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怪異14.Alternative Facts3-繋がる世界(前編)-

鍋に浮かぶはんぺんはまるで、即身仏のように白く鮮烈で神々しかった。

そして、体育座りした男がそのはんぺん食らう時、

Alternative Facts(もう一つの真実)


が浮かび上がる。

 奈良県生駒市。年休を取って独自に調査を始めた二人だったが、それらしい情報を得ることはできていなかった。

 その被害者たちの共通点がただ奈良県生駒市出身と、チョコバットをくわえて殺されていたということ奇妙な点だけが横たわり、何かほかの事実を覆い隠しているようにも思えていたが、それが何かをつかむことができていない。

 過去、チョコバットをくわえて殺された遺体の特徴は確かに他にもある。

 一人は三角座りをして即身仏のようだったことだ。即身仏、それはいわゆるミイラを指している。なぜそのような姿勢で殺されたのかが全くわからない。当時の謎の一つだ。

 仮に三角座りで殺されたとする。その場合は死後硬直よりも前に筋肉が弛緩することにより、体勢は必ず崩れる。そして、当時の遺体のように三角座りさせようとすると、死んですぐ、あるいはロープや紐で縛った状態で殺さなければならない。

 生前に強い力でロープなどで縛られた場合はその部位にいわゆる圧迫のあと、すなわち索条痕(さくじょうこん)が残る。

 その痕跡がなかったのだ。これが何を意味しているか。

 狭い箱のなかで身体を折りたたまれて死んだ。


 あるいは、考えられないが、遺体が自発的にその体勢で死んだ――


 としか考えられなかった。

 

 生駒市のとある酒屋で山中と服部は資料を広げていた。繋がるようで繋がらない事件。このもどかしさに二人はいらついていた。

「……ちっ、大した情報はないなあ」

 山中は先に頼んでいたビールをあおる。ガラスコップに手酌でキリンラガーを注ぐ。平日の日中にも関わらず、客入りはそこそこある店でここはおでんが有名。と服部が選んだ店であった。

「そうっすねえ……当時の三角座りの遺体も、それ以外は目立った特徴がないですし」

 コップになみなみと注がれたビールに口をつける。店内のテレビではいつの間にか野球中継が始まっていた。

 梅雨も明けきらぬ甲子園球場では阪神タイガースの先発投手が広島カープの先頭打者に外角に少し外れたストレートを投じる。

 店主とバイトの一人、そして山中とがその中継を見守っていた。

「おでん、お待ちでーす」

「ありがとうございます」

 服部が頼んだおでん盛り合わせが運ばれてきた。数あるメニューの中でもスピードメニューであり、大根二つ、牛すじ二本、はんぺん二つ。

 ハイボール片手に服部は割り箸で味が染み込んだ色をしているはんぺんを一つ取り、二つに割る。

「ここの店、おでんおいしいらしいっすよ」

 はんぺんに少しだけ練り辛子を乗せ、口に運ぶ。色づいたはんぺんからは湯気が立ちのぼっていた。

「……しかし、なんで死体がチョコバットをくわえて死んどるんすかね」

「そこやな。最大の謎にして、この過去からの連続殺人犯を捕まえる手掛かりやと思うんやけど、まさかホンマにただの模倣か?」

 模倣犯の可能性は否定できない。過去の連続殺人に見せかけて、目的の相手を殺した。それにしても、その遺体のインパクトが独特すぎるものを選び過ぎであるとは思うが。


「大将、隣の店でなんか事件あったん?」

 ついさっき入店してきた若い男性客がお手ふきで顔をふきながら、大将に話しかける。店は先ほどよりも少しにぎわってきていた。

「え? なんかあったの?」

 大将も何も知らぬ感じで手慣れた手つきでキリンラガーとコップを一つをその男性客に差し出す。

 事件?空き巣か何かであろうか。

 その話に何気なく山中と服部は耳を傾けていた。


「いや、俺もさっき通りかかったときに規制線?っていうんかな。黄色と黒の立ち入り禁止って貼っとってお巡りさんや救急車止まっとったからさ」

「え? 全然、気つかんかったわ」


 山中と服部は視線をかわす。確かにこの店では気づかないだろう。有線放送と野球中継の音で外界とは切離されていた。


「……なんでしょうね? 事情聞いてみますか?」

「いや。服部はここにおって、大将とあの客の話このまま聞いてとってくれ。俺は様子見だけしてくるわ」

「了解」


 山中は電話するふりをしつつ、店の引き戸を開ける。

 遠くから鈴の音が聞こえた。澄んだ音色ではない。不気味な音。


 隣の店は飲食店や居酒屋ではなく、ホビーショップのようだ。規制線には人だかりができており、県警が急いでブルーシートをかけようとしていた。

 その人影の隙間からは担架にすでにかつがれていた。恐らくすでに事切れているのだろう。

 

 規制線が張られるということは病気ではない。事故か喧嘩による殺人(ころし)か?



 いずれにしても静観すべきか。そう思った時、

 遠目に見守る先には黒く、細長い「何か」が転がっていた。

 

 ――あれは。

Alternative Facts3-繋がる世界(前編)-

いかがだったでしょうか。

数話に一度、今までの怪異たちがもたらしたキーワードがヒントとなる事件を紐解いていきます。

それは狂気的な殺人者なのか、それとも人知を超えた何かなのか――

ぜひ、その「代替の真実」を目に焼き付けてください。


※1.「自転車の魔法使い」も毎週金曜日20時に更新しています、引き続きよろしくお願いします。

※2.「鉄火、錆を削ぐ(じゆうに大賞応募)」一部完結済みです。第二部(完結編)は2026年7月15日から再開しております。毎週水曜日更新しています。


※3. 「おとをみつけるぼうけん」という短編ホラー(音に関する夏のホラー企画)が完結済です。

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