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怪異2.豪腕の和尚

仏門を志す方は賢い方が多いと思います。更に千日行と呼ばれるすさまじい修行を行い、衆生を救うため、まさに世のため、人のためにその身命を賭しおられます。これはそんな仏門とは程遠い人のお話です。

 これから、とある男性の話をしようと思う。これは半ば私の手記に近い。

 

 私がいつも通りデスクのパソコンに向かって見積書を作っているときだった。

「マジで意味わからん……!」

 私の席の斜め後ろにいる課長が珍しく声を荒げて打ち合わせから帰ってきた。

 普段はあまりこういった感情を見せることは少なく、周囲もそのただならぬ雰囲気に何事かと口々に聞く。


「あの人の代わりに仕事の打ち合わせしてんけど、メチャクチャ指摘されたわ、俺作った訳ちゃうのに」

 聞き耳を立てながら話を聞き、要約すると「今度の仕事に関する打ち合わせを先方とするのだが、資料は作った。代わりに打ち合わせをしておいてくれないか?」といったものだ。

 私たちの業界では時折あることで、仕事の現場に入るときの打ち合わせをお願いしたりする。

 もちろん、私もそれはお互いさまで理解しているが、どうも彼が憤慨していたのは資料の精度ついてだった。

 先方からも「君が作った内容とは思えないんやけどな……」という前置きがあったうえで指摘がてんこ盛りだったそうで、見るに堪えない内容だったらしい。そして、仕事をするためにはその資料を再作成する必要があるのだ。

 合計五部程度あり、その不要な資料作成に手間取りその日は終始カリカリしていたのが後ろにいても十分わかった。


 そう。あの人である。おかしなもので、会社や学校と言うものは誰かに何かしらの「あだ名」をつけたがるものだ。

 誰が読んだか分からぬが、あの人は「和尚」と呼ばれている。いかにも中学生や小学生が付けそうなネーミングである。しかし、言い得て妙な節もある。よく言えばストイックなのだ。あくまでとてもよく言えばの世界だが、独自の世界観をもっており、文学的には村上春樹と並ぶほどかと思うのだ。

 逆に言えば妙なこだわりが強くまわりとは一癖も二癖も違うのだ。村上春樹の文体が合わない人はとことんあわないのだ。


 ある日、私は珍しく超勤していた。空調が冷たいなあと思いつつも、周囲が暑そうだったので我慢して、薄手のパーカーを羽織る。そんな時、和尚から声をかけられた。普段、ほとんど会話をしないのであるが、たまに声をかけられる。


 「明日、悪いんやけど業者にあの材料もらってってくれん?」

 ジャラン!ジャラン!ジャラン!と大きな金具の音とともにクマよけの鈴のような音もしている。

 

 待て。ここでさすがに熊は出んだろ。秋田の山奥でもなけりゃ、北海道の三毛別でもないのだ。

 という突っ込みは心の棚に上げて私はペットボトルのコーヒーを飲む。


「材料ですか? わかりました」

「五メートル二本か、十メートル一本でもええわ」

「はあ、わかりました。また聞いてみます」


 一定の会話は成り立つのである。しかし、成り立たない会話も多い。

 なにせ独特な世界観で仕事を説明するわけだから、ついて行ける人もごくわずかなのだ。

 私?私はもちろん、ついていけない側の人間だ。こんな物書きをしていながら、因果なものである。


 そして、一番怖いことと言えば資料作成について怒っていた課長と和尚がプライベートでは

 手を繋いでキャンプに行くというほど仲がいいという点なのだ。

 

 くわばらくわばら。


皆さんの会社にもこんな人はいますか?これは私が知り合いから聞いた話です。

ぜひ読者の皆さんも会社であった怖い話や面白い話を教えてください。

勝手に想像を膨らませ、ホラー、コメディ、シリアス…お好みの短編にしてみます。

ぜひ、よろしくお願いします。


※1.「自転車の魔法使い」も毎週金曜日20時に更新しています、引き続きよろしくお願いします。

※2.「鉄火、錆を削ぐ」一部完結済みです。第二部(完結編)は2026年7月中旬から再開予定です。

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