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怪異3.左手の犠牲

労災ってホントに怖いですよね。どんな職場でもさいがあというのはあります。皆さんもケガや病気には十分気をつけてください。私はこの前、通院を忘れて電話がかかってきました。

 これから、とある男性の話をしようと思う。これは半ば私の手記に近い。


 私は珍しく夜のお勤めのために、眠い目をこすりながら家を出た。私の働く会社。と言うよりかは私の働く業界では夜勤が常日頃行われており、ただの日常であった。

 車窓から見える景色は日中とは異なり、点在する光を追い越していく。

 ガラスに時折うつる自分の姿の記憶はうつらうつら、目的の駅で降りたときには忘れ物をしたのかと思えるほどに慌てて飛び降りた。


 夜二十一時。駅のそば屋でさっとかけそばとおにぎりを頬張り腹ごしらえを終わらせる。事務所に向かう道中、すれ違う人々は酒臭く金曜日の夜であることを思い出す。


 執務室にたどり着くと、そこには端の席で部長が座っていた。珍しい。こんな時間までいるなんて。

 まあ、でも都合がいい。ちょっと聞きたいこともあったし。


「えらい遅いですね、今日は。どないしたんですか?」

 自分の聞くべきことはとりあえずおいておいて、話を聞く。二十二時過ぎまで働いているのだ。多少気を遣うのは筋だろう。

 部長は無言で私に一枚の書類を渡す。

「んー? ってこりゃ、労災ですか?」

 その一枚に書かれていた内容は労働災害の報告書だった。

 あちゃー。これはやっちゃったな。前に取引先の担当が変わったからうちの支店長も挨拶に行って「労災は起こさないようにします」と啖呵を切ったばかりなのに。


「ありえへん……ホンマなんやねん、こいつは……」

 ため息交じりに私にあったことを話してくれる。しまったな。これは思ったよりも長くなるぞ。

 約束の時間が午前〇時だけど間に合うかな。

「普通は指をザックリいったら、報告するやろ」

「まあ。普通はしますよね。え? なかったんですか? 四針縫ったんでしょ?」

「あったよ。けど、お前ケガしたのが午前十時で俺に報告があったの夕方十七時やぞ。何考えとんねん」

 私は自分の常識を疑った。人を疑う前に自分を疑うのが常だ。でなければ、人の心情は理解できない。

しかし、こればかりは疑えない。

「え? なんでですの?」

「知らんわ そこの責任者が病院で縫合しとるときに言うてきたんや。俺その話し聞いてすぐに支店長とこ報告行ったわ」

 その対応は間違いない。私とてそうするだろう。一般的に考えれば、労災は労基署などへの報告も必要となるはずで、それを隠匿。あるいは報告の失念をすると罰せられることもある。詳しく書くと本題から逸れるのでここでは割愛するかが、とにかく社会通念上の普通からは逸脱しているのは間違いない。

「なんか昼休みに左手ずっと押さえててバンドエイド貼ってたけど血がとまらんあかったらしいわ」

 聞いて呆れる。しかも受傷したのがが五十を過ぎたベテランというのも、報告を夕方してきたのも五十を超えた人間ということだ。

「そりゃ、四針縫うならそうでしょ」

 私は仕事の段取りをしながらその話が既に三十分以上経っていることに内心辟易していた。自分から聞いたにも関わらず。

「聞いてくれます? 聞いてくれます? しかも最初自分の家の最寄りの病院行ったんやで? 意味わからんわ」

「確かに意味わからんすね」

 既にこの会話も意味がわからないほどに聞いているが。いかん。車の準備もしたいのだが。

「あー、ホンマダルいわ……明日、安全推進部からの事情聴取やし。何聞いてもあのオッサン、固まるし、フリーズですわ。フリーズ」

「それはお疲れ様ですね」

 確かに彼はよく固まる。普段も何を考えているか分からぬほどの視線と出で立ちだ。

 しかし、今はそれどころではない。愛想笑いを浮かべつつ勝負に出た。この話自体、時間があれば愚痴ぐらい付き合うが私も夜勤のために出てきたのだ。これ以上、無為に時間は過ごせない。

「……あれ? 車の鍵どこ行ったんやろ? 知りません?」

 見え透いた嘘だった。私はその会話を強制終了するためにあり得ないほど稚拙な嘘をついたのだ。許してくれ、こんな軽々しく嘘をつく男を。

 部長は笑いながら鍵をいつもの棚の奥から取り出す。

「ここにあるやんけ、ちゃんと探せよ〜」

「ああ、隠れてました? すみません」

 再び愛想笑いを浮かべてようやく私は夜勤に向かえた。しかし、待ち合わせの時間に遅れたことは言うまでもない。






皆さんの会社にもこんな人はいますか?これは私が知り合いから聞いた話です。

ぜひ読者の皆さんも会社であった怖い話や面白い話を教えてください。

勝手に想像を膨らませ、ホラー、コメディ、シリアス…お好みの短編にしてみます。

ぜひ、よろしくお願いします。


※1.「自転車の魔法使い」も毎週金曜日20時に更新しています、引き続きよろしくお願いします。

※2.「鉄火、錆を削ぐ」一部完結済みです。第二部(完結編)は2026年7月中旬から再開予定です。

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