに押し込む。また、二人の耳に誰かが退店したことを告げるドアベルが聞こえた。


 彼らは被害者の唯一の共通点、生駒の地へ向かうことにしたーー


Alternative Facts2-破れかけのタロット-

いかがだったでしょうか。

数話に一度、今までの怪異たちがもたらしたキーワードがヒントとなる事件を紐解いていきます。

それは狂気的な殺人者なのか、それとも人知を超えた何かなのか――

ぜひ、その「代替の真実」を目に焼き付けてください。


※1.「自転車の魔法使い」も毎週金曜日20時に更新しています、引き続きよろしくお願いします。

※2.「鉄火、錆を削ぐ」一部完結済みです。第二部(完結編)は2026年7月中旬から再開予定です。

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