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怪異8.生駒の虎

登場人物の名前を仮名でありますが、今後書くようにいたします。それのほうが物語への没入感があがって皆さんもより、怪異に近づけると思います。

ぼたん鍋、食べたことないんですよね。おいしいそうですが、なかなか食べる機会がないです。どなたか感想を教えてください。



 これから、とある男性の話をしようと思う。これは半ば私の手記に近い。


 これは私が働くよりも少し前のことだ。

 当時会社では各支店で慰安旅行を企画して支店社員全員で同じところに行っていた。

 H県S市で営まれた慰安旅行には総勢数十名が参加し、列車の旅を楽しむため各々が酒や肴を準備しており、車内で賑わいの中心にいた。

 昨今は大勢で盛り上がること自体がマナー違反という声もあるが、今よりも少しおおらかな時代だったと言えよう。


 転換クロスシートでは角刈り気味の凛々しい金元かねもとと、大柄な体型の若い大竹おおたけ、小柄ないてまえ系の霜江しもえ、そして優男のすらっとした石塚いしづかの四人でいた。

 石塚は酒を飲みはしないが、その旅を楽しんでいた。みな思い思いの仕事の話や下らない世間話で花が咲いていた。

「おお、飲め飲め、大竹!」

「うっす……!」

 霜江は缶ビールをハイピッチで空けていく。彼自身あまり強い方ではないが、歳下の大竹や石塚に不器用なりに気を遣ってはいた。

「霜江、飲みすぎや。お前、ほかの人に迷惑やろ」

げんさん、今日くらいええやないですか!なあ、石塚」

「そうっすよ、金元さんも飲んでくださいよ」

 石塚は飲みはしないが、金元に袋から取り出したチューハイを勧める。

「いや、俺は店ついてからでええわ」

「……元さん、固いこと言わんと飲んだらええんちゃいます、か?」

 頑なに酒を受け取ろうとしない金元に大竹は少しぬるくなってしまった缶ビールを差し出す。

 最年長たる金元はみなを束ねるような発言をしようとするが、誰一人として聞く耳を持たない。

「お前ら、今飲みすぎて店でぼたん鍋食えんかっても知らんぞ……まあ一杯だけやな」

 硬派なセリフを吐きつつもプルトップの開く音の誘惑には勝てず金元もその一杯を楽しむ。

 そんな一行を乗せて列車は北へと向かっていく。


 一同が降り立ったS駅は田園風景が広がるのどかな場所だった。

 澄み渡る空、ウグイスの声、ざわめく木々。

 列車の長旅を終え既に出来上がった者も多くいた。休む間もなくすぐに旅館の送迎バスが現れ、山中の旅館へと走る。

 バスは山道を抜けていきやがて駅よりも静な旅館、「K」へとたどり着いた。

 時刻は既に夕方となり、山深いこの地は日が暮れるの早く風呂に入りお待ちかねの夕食となった。


 ここのぼたん鍋が絶品らしく今回の企画者もそれが楽しみでこの宿にしたそうだ。

「うまいなぁ! ほら、石塚も食え食え!」

 まるでオカンのように霜江は石塚に鍋をよそう。

「すみません。ありがとうございます」

 最年少の石塚は先輩たちに気を遣いながらも、その茶碗の白米と鍋をつつく。

「元さん、もっと飲まんと……」

 瓶ビールを手にして金元のコップが空になったタイミングで注ぐ。自身も白米と酒と鍋をバランスよくとっていく。

「おお、すまんな。ありがとう」

 最年長角刈りの金元は悠然たる態度で、その酒を楽しむ。

 鍋底が見え始めみなへべれけになるまで飲んでいた。

 そんな時、女将が金元に近づき微笑む。

「お客さん、ええ食べっぷり飲みっぷりですねえ」

「ああ、いや。うまいものありがとうございます。しかし、お騒がせて申し訳ない」

「そんなお気になさらないでください、もっと食べてくださいね」

「いやいや、結構。ごちそうさまでした」

 そんなただの営業のはずだった。

「……元さん、もう一発いっときましょうや」

 許容量の小さな霜江は酒も飲んで、食べて、満足したように座布団の上で気持ちよさそうに寝息を立てていた。

 その隣で水を飲んでいた、石塚は大竹の企みを見る。「大竹さん、元さんのことおちょくっとるなあ」と。

 そう。そんな些細な戯言にすぎない言葉だった。

「いや、俺はもう食われん」

「何を……そんな腹出とるわりには満足してないでしょ、そんなんじゃ生駒の坊っちゃんの名折れでしょ」


 生駒の坊っちゃん。


 石塚は水を吹き出しそうになるのをこらえた。そりゃ、あかんでしょ。

 その隣では少年のように寝返りを打つ霜江がいた。


「ま! 生駒の坊っちゃん、おかわりどうです?」

 女将も容赦なくその生駒の坊っちゃんに乗っかった。

 ここで金元が何をどう思ったのかは分からない。しかし、彼は一つの判断を下した。

 それは坊っちゃんたる生駒の虎としてのケジメだったのかもしれない。

「じゃあ、もう一皿もらおうかな」

「いや、二皿でお願いします」

 すかさず大竹は一皿から二皿にした。

「ちょ、そんな食われんやろ」

「いや、いけるでしょ」

 そう言って二人は空になった鍋につゆを注ぎ再びその鍋を食べ始める。

 しかし、すでに生駒の坊っちゃんの腹はほぼ限界を迎えていたようで、結局ほとんど食べることができなかった。

 その金元を横目に大竹はぺろりと二皿ほとんどを食べ終えた。

 

 翌日、会計の場で追加料金が発生していた。フロントから声がかかったのは生駒の坊っちゃんだった。


追加の皿を頼んだのはあなただ。と。


その事実に抗うことはできず、生駒の坊っちゃんは追加料金の一万円を払ったのだった。


その顔はまるで狩られたイノシシのようであったと、石塚課長は述懐してくれた。


皆さんの会社にもこんな人はいますか?これは私が知り合いから聞いた話です。

ぜひ読者の皆さんも会社であった怖い話や面白い話を教えてください。

勝手に想像を膨らませ、ホラー、コメディ、シリアス…お好みの短編にしてみます。

ぜひ、よろしくお願いします。

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