怪異18.狭き闇、蠢く夜(前編)
夜に蠢く脅威。
重たく湿った暗い花園。
白き夜――
あなたはこの真相についてこれるか――
夜は蠢く。
狭き闇の中を縫うように這いずる。
皮をはぎ取り、肉をむさぼり、飲みくだす。
生ぬるい湿気のこもった小さな暗い花園で。音もなく、ゆっくりと、白き夜が侵し掠め取る。
一人、また一人と蝕まれてゆく。怨嗟を叫ぶ声なき声は絶望と苦しみを。
憎しみの連鎖は終わらない。
その嘆き、悲しみ、怒り、憂いに立ち向かう者たち。
そして、それらをすべて嘲笑い喰い荒らす者。
暴虐の徒、彼の者の名は――
ある男の話をさせてほしい。
私は今回、この話を聞いた時、この手記に残すことすらも躊躇した。
これを書いてしまえば、世の常識というものは覆しかねない。しかし、私の知的探求心。いや、好奇心によって私が消える前にこの真実だけをどこかに書き留めておかなければならない使命があったのもまた事実だ。
真実を知ったあなたは引き返せなくなるかもしれない。その覚悟があるのなら、私とともに秘密を共有してほしい。私という痕跡の証明として。
六月下旬。鬱屈とした梅雨空は二つの台風を伴って、さらにその曇天を加速させていた。現場帰りの傘をたたく音は、強く弱く無感情に石塚課長を責める。そんな午後だった。
昼休みに執務室に戻った石塚は少し時間潰しとして何か動画を見ようかと迷いながら始業までの時を過ごしていた。
「……ちょっと聞いてくれんか?」
「ん? なんですか?」
いつもの霜江部長からお呼びがかかる。
イヤホンを外しながらスマホの画面から顔をあげた。石塚は日々の癒しとなる動画を止めて、手招きされ更衣室へと向かった。
誰もいないにも関わらず更衣室は空調のファンが回る。鳥肌が立つほどの冷気だ。
部長は電灯をつけ、室内のロッカーに身を預ける。白い光が、部長の顔を青く照らす。
「……」
「……」
なぜ自分を呼び出したのだろう。石塚はそんな思いを巡らせる。背筋に伝う一筋の汗が季節に反して冷たい。
「霜江さん、なんかあったんですか?」
「……おう。石塚、聞いてくれるか?」
いつにもまして霜江部長は重々しく口を開く。まるで、禁じられた言葉を紡ぐかのようだ。
それは果たして仕事のことなのか。
それとも呪詛なのか――
空調の冷気が重苦しくうなされるように更衣室を冷やし続ける。窓の外で一瞬、遠雷が走り抜けていく。
思えば、ここ最近の霜江は少し様子がおかしかった。何かに取り憑かれたように身体を動かしたかと思うと、急に席を立ちどこかへ行ってしまっていた。
「これを見てほしいんや」
稲妻が再び青白い閃光を放つ。ゆっくりと霜江はその『禁忌』の扉を開けようとしていた――
蠢動――
痛み――
祈り――
全てが重なる時、暴君はその姿を顕現す。




