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怪異10.虎は二度死ぬ

私も子供の頃、ミニ四駆で遊んでいました。しかし、私以上に父親が熱を上げてしまい母親に呆れられながら、コースを二つ買ってつなぎ合わせていました。ハイパーダッシュにマッハダッシュ。プラズマダッシュなんていう名前のものもありました。

プラズマダッシュって名前、何が格好いいですよね。さっき調べたらもう数年前に生産中止になっていました。


 これから、とある男性の話をしようと思う。これは半ば私の手記に近い。


 これは私が働くよりも少し前のことだ。


 ミニ四駆。


 四輪駆動をする千円もしないだおもちゃだ。しかし、ただのおもちゃと侮るなかれ。

 金をかければかけるほどにパワーアップするおもちゃは一言で言えば沼るのだ。

 それを働きだしてある程度金を持つことができた人間ならどうだ?

 娯楽の種類も少なかった少年のような大人たちはその面白さに魅了され、社内でブームになっていった。


当時二十歳そこそこだった大竹おおたけ霜江しもえは例外なくそのおもちゃで競い合っていたそうだ。


「……霜江さん、このモーターめっちゃ走りますよ」

 大柄な大竹は小柄な霜江に買ったばかりのマッハダッシュというモーターを見せる。

「あ、お前それ、マッハダッシュやんけ! 金持ってるなあ!」

 小さな影が二人をぬっと覆う。

「し、し、霜江、お前はモーターなんやねん?」

 霜江と同じくらい小柄な男、染谷そめやがメガネ越しに霜江がチューニングしているマシンをなめるように見る。

「お、お前、それレブチューンやないですか。ぷぷっ! そんな、そんな小学生みたいなモーターって!」

「しゃーないやないですか。言うて俺、金そんなにないんですから」

 金を持っていると言っても小学生に毛が生えたくらいの金しか霜江は持ち合わせていなかった。当時、給料をもらったらほとんど飲み会やパチンコに消費していた。

 少し膨れながらも霜江は単三電池をはめ込む。

「よっしゃ、大竹、ソメさん、勝負や!」

「……うっす」

「ぼ、ぼくが負けるわけあーりませんじゃないですか」

「お前ら、遊んどらんとちゃんと仕事せぇよ。そこの鋼板、持って行けよ」

 ひとり、黙々と機材の出荷準備に取り掛かる生駒の虎こと金元(かねもと)が昼休みに仕事をしていた。金元は準備した分厚い鋼板を壁に立てかけ、霜江と大竹に指示する。

「元さん、今昼休みやからええんすよ」

「元五郎丸はうるさいなあ。ちょっとだけですやん」

 霜江と染谷は意に介することなく、ミニ四駆の裏側を見て電源をONする。


 ほぼ同時に甲高いモーター音がギアを奏でる。スタンバイOKだ。

「じゃ、いっちょやりますか……!」

 大竹は自慢のマッハダッシュを装着したマシンの電源をONした。霜江のもつマシンよりも高回転なモーターは雄たけびをあげる。小さなモーターの三重奏が事務所を支配する。


「じゃあ、三周勝負で! これ負けた奴が明日の焼肉、おごりですわ!」

 霜江は少年のような笑みを浮かべて指を三本立てる。

「……うっす」

 大竹は静かに頷く。

「お、おう。まあ、大人の金のパワーを見せてやりますか」

 うねりながら染谷はマシンをコースにセットしようとする。

 そして、三台同時にコースに入った。

 最初の直線。マッハダッシュを搭載した大竹のマシンが頭一つ抜きんでる。これは大竹優勢だ。


 その勝負はあっけなく決着がつくと思われていた。


 一台がコースアウトした。そう。大竹のマッハダッシュを積んだマシンだ。ひゅーんとコース入れ替わりの立体交差で見事に中空を舞う。

 おもちゃらしい音を立てて大竹のマシンはひっくり返った。


「ちっ……!」


 大竹はそのやり場のない怒りを壁にぶつけた。


 振動が事務所を揺らした。それと同時にうめき声が漏れた。

「ううっ!」

 

 うめき声の方向を向くと金元のふくらはぎに壁に立て掛けていた鋼板が見事にぶち当たっていた。いや、現場を正確に見たわけではないが、恐らくその鋼板がふくらはぎをなぞる様に滑ったことは想像に難くない。


「げ、元さん大丈夫か?」

 霜江が駆け寄りその鋼板をふくらはぎで受け止めてしまった金元に声をかける。

「だ……大丈夫や。問題ない……!」

 鋼板の重さは約二十キロ近く、それなりの重量だ。しかも、その先端は削り出したままの鉄板でヘアラインの仕上げをしていないために、サメの歯の様に角が立っていた。

「元さん、そ、そ、それ、ダフってますやん!」

 染谷も金元に駆け寄り霜江と二人でその鋼板を金元の足からどけた。二人がかりでも相当な重量だ。

 その隣では黙々と大竹はマシンチューニングをしていた。先ほどのコースアウトが余程気に入らない様子だ。

「元さん、大丈夫か? 足みせてくださいよ」

 霜江は金元のズボンをたくし上げ、その生々しい跡を見る。

「げ、元さん、こ、コレ相当痛いで!」

 金元の両足は皮膚がずるむけ真っ赤になっていた。

「だ、大丈夫や。こんなもんかすり傷や……ちょっと消毒だけしてくる」

 金元はそう言い残すと、事務所奥の救護室へと消えていった。

「あれ、絶対痛いよなあ……」

「……? なんかあったんすか?」

 マシンチューニングを終えた大竹がきょとんとした顔でミニ四駆のスイッチを入れる。モーターがけたたましく回る。

「お、お、お前、さっき壁どついた時に元さんに鋼板が倒れてあのオッサン、し、死ぬくらい足ダフってたぞ」

「いや、勝手に倒れたんでしょ。バランス悪い置き方してましたし」

 大竹はどこ吹く風で、飄々としていた、


「うわー!」


救護室から再び金元の絶叫が聞こえる。


「な、やんや」

 三人は救護室へ向かい、金元の姿を見る。下着一枚となった金元はマキロンを塗りたくっていたが、その激痛に失神していた。


 生駒の虎は二度、死んだのだった。

皆さんの会社にもこんな人はいますか?これは私が知り合いから聞いた話です。

ぜひ読者の皆さんも会社であった怖い話や面白い話を教えてください。

勝手に想像を膨らませ、ホラー、コメディ、シリアス…お好みの短編にしてみます。

ぜひ、よろしくお願いします。


※1.「自転車の魔法使い」も毎週金曜日20時に更新しています、引き続きよろしくお願いします。

※2.「鉄火、錆を削ぐ」一部完結済みです。第二部(完結編)は2026年7月中旬から再開予定です。

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