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第88話 モンクの戦い方

「ヘインケル様って、とってもお優しいのよ。倒れた拍子に腰を打って少し痛いって言ったら、治療士が来てくれるまで腰をさすってくれて」


いや、健全な中学生がそんなの聞いたらエロいシーンしか想像しませんって。


「いろいろお話したわ。平民の生活に興味があるって」


午後一コマさぼって何やってるんだか。


「なによ、あの女」

「きっとヘインケル様に色目を使ったんですわ」


別の一角では、アレクシアの取り巻きがなにやら騒いでいる。


「いいのよ。気にしないで」


当のアレクシアは少し寂しそうだ。ヘインケル様はアレクシアにとって婚約者だからな。


でも、ダイアナを突き飛ばしたのは君だし、自業自得か?


     ◇


「なんか、週明けからいろいろあって疲れたね」


放課後、俺とスティーブは剣を打ち合わせている。


「ほら、おしゃべりしてると隙だらけだぞ」


脇腹を木剣で叩く。ちゃんと防具の上だから少し痛いだけだ。


「ほう、頑張っているな。リュカは防具は付けないのか?」


この先生は確か剣術の担当だったな。名前は知らないけど。むしろ、なんで俺の名前を知ってるんだ。彼から授業を習ったことはないはずだが。


「俺のこと、忘れているみたいだな。面接試験の時に会ってるだろう」


そういえば、面接官がいたはずだな。全く覚えてないけど。


「仕方のないヤツだな。まぁ良い。ここで覚えていってもらおう」


俺の前に立つ。いや、剣術の教員と戦う気はないっすよ。


「大丈夫だ。剣にしか当てん。ケルビンという名前だけ覚えておけ」


名前を叩き込まれた。


     ◇


さて、体術の授業二回目だ。何故か前回は居なかったミツアがいる。


「おぉ、今日はサボらずに来たか」


前回はサボってたのか。


「お前が本当に強いのかわからない。まずは勝負だ」


脳筋だな。


「ふむ、いいだろう。お前たちはモンクの戦い方に興味があると言っていたな。相手の破壊を主目的とする武闘家の技と違い、モンクの戦い方は相手を傷つけずに無力化することにある。まぁ、見ていろ」


教官とミツアが相対する。俺たちは見物だ。ミツアが体を前傾させ、そして引く。パヤット先生は微動だにしない。今の動き、相手の攻撃を誘ったな。


焦れたミツアが飛び出す。


パヤット先生の左側に入ったと思ったら、直前で右側に飛び、顔面目掛けてストレート。

かなりのスピードだ。

パヤット先生は体を沈めると、ミツアの股を取って投げる。

ミツアがうつぶせに地面に倒れ込んだ時、すでにパヤット先生はミツアの腕を後ろ手で締め上げていた。


「こんな感じだ。この状態になると、捕縛された方は身動きができない」


ミツアは逃れようとジタバタしていたが、パヤット先生に絶妙に動きをコントロールされていた。


後で聞いたところ、ミツアは剣術の授業でも教官に食ってかかったようだ。ただ、剣術の先生は魔法も使えるらしく、パラライズの魔法であっさりと動けなくされてしまったようだ。


「あれはずるい。インチキだ」


確かに剣術の授業で魔法はずるいけど、そもそも教官に戦いを挑むのが間違ってると思うんだが。


     ◇


放課後、土魔法の練習をしようと学院の裏庭に移動する。ここらの土が鉄分を多く含んでいて、いい感じなんだよね。

さて、今日こそ12.7ミリ弾を形成するぞ、と土に魔力を送ったところで、前方からバケツを持った女性二名が走って通り過ぎていった。


あれはアレクシアの取り巻き、四と六だな。それにしても淑女にバケツ?違和感しかないな。女性たちが出てきた方に向かうと、ずぶ濡れのダイアナがしゃがみ込んでいた。


「ダイアナ、大丈夫?」


何があったか、聞くまでもないだろう。


「ヘトスが、草木に水をやってて手が滑ったって」


少し涙声だ。ヘトスは取り巻きだな。個人的には取り巻き四と呼んでいる。


「ミョウが、水で流せばその臭いもマシになるんじゃないって」


泣き出した。


「と、とりあえず乾かすね。濡れたままだと風邪をひくよ」


風魔法と火魔法を組み合わせたドライヤー魔法だ。これはかなり前から使っているから、自由自在である。


「これは、魔法?」


ダイアナは自分を乾かしていくドライヤー魔法に驚き、泣き止む。


「こんな魔法、聞いたことがないわ」


マイ・オリジナルだからね。


「リュカ君って魔法使いなの?」


お、名前を覚えててくれたか。


「いや、これは生活魔法だよ」


だいたい乾いたな。


「ダイアナは今から帰るところ?」


「そのつもりだったんだけど。これも乾かせるかな?」


ダイアナはずぶ濡れの教科書を取り出す。前世では冷凍庫に入れて凍らせるなんてライフハックがあったが、この世界には冷凍庫はおろか、冷蔵庫すらない。冷凍魔法もないようだ。


「ページの間に布を挟んで、上に重しを載せるくらいしか思いつかないな」

「そう。家でやるかな」

「送っていくよ」

「遠いわよ」


マジで遠かった。歩いて一時間くらい。周りは工業地帯っぽく、鍛冶屋などが並んでいる。


「送ってくれてありがとうね。ここまででいいわ」

「毎日、この距離を歩いてるの?」

「馬車代もただじゃないからね」


微笑みながら返される。


帰り道、俺は馬車を使うけどね。


     ◇


さて、今日は週の最終日、研究室に行く日だ。ロッカーが納入される予定の日でもある。


「ここでいいんだな」


使う予定の部屋にロッカーが運び込まれる。分解された状態だ。設置予定の場所で組み立ててくれる。思ってたより大きいな。ロッカーが設置されたら部屋の整理だ。


ロッカーの場所を確保するためにさらに乱雑になった部屋にある、一見ガラクタのようなものを魔法の収納に放り込んでいく。


魔道具ですらなさそうなものもあるんだが?一部、面白そうなガラクタ以外を収納し、それをロッカーの後ろに作った隠し扉の奥に隠す。


前部には、残しておいた面白そうなガラクタを並べて終了。


あとは床を拭き掃除して一段落だ。


     ◇


今後、ここを培養ラボにすることになるが、バイオ実験ならやはり冷蔵庫や冷凍庫が欲しくなる。

冷蔵庫や冷凍庫は文明が発展すれば、作成されるものだろう。形状も前世とそう変わらないと思うが、この世界には魔法の収納がある。冷蔵機能が付いた魔法の収納とか、あるのかな?


今までに発見された魔道具の目録とかあれば良いのに。


「目録はないが、魔道具博物館に行けばいろんな種類の魔道具が見られるぞ」


ペララタン先生に聞いたら教えてくれた。ちなみに、冷蔵機能が付いた魔法の収納はいまだに発見されてないらしい。


「ここの授業の一環ということなら許可も出るじゃろう。暇なときに申請書を書いておいてやろう」


金を払えば入れるというものでもないらしい。


残念。


     ◇


今週の週末勤務は一日にしてもらった。


「リュカ曹長、今週の勤務は一日だけなんですね。あともう一日で終わりなのに、軍に未練でもあるんですか?」


「いや、さすがに休みがないと疲れが溜まって」

「なにおっさんくさいこと言ってるんですか」


中身はおっさんだからね。この若い身体は寝ればたいていの疲れは取れるが、精神的な疲労はある。酒を飲んでストレス発散というわけにもいかないしな。


夕方は娼館に行って怪我人の治療をし、寮に帰る。


週末の娼館泊まりをあまり定例化したくないからね。


     ◇


寮に帰ると、スティーブと槍の練習だ。

まだ習ったことは少ないため、基本的な動きの反復になるが、どうしても飽きてくるため、会話が始まる。


「ダイアナ、アレクシアとその取り巻きに水をかけられたっていう話、聞いた?」

「その話、どこから出たの?」

「校舎の中から見てた人がいるんだって」


俺が見たのは取り巻き二人がバケツを持って走っているところだけだが、アレクシア本人も現場にいたのかな?


「水をかけられた後のダイアナは見たけど。あと、現場からバケツを持って走り去る取り巻き二人も目撃したな」


アレクシアは実行犯か、指示役か、それとも無関係か。


バケツを振りかぶるアレクシアは見てみたい。


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