怪異15.Alternative Facts3-繋がる世界(後編)-
左手を傷つけた流浪民の四輪駆動がうなりをあげる。「鬱」と言う果てなき精神の荒野を駆け抜け、その先に見えるのは――
Alternative Facts(もう一つの真実)
が浮かび上がる。
戦慄した。まさかあれは、チョコバット――
連続殺人が遠く離れたこの生駒の地で起こってしまったのか?
いや、考えすぎか。ホビーショップに駄菓子が偶然転がっていただけにすぎない。オモチャ屋に菓子があっても何ら不思議ではない。
山中はそう思い過ごすことにした。あまりにもその幻影にとらえられているのだ。
セブンスターに火をつける。電柱で音の聞こえないスマホを耳に傾けたまま、遠巻きにその光景を見つめる。
制服組によってブルーシートが手早く現場にかけられてゆき、その景色は覆い隠されて遮断される。
これ以上の情報はのぞめないか。
踵を返して居酒屋に帰ろうとしたとき、主婦らしき野次馬たちの声が聞こえた。
「あそこの店主うつ病やってんて?」
「何でも薬の影響かなんかで、ものすごい変なイビキかきながらレジで寝とったらしいね」
「そうそう、ウチの子どもも言うとったわ。ミニ四駆買いに行った帰りになんか寝言で、化け物が襲ってくるー! 黒い亡霊が! とまで言うてたって」
「しかも、その寝言が本人の声とは思えんような九官鳥みたいに甲高い声で何でか笑う時もあったらしいし」
チョコバット。甲高い笑い声。黒い亡霊。奇妙な符号の一致。山中は背中に汗が伝うのがわかった。
考え込むように山中は居酒屋へ戻りながら、セブンスターをもみ消す。
店内は相変わらず阪神タイガースと広島カープの野球中継が流れていた。スコアボードは〇が続く。席に戻り、ふうとため息を吐いた。
「山中さん、どないでした?」
「……どこかでつながっとるんかもしれん。そっちはどうやった?」
服部も少し視線をそらしながら言う。ハイボールが注がれたコップは結露し氷は小さくなっていた。
「こっちもそんな気がします。死んでたのはホビーショップの店長ですよね?」
「ああ、せや」
左右に目をやり、耳打ちするように呟く。
「それがどうも、変な宗教に入れ込んでてマインドコントロールされてたんじゃないかって……」
ここにきて宗教まできたか。宗教はもっとも絡みたくない相手だ。山中はぬるくなったビールを干す。
下手な組織はそれこそ思想がテロに近いものも過去にあった。
「それが……気になったのはその宗教は誓いの証しとして左手に自ら傷を入れることと、鈴を持つことらしいです」
「そんなけったいな宗教あるか?」
「ここ一〇年ほど前に設立された超がつくほど、新興宗教ですね……」
「あー……あれか、なんかよう分からんカタカナの連中か」
「えぇ、チルドレン・オブ・ボヘミアン。公安でも取り沙汰されてる、話題の宗教法人っすね」
チルドレン・オブ・ボヘミアン――
人々の目覚めを謳う新興宗教。十年前程前からテレビやニュースを騒がせていた。
「でもアイツら何者なんや? オウムやパナウェーブとも違う感じやろ?」
服部がスマホで検索結果を差し出す。
「そこまで過激ではないみたいですけど、目覚めるために左手を傷付けて、信徒の資格を得るみたいっすね」
「なんやねん。左手を傷付けるって」
「公式サイトには、イスラム教やヒンドゥーの教えに関連するような感じっすね……えっーと。不浄な左手を傷付け、神にその血液を捧げ、三人の信徒と共に印を四回結ぶことにより、新たな信徒として認められる……と。なんかごちゃごちゃ混ざった変な宗教って感じっすね」
宗教に帰依すること自体は山中は否定するつもりはなかった。しかし、それに殺しが絡むとなると話は別だ。
「……あ、奈良支部ってのがあるみたいですね。ちょっと行ってみますか? 奈良市内にあるみたいですね」
スマホをスクロールしていた服部が奈良に支部があることを見つけた。
「せやなあ。明日、行ってみるか。公安がなんか握っとるかもしれんから、あくまで宗教そのものに興味がある一般人として潜ってみるか」
宗教絡みとなるとかなり厄介であることに違いはない。山中と服部は隠密に行動を取れるようにと綿密な打ち合わせを行うことにした。
Alternative Facts3-繋がる世界(後編)-
いかがだったでしょうか。
数話に一度、今までの怪異たちがもたらしたキーワードがヒントとなる事件を紐解いていきます。
それは狂気的な殺人者なのか、それとも人知を超えた何かなのか――
ぜひ、その「代替の真実」を目に焼き付けてください。
※1.「自転車の魔法使い」も毎週金曜日20時に更新しています、引き続きよろしくお願いします。
※2.「鉄火、錆を削ぐ(じゆうに大賞応募)」一部完結済みです。第二部(完結編)は2026年7月15日から再開しております。毎週水曜日更新しています。
※3. 「おとをみつけるぼうけん」という短編ホラー(音に関する夏のホラー企画)が完結済です




