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怪異7.覚醒するボヘミアン

ボヘミアンって意味としては自由人らしいですね。語感がよかったので使いましたが、これはダメですね笑

以後気をつけます笑

 これから、とある男性の話をしようと思う。これは半ば私の手記に近い。


 令和八年六月。梅雨入りして間もない空はのしかかるような重さで垂れこめていた。


 新型コロナ禍を経て、近年では急速に私たちの働き方もずいぶんと変わったてきた。

 ウェブ会議もその一つだ。コロナ禍前後でその数は各段に増え、多くの企業でも扱うようになり、

 今では決して珍しくないビジネスツールになった。


 それは気だるい午後のウェブ会議での一幕だったことを記憶している。

 広めのブースに私を含めた数人が集まり、一台のパソコンでウェブ会議に参加していた。

 何人かは個別のパソコンでイヤホンをしながら参加している。企画部長、副所長、所長は

 それぞれのデスクで取引先とのウェブ会議に出席し、基本的には聞いているだけの様子だった。


 私は昼食にパスタを食べたことを後悔していた。その店のパスタはバゲットとスープがついてくるのだが、その日私はサラダセットを頼まずにパスタだけにしていた。

 ナポリタンがこれまたおいしいのだ。

 炭水化物しか摂らなかったせいか会議中に私の思考はほとんど回らず、

 ひたすら睡魔と戦うだけの時間になっていた。


 もちろん、会議内容はおおむね聞いているが、自分が発言する必要のない議題のため私は腕を組んで

午後のそのひと時を必死に耐えようとしていた。

 今回の議題は取引先との契約方法の試行についてだ。従来の契約方法を一新し、別の契約方法を行うことにより発注先の業務量負荷を減らすことが主な目的であり、私の所属する会社がその候補としてあがったわけだ。

 

 実態としてその契約方法は確かに発注先の事務手続きや業務量は減っているのかもしれない。しかし、こちら側、受注元の業務量は減るどころか増えてきている事実がここ数か月の試みで露呈していたのだった。


 マイクの音声がミュートになっていることを確認し、皆ぼやく。

「この発注方法ってどう考えても向こうのメリットしかないよなあ。ウチ、損ばっかりやん」

「そうやんなあ。むこうは仕事量が減るけど、こっちは指示書が電子契約システムで来たり、メールで来たりするし、ただただ面倒くさいだけやんなあ」

 みな先方には気を遣わざるを得ないのでバックヤードとしての会話で盛り上がる。どうしても大口契約の取引先で発注元ゆえに真正面から否定することができないのだ。これは甲乙の取引の仕組みとしてはいたしかたない。

 

 課長が私たちに「なんか言うておくことある?」と聞いてきたが、みな諦めムードのため首を横に振り、戦意などハナからないことを示す。私も同じようにペンをくるくると手でもてあそぶ。

 マイクをオンにして課長は静かにうなずいた。

「すみません、弊社側からとしての要望は指示書を頂くときにですね……」

 当たり障りのない優等生な回答で少しだけ受注側の要望も伝える。このままこの方法が本施行になると私たちも大変さが増すなと誰しもが思っていた。

 そして議事もすべてが終わり、次回の会議予定を決めようとしていたときだった――

 支店長がリアクションで手を挙げた。

 会議を進行していた発注元の担当者が「では、……支店長どうぞ」とだけ伝える。スピーカーの向こう側からは片付けるような雰囲気を醸し出していた。


「すみません、さきほど……課長からもあったこともそうなんですけど、それ以上にそれは発注側のメリットしかありませんよね? 弊社側として担当者の仕事量が増えております。できればこの施行だけにしていただいて本運用はやめていただきたいのですが」


 私の眠気は吹っ飛んだ。ブースに集まっていた皆は一様に顔を見合わせる。そして、個人のデスクで発現する支店長の横顔を見た。同時に発注者側からも不穏な空気が流れたのは顔は見えていないのにわかるような気がした。


 発注元の取締役がリアクションする。

「えー。支店長の言うこともよくわかりますし、我々側としても準備も少なくて、急ぎ足でやっていることはお詫びいたします。一方でこれからの受注、発注に向けて前向きにあかんところは直していって、進めていければと思います」


 そんな言葉で会議は締めくくられた。


「え? どないしたん? 支店長」

「全然、普段とちゃいますよね」

「いや、当然なんやけど。え? あんなこと言う人やったっけ?」

 そう普段の支店長ははたから見ると割とのらりくらりとかわすイメージがあり、真っ向から勝負にでるような強いイメージはない。それがいい悪いかはおいておいて今回の発言はかなり強気にも思えたし、ありがたくも思えた。

 ぽつりと課長が私にこぼす。

「支店長……覚醒したな」

 覚醒。

 ブースから個人席を覗くと背筋を伸ばしてイヤホンを外す支店長がいた。

 覚醒と言うそんな言葉がピタッとはまるよう背筋の伸び方だった。

皆さんの会社にもこんな人はいますか?これは私が知り合いから聞いた話です。

ぜひ読者の皆さんも会社であった怖い話や面白い話を教えてください。

勝手に想像を膨らませ、ホラー、コメディ、シリアス…お好みの短編にしてみます。

ぜひ、よろしくお願いします。


※1.「自転車の魔法使い」も毎週金曜日20時に更新しています、引き続きよろしくお願いします。

※2.「鉄火、錆を削ぐ」一部完結済みです。第二部(完結編)は2026年7月中旬から再開予定です。

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