怪異12.はんぺん色した思い出
私はおでんに入っているはんぺんが好きです。特に二日目くらいに味が染みたはんぺんは厚揚げと大根の次位に好きです。
これから、とある男性の話をしようと思う。これは半ば私の手記に近い。
前回の手記同様、これは私が地方のO支店で働いていた頃の話だ。
当時、私は二十代前半でいわゆる血気盛んな若者であり、現代のZ世代とは異なる人種と言っても差し支えないだろう。
そんな中、私よりも一回り上の男がいた。名前は……中宮(仮称)としておく。彼は独特なセンスをしており、O県S市出身であるにも何よりも釣りやドライブといったアクティブな趣味がある割には日焼けをしておらず、色白でいかにも不健康そうに見えた。
かく言う私もあまり変わらないのかもしれないが。
彼は非常に特徴的だった。
その地方の方言は「〜けえ」や「〜けん」という語尾だったのだが、彼はそれらをまったく使わないのだ。
他にも「ぼっけえ」「でーれー」という修飾語も使わなかった。これは一般的には「とても」という意味合いだ。
使い方は「でーれー、でかい」となると「とても、大きい」となる。
そして、他にも意表を突かれることが多々あった。
男性諸氏ならある程度理解するかもしれないが、オシャレな自動車と言って何を思い浮かべるだろうか。
もちろん、オシャレの定義は千差万別である。
そして彼も男だ。女受けしたいと思ったのだろう。選んだクルマはミニクーパー。
ご存知ない方に少し補足するとこのミニクーパーは英国のローバーというメーカーの血統を継ぐ、今はBМWのブランドだ。
英国譲りのクラシカルなスタイルが人気を博し、今も日本国内でもそこかしこに見ることができる。
この車種を選ぶこと自体、オシャレとしては決して間違ってはいないと思うが、なにせ彼が独特だったのが、マニュアル車を選んだことだ。
今の時代、スポーツカーや特殊な車両を除けばマニュアルを選択する人はごく稀だ。
しかもどちらかと言えば、このクルマはオシャレを推しているため、クラッチを切り、ローギアで峠を攻めたり、オーバートップで最高速を競うタイプではない。
にも関わらず、彼はマニュアルを選んだ。本人からも直接聞いたのだが、「マニュアルのほうが運転しやすいから」という理由だそうだが、彼の運転に不安になるものが多数いた。
普通、教習などで習うドライビングポジションは腰を深くシートに座らせ、肘が軽く曲がるくらいの当たりを教えられる。
しかし、彼の位置は極端に前なのだ。シートをギリギリいっぱいまで詰めてまあ、前まで座るのだ。
具体的にどれほどかと言うと、ハンドルに顔面が接するほど前つんのめりなのだ。
と、前置きが長くなってしまったが、そんな彼の一幕を聞いていただきたい。
それは彼がいないときの話だった。
「そう言えば、なんで中宮さんは君とさん、で呼びかたちがうんやろうなあ」
終業後に私はおもむろに切り出していた。このO支店ですでに一年近く経過していたときにふとした疑問が浮かんだのだ。
この事務所には中宮よりも、歳上が五人。歳下が六人いた。ちょうど彼は真ん中だったのだが、その歳下の呼び方についてだった。
「あ〜、確かに。中宮さんって俺らのことは臼井君とか、久坂部君って言いますもんね」
臼井がノートパソコンの画面を閉じる。それに私の同期の早田が答える。
「霜江さんのこととかは霜江さんって言うなあ。でも、たしか中宮さんのほうが年上よな?」
「そうそう。あの人ってなんで年下の人間に君とさんを使い分けるんかなあ?」
こんなくだらない疑問を三人で頭を突き合わせて冗談交じりに検証しはじめたのだった。
これが恐怖の始まりとは知らずに――
「まさか、こんな結果になるなんて……」
「あほな……嘘やろ」
「いや……嘘じゃないっすよ、久坂部さん、早田さん」
私たち三人は五分でその結論を導き出してしまった。
時折、背後に忍び寄るように立つ姿。
二人きりになるとやたらと饒舌となる。
暗闇でにやりと笑うはんぺんのような白さ。
――そう。その答えは「彼が手を出したい相手」だということに。
私たちの間に気まずい沈黙が流れたことは言うまでもない。
そうして同時に三人とも背後に寒気を覚える。
背後に音もなく立つはんぺんのように白い悪魔。
私たちは彼を畏怖してこう呼ぶこととした。
白き悪魔、はんぺん――中宮と。
皆さんの会社にもこんな人はいますか?これは私が知り合いから聞いた話です。
ぜひ読者の皆さんも会社であった怖い話や面白い話を教えてください。
勝手に想像を膨らませ、ホラー、コメディ、シリアス…お好みの短編にしてみます。
ぜひ、よろしくお願いします。
※1.「自転車の魔法使い」も毎週金曜日20時に更新しています、引き続きよろしくお願いします。
※2.「鉄火、錆を削ぐ」一部完結済みです。第二部(完結編)は2026年7月中旬から再開予定です。




