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第85話 スティーブとの訓練

さて、今日は一日、研究室で研究の日だ。まずは使う予定の部屋を片付けよう。物品を整理するのは、魔法の収納を入れられるロッカーを購入してからだな。

その前にロッカー購入の許可を得なければ。


「先生、あの部屋に物入れを置きたいんですが、いいですか?」

「物入れ、かまわないが、そんな金ないぞ」

「自分で出します」

「ならかまわん。好きにしてくれ」


よし。

でも、ロッカーなんてどこで買うんだ?


「家具屋で作ってもらえるんじゃないかな」


おお、クルアン先輩、良い情報をありがとう。このまま買いに出ても良いそうだ。自由な研究室で良かった。

学院を出、クルアン先輩に教わった家具屋があるという通りを目指す。


「ふむ、鍵がかかる物入れか」

「はい。で、後ろを二重にして、奥に物が入れられるようにしたいんです。材質は丈夫なもので」


イメージとしては更衣室にあるような、背丈くらいの高さのロッカーだ。ただ、鍵がかかる物入れがあれば、中に貴重品があると思われるだろう。だから、後ろ側の板を二重にして、魔法の収納はそっちに隠すことにする。


「後ろの隠し収納は、こんな感じで外側の取っ手を逆に回さないとロックが外れない仕組みで」

「わかった。そこそこ高くなるぞ。そうだな、一万ギルでどうだ」

「かまいません。よろしくお願いします」

「あぁ、一週間で仕上げてやる。納品はエーデルヴァルト王立学院でいいんだな」

「はい」


     ◇


さて、週の終わりの最終日。実はそのまま寮に戻らずにいても問題ないことになっている。出身領が近い人は、昼くらいに出てそのまま自領に戻り、週の初めに戻って来るとか。

もちろん、厳しい研究室は駄目だが、古代魔道具研究室はゆるいからな。まぁ、特に泊まる先もないから寮に戻るが。


「リュカ、ちょっと槍の練習に付き合ってくれない?」


寮に戻ったら、同室のスティーブに頼まれた。お互いに槍術の授業を受けている身だからね。


「良いよ。今から行く?」


ネットもスマホもない世界だ。夜はやることがあまりないしね。


スティーブの動きは授業で教わったそのままだ。もちろん、俺も同じ。なにせ、他で習ったことないしな。お互い、実直な技のみの打ち合いだ。そもそも、受けた授業も一回だけ。習った動きも一種類。あまり練習にならないな。


「スティーブは剣術も取ってるんだよね。そっちもやってみる?」

「リュカは剣が使えるのか? なら、ありがたいが」


お互い、木剣を取る。ギルベルトから習い、マリベルと打ち合って上達した剣術だ。すぐにスティーブの剣を弾き飛ばす。


「リュカ、すごい上手じゃないか」


だが、人に教えるだけ上手かというと、なんともいえないな。ただ、学院での武術の授業は高校体育の剣道レベルだろう。なんとかなるかな。


「せっかくだから、少し教えようか。変な癖がつかないか心配だけど」

「いや、お願いしたい。剣術は生徒が十六人もいるのに指導者が一人なんだ。しかも、戦士の職に就いているのが四人もいてな。どうしても、そいつらに指導が引っ張られるんだ」


もう戦士の職に就けたなら、学校で剣術の基礎をやる必要もあるまい。学校では、これから戦士職を得ようとする生徒への指導に注力するべきだと思うんだがな。


「それはそうだし、指導員もわかっているようなんだけど、戦士職を得ているのが上位貴族ばかりでさ」


確かに、自分の家に賢者を招いて天啓の儀をやるのは上位貴族が多いだろう。二、三年職に就くのを早めるくらいなら、待って貴族学校で受けさせた方がいい。天啓の儀が成功するとも限らないわけだし。


「同室のよしみだ。ときどき剣術の指導、ときどき槍術の練習ってことにしようか」

「私は良いルームメイトに恵まれたようだ。ありがとう」


なんか、反応が素直すぎて返答に困る。


     ◇


「スティーブは闘気力は結構あるのか? 俺は闘気力がほとんどなくてな、感じ取ることもできなくてわからないんだ」

「中の下くらいはあるみたい。一応、戦士には届くんじゃないかと言われている」

「魔法力や神聖力は?」

「それはちょっとわからないな」


なんか、魔法力はありそうなんだよな。


「ちょっと手を貸してみ」


スティーブの手を取る。魔法力はあるな。神聖力もあるじゃないか。でも、どちらもそれほど大きくはない。


「俺は中の下とか、上の中とか、そういうのはわからないんだが、魔法力も神聖力もあるっぽいぞ」

「本当か!」


顔を赤らめているスティーブが驚く。いや、なんで頬が赤いんだ?


「生活魔法くらいなら発動できるかもしれないぞ。ちょっと教えてやる。俺の魔力の流れを感じるんだ」


両手を合わせ、魔力を流しながら水の生活魔法を発動させる。俺とスティーブの中間に水球ができる。


「わかったか?」

「いや、何も」


水じゃないのかな。そのまま風の生活魔法を発動する。


「これは?」

「なんか少し魔力の動きを感じたかも」

「もしかして、風の魔法に適性があるのかもな。このまま少し練習しよう」


一時間ほど風の魔法を発動し、魔力の動きを感じてもらった。


     ◇


「それにしても、リュカは凄いな。風と水の魔法に適性があるなんて。さらに神聖力もあるんだろ」

「だけど、闘気力がない。ウチは武家でね、闘気力以外はあまり考慮されないんだ」

「ヴァルクレインはローゼンフェルトの流れだよね。聞いたことはある。チャンブリー家も武寄りだけど、ローゼンフェルト系列とは全く違って、魔法使いや僧侶も尊重されてるよ。でも、やっぱり当主は戦士がありがたがられるけどね」


だからスティーブは剣術と槍術か。

まぁ、気持ちはわかる。


     ◇


さて、いよいよ待ちに待った休日だ。


「リュカは休みの日はどうするんだい?」

「ちょっと中央軍事務局で事務仕事をしてるんだ。今日と明日はそっちだね。スティーブは?」

「特に予定はないな。王都散策でもしてるよ」


羨ましい。


頑張って一日の仕事を終えた。

さて、ジェニファーのところに行くか。


ジェニファーの家に着くと、彼女は家の前で待ってくれていた。


「怪我人は多い?」

「そこそこかな。でも、骨折がいて」

「大丈夫」


ジェニファーは癒しの手で骨折を治す俺を見て驚いていた。


「治癒は取らないの?」

「今のところ、癒しの手でたいていは治るからね。治らない患者が出たら取ることにした」


治療を終え、帰路につく。ジェニファーの家の前まで来たとき、ジェニファーが足を止めた。


「ねぇ、リュカ。正直に言って欲しいの。あたし、臭い?」


臭くないは嘘になる。でも、女の子に臭いとは言えない。


「俺はそんなに気にならないかな。どちらかというと、貴族令嬢がつけている香水の匂いが苦手なくらい」


貴族令嬢だって、全員が裕福で毎日お風呂というわけではない。そこで、一部の貴族令嬢は香水で誤魔化す。それは別に悪くないんだが、一部の令嬢は香水をつけすぎて正直臭い。香水って、自分でつけているとわからないっていうからな。


上位貴族にそういうことがないのは、香水の量もお付きのメイドが調整しているからだろう。


「リュカはわかってると思うけど、ウチは裕福じゃないわ。頻繁に浴場に行くなんて贅沢は無理なの」


そう言って、うつむく。


「なんでもないわ。ごめんね、引き留めて。また来週、よろしくね」


年頃の女性だ。自分の臭いは自分でも気になるだろう。


「ジェニファーの魔法適性は?」

「火よ。なんで?」

「水も使えるなら、ちょっと面白い魔法を開発中だから」

「今のところ、火だけね。でも、面白い魔法っていうのは興味があるわ。見せてくれない?」


魔法に関して探求心が高いジェニファーである。


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