怪異11.暗闇の三角座り
手記を連ねてきた彼は久坂部と便宜上名乗ります。ちなみにみなさんはソリティア耐久したことありますか?私は十分が限界でした。
これから、とある男性の話をしようと思う。これは半ば私の手記に近い。
私が地方支店で働いていた時でかれこれ十年以上前のことだ。支店で過ごした期間は四年の間であったがいい仲間に恵まれたと思う。
今は部長となった霜江。私よりも後輩だが、昇進している臼井。同期の早田。そしてもう一人の同期、岩岡がいた。今さらだが、私のことは久坂部と仮称しておく。
当時の支店。ここでは、O支店とだけしておこう。O支店では執務室から少し離れた場所に資機材や試験機を保管しておく小部屋があった。そこはデバッグルーム、資材庫などと呼ばれていた空間で、用事がない限りはこの部屋に来ることもなかった。
部屋自体に窓はあるものの、資材棚や機器が所狭しと設置されていたため、古いすりガラスからの自然光では照度が心もとなく、その部屋に入るときは基本的に照明をつけることになる。
冬、平日の夕方だったと記憶している。冬場になると執務中でも日が沈みあたりはすっかりと暗くなっていた。
「久坂部、明日の仕事で使う材料ちょっと準備しとってくれんか?」
霜江はパソコンに向いたまま私に指示を出す。私もサボり中のソリティアの画面から顔を動かさずに反応する。
「何個ほどでしたっけ?」
「あー。二つちゃうかな。たしか」
「オッケーです。ほな持ってきますね」
ソリティア耐久八時間にも飽きてきたところの私は、イスから立ち上がり執務室から資材庫へと向かうため外履きをはく。
資材庫への距離は三十メートルと離れていないが、執務室とは屋内で通路はつながっておらず、一度外に出る必要があった。
空を見上げると太陽はほとんど沈んでおり、近場にあるカラオケ屋のネオンだけが煌々と光っていた。
「おお、やっぱ冬場は寒いなあ……ちゃちゃっと取ってくるか」
私は小走りで資材庫へと向かい、重たい鉄扉のキーロックを解錠する。
カチリ。悲鳴のような音を上げながら暗闇が外の闇と同化していく。
「明かり、明かり……っと」
私は暗がり何も見えない中、何気なく電灯をつけた。
そこに「いる」ものに気づかずに。
グロー球が何度かまばたきし蛍光灯に光を与えた。
「うおっ! なに? なに? え? なんで?」
想像を超えた時、人は言語能力を失う。心拍数は跳ね上がるのがわかった。
私の目の前には三角座りをする男、岩岡が一人いたのだ。その佇む姿はまさしく怪異と言っても過言ではないほどの不気味……いや、どこからともなく漂う哀愁があった。
彼は無言だった。これが幻なら私もどれだけ幸福だっただろうか。しかし、この姿は紛うことなき、現実だ。
「……え? 何してますの?」
岩岡は私に一瞥を寄越すこともなく三角座りしたまま、一点を見つめていた。
いかほどの時間が流れたのだろうか。
一分。あるいは一時間だったのかもしれない。
「ほっといてくれ……俺も色々あるんや」
「は、はあ……」
とは言え、私も仕事のために必要な材料を回収し、その場をあとにしようとした。一つだけ聞いて。
「電気、どないしときます?」
「……つけといてええよ」
「さいでっか」
執務室に帰った私は霜江にそれを報告した。
「いや、めっちゃビビりましたよ。真っ暗がりに体育座りしとんですよ? 心臓に悪いですわ」
「マジで? アイツなにやっとんねん……」
「いや、三十歳にもなった人があんな風になるなんて思ってもみんかったすわ」
「え? アイツ久坂部の同期やのに、そんな歳いっとん?」
何よりの驚きが彼が齢三十の男だったということだ。
夜は進み時計の針は戻らない。残酷な事実を突きつけるように。それ以来、彼はこう噂されるようになった。
デバッグの亡霊と。
皆さんの会社にもこんな人はいますか?これは私が知り合いから聞いた話です。
ぜひ読者の皆さんも会社であった怖い話や面白い話を教えてください。
勝手に想像を膨らませ、ホラー、コメディ、シリアス…お好みの短編にしてみます。
ぜひ、よろしくお願いします。
※1.「自転車の魔法使い」も毎週金曜日20時に更新しています、引き続きよろしくお願いします。
※2.「鉄火、錆を削ぐ」一部完結済みです。第二部(完結編)は2026年7月中旬から再開予定です。




