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第86話 お風呂魔法改

とりあえず家に上げてもらった。さて、お見せするのはお風呂魔法の改良版だ。

以前の失敗は、いきなり0.5トンの水を制御しようとしたからだ。

もちろん、将来的にはどっぷりお風呂に浸かりたい。だが、体を清潔に保つだけなら、あんな量は必要ない。


まず、水を出す。直径1メートル弱、厚さ30センチほどの円盤状だ。これで水の量は失敗した時の半分以下になる。

そして、これを火魔法で温める。量が少ない分、温めるのも簡単だ。


「この水、触ってみて」

「温かい」

「火魔法を調節して温めたんだ」

「炎は出てなかったけど?」

「炎は出しても出さなくても良いよ」

「炎を出さない火魔法?」


ちょっと理解してもらえていない気がする。


     ◇


「まぁ、そこは重要じゃないんだ。こんな感じの温かい水の塊を出したら、ここからは簡単さ」


とりあえず、下着以外の服を脱ぐ。ジェニファーは俺がこれから何をするのかわかったのだろう。服を脱いでも、特に何も言わない。まぁ、大事な部分は下着で隠れているからな。


「水に体を入れるとき、制御が崩れやすい。実は、ここが一番難しいんだ」


体をお湯の中に進める。ちょうど水の輪は胸のあたりだ。


「あとは、好きに体を洗えばいい」


先ほど収納から取り出しておいた石鹸で体を洗っていく。この世界にも石鹸はあるが、高級品だ。石鹸もいつか自作してみるのもいいかもな。水の輪を移動させながら体を洗っていく。せっかくだし、髪も洗っちゃおう。


「で、この水は汚いから捨てるんだけど、どこに捨てたらいいかな?」

「窓から流していいわよ」


お言葉に甘え、窓から捨てる。


次は、すすぎだ。同じようなお湯の輪を作り出し、体を流す。俺は二回、すすぎをやっている。


一回だと、石鹸が残ってる気がするんだよね。


     ◇


「これで終わり。実は、つい昨日完成したばっかりの魔法なんだ」

「それ、全部生活魔法よね。もはや、魔法って呼んでいいのかどうか。どちらかというと、水魔法の精密制御よね」

「そうだね。火魔法は最初に水を温めるのにしか使ってないから」


ジェニファーは少し迷っているようだったが、ちょっと待っててと言い、部屋を出ていった。しばらく待つと、ジェニファーは湯浴み着を着けて現れた。


そうきたか。


「お湯の輪を出してくれる?」


そうだな。せっかくだから石鹸も渡しておこう。お湯の輪を出すと、ジェニファーは恐る恐るその中に入っていった。

しばらく、お湯をかき混ぜたりして観察している。

おい、魔力を通すな。制御が乱れる。


その後、ジェニファーは体を洗い始める。

お湯の輪を下に下げていったら、髪が先、と怒られた。


     ◇


「やっぱり自分で体験してみて魔力の流れを感じないとね」


いや、それにしては念入りに体を洗っていたようだが。ジェニファーは既に湯浴み着から普通の服に着替えている。


「やっぱり水魔法が欲しいわね。火魔法は攻撃力特化だけど、水魔法は飲み水の運搬を減らせて冒険者の間では評価が高いっていうし」


軍の中でも評価は高いですよ。


「水魔法の魔力の流れ、感じさせてくれる?」


ジェニファーと両手を繋ぎ、まずは魔力を循環させる。彼女は魔法使いだ。彼女の魔力を強く感じる。そこで、水魔法を発動。水球を生成する。


「わかった?」

「うん、少しだけ。適性は低いのかもしれないけど、不可能ではなさそうね」


その後、何度もやらされた。


     ◇


「夕飯、食べていきなさいな」


ジェニファーのお母さんが現れた。せっかくだし、ご馳走になろう。食卓には肉がたっぷり入ったスープと、焼き立てのパンが並んでいた。これは、かなり奮発したな。

普通の庶民の家でさえ、こんなに肉が入ったスープは出ない。味付けは塩だけだが、じっくり煮込んであって美味しい。


「とっても美味しいです」


次に来るときは、お土産に肉を買ってこよう。


「ジェニファー、さっきの石鹸、置いていくよ」

「いいの? 石鹸って、高いんじゃ?」


うん、高い。


「自分で作ってみる?」

「え? 作れるの?」


前世、自然派の女性友人が作って配っていた。泡立ちが悪いし、匂いもいまいちだったからすぐ捨てたが、作り方は簡単だったはずだ。油に灰汁を混ぜて待つだけだったような。ただ、この世界で一般的に手に入る油は獣油だ。庶民が使うのは魔物から取ったラードで、基本、臭い。


「たぶん、作れるんじゃないかな。灰汁を何種類か作っておいてくれるかな?」


ジェニファーに灰汁の作り方を説明しておいた。さて、夜もだいぶ遅い時間だ。


寮に戻るか。


     ◇


学院の門が閉まっていた。

門限ってあったんだ。


しばらく門の前でウロウロしていると、後ろから誰かが近づいてくる。物陰に隠れると、そいつは門の前で少し逡巡したあと、塀の方に回り、よじ登り始めた。なるほど、そういうことか。

俺はそこから離れ、角を曲がったところで土魔法を発動する。二段ほどの階段。高さは一メートル強。気配察知で壁を越えようとしていた生徒を探る。


そいつは塀から学内に飛び降りた。小走りに校舎へ向かうと、すぐに教師に捉えられていた。その瞬間、階段から塀の上に飛び乗り、さらに向こう側へ跳ぶ。捕まった学生が塀を越える前から、気配察知で教師が待ち構えているのはわかっていた。


そいつが捕まる瞬間なら、忍び込む難易度は下がる。


以前、士官学校でカインズさんが使った手だ。


     ◇


「あ、リュカ。泊まりなんだと思ってた」


スティーブがベッドの上から声をかけてくる。

音を立てないように入ったんだがな。


「あぁ、ちょっと遅くなった。起こしたかな?」

「いや、まだ起きてたから。門限に引っかからなかった?」

「なんとか入れたよ」


門限を破っても、それほど怒られることはないらしい。そもそも、そのまま外に泊まってしまえばそれで良いのだ。


「こんな時間まで軍で残業ってわけじゃないんでしょ」

「あぁ、ジェニファーのところに遊びに行ってた」


これは別に秘密にすることでもない。


「やっぱり庶民同士って仲良くなりやすいのかな?」


貴族はいろいろなしがらみがある。家の派閥とか、家格とか。子供同士はそんなこと気にしなければ良いのにと思うが、そういうわけにはいかないのだろう。


「いや、ジェニファーに魔法を教えていただけだ。そうそう、とうとうお風呂魔法が完成したんだ」


お湯の輪を形成する。


「今から入るつもり!?」


向こうで入ったから入る必要はないな。


それに、石鹸を新たに購入しないと手持ちがない。


「いや、さすがにこんな時間からは入らないよ」

「そう。ならいいんだ」


以前、部屋を水浸しにした失敗を思い出しているのだろう。もうそんな失敗、しませんって。



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