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第84話 学院最初の一週間

今日は一日中授業だ。騒ぎは昼休みに起きた。

食堂で昼食を済ませ、教室でのんびりしていると、アレクシアがジェニファーに向かって歩いていくのが見えた。

アレクシアは毎日、誰かに噛みついている。昨日は鼻くそをほじくっていた男爵家の男子に食って掛かっていた。


風紀委員もどきか?


「ジェニファーさん、あなた、臭いわよ。どうにかしてくれないかしら?」


確かに昨日くらいから、ジェニファーから臭いが漂っていた。貧民街特有の、あのすえたような臭いだ。ここ数日、暖かかったし、体育もあったしな。


「そ、それは」

「あなたのその臭いで、食後、気分が悪くなるという話が出ていますの」


後ろの取り巻き数人がうなずいている。


「もう少し清潔になさってくれないかしら。あなたは栄えあるエーデルヴァルト王立学院の生徒ですのよ」


ジェニファーの顔は真っ赤だ。女の子が臭いをダイレクトに言われたら恥ずかしいだろう。


「数日に一回は体を拭いています」


庶民によっては薪だって高いのだ。これくらいの時期からは、お湯ではなく水だろう。井戸水って冷たいんだよな。


「あら、お風呂には入らないのかしら?」


「駄目ですわよ、貧しい方にそんなことを言っては」


取り巻き連がなにやら言い始めた。


「とにかく、注意してくださいませ」


アレクシアがまとめる。


     ◇


教室は静まり返っていた。次の授業開始まで十分くらいか。この沈黙は耐え難い。ともかくジェニファーのところに行く。


「やぁ、ジェニファー」

「リュカ君」


何を言うか考えておけば良かった。何も思い浮かばない。

そうだ。

数日前から感じていたことについて、聞いてみよう。


「教室の中って、なんか魔力が扱いにくくない?」


生活魔法、全てにわたって使いにくい。水も出せたとしてもチョロチョロだし、風もそよ風程度だ。火や土は試してないが、きっと同じだろう。


「教室の中は魔法阻害効果がある魔道具の影響下よ。生徒が勝手に魔法を発動させると危険だから」


周りを見回してみる。

四方の柱かな?


「そんな魔道具があるんだ。すごい技術じゃない? じゃあ、ジェニファーも魔法が使えないの?」


「古代魔道具よ。学生同士の喧嘩で死者が出たことが何回かあったんだって。私も教室では全然魔法が使えないわ」

「寮の方は大丈夫っぽかったよ」

「高価な古代魔道具ですもの。さすがに寮までは手が回らないんじゃないかしら」


最初は暗い感じで返事をしていたが、だんだんいつもの調子が戻ってきた。


「そういえば、次の治療は明後日で良いのかな?」

「えぇ、お願い」

「じゃあ、夜前くらいに行くよ。昼間は仕事があるから」


中央軍事務局での仕事がある。

これもとっとと終わらせたい。


教室に教師が入ってきたので、自分の席に戻る。


     ◇


最後の授業は武術だ。俺は体術を選んだ。体術の人気は低い。誰が魔物とぶつかり合って戦いたいものか。しかも、貴族は武器や防具のメンテにかかる費用のことをあまり気にしない。


そこで、体術を習うのはもっぱら庶民だ。


「やぁ、リュカ。君も体術かい」

「スタンダー、キミもか」

「俺もいるぜ。庶民男子組、勢ぞろいか? グーリエがいないか」


アスース君もいる。いや、俺はこれでも貴族だから。言ってないけど。


「グーリエは剣術と槍術だそうだ。実戦ではこの二つが一番役に立つとか言ってたぜ」


軍でもそうだな。槍がメインで剣がサブ武器だったりする人が多い。


「体術ってのは人気がないんだな」


彼はメロー君。貧乏男爵だ。いや、本人は“貧乏”とは言ってないが、着ている服から勝手に判断している。


「武闘家の死亡率は戦士より明らかに高いからな。やはり、防具が装備できないのは大きいだろう」


彼はムアイ君。確か、子爵家だ。戦士の職を得ているとか言ってたから、その先の武闘家を目指しているんだろう。


合計五人か。

剣術なんて十人超えてるって言ってたな。


     ◇


「さて、お前たち。俺が武術の教官、パヤットだ。武術は実際に体を動かさんとどうにもならないからな、弟子を連れてきた。とりあえず、彼らと戦ってくれ。そのあと、方針を考える。ん? 六人いると聞いていたのだが、五人か? まぁ、とにかく始めてくれ」


むちゃくちゃだな。そんなので良いのか?パヤットが連れてきた弟子は二人。まずはムアイ君とメロー君が戦う。メロー君はいわゆるテレフォンパンチだな。軽くかわされ、腹に一発入れられ、ダウンしている。


一方、ムアイ君は善戦している。パンチだけでなく、蹴りも出している。だが、当たらない。


蹴りを外されたところで軸足を刈られ、倒れていた。


     ◇


さて、次は俺の番だ。ムアイ君が先程対戦していた相手と戦うことになる。さて、どうしようかな。とりあえず、相手の方がスピードも力もあるみたいだ。だが、こちらが胸を借りる立場だ。攻撃をしかけなければならない。


そこで、ボクシングの構えを取ってみる。こちらの世界では、このような動きを見たことがない。相手も戸惑っている。さて、ジャブは素手での攻撃最速というが、本当かな?フットワークを効かせながら近づき、上半身や肩の動きでフェイントを入れる。一方、向こうはどっしりと構えている。


ふと、相手が一方の足に重心を移動した。


高い“速さ”のステータスで細かい動きが見える。これは蹴りだな。相手の重心が乗っている足の方へ移動し、ジャブを打つ。


お、当たった。


もちろん軽い。


そのまま右ストレートと思ったが、相手はジャブ被弾にかまわず蹴りのモーションに入る。


この動きは知っている。

上段蹴りだ。


さすが本職、かなり速い蹴りだ。

今の状態からのスウェーでは間に合わない。そのまま前方に倒れ込み、前転する。素早く立ち上がる。


気配察知で相手が蹴りを空振りした体勢から、こちらに向きを変えようとしているのがわかる。


このまま振り返ると、相手の方が一テンポ早いな。そのまま後ろ蹴りを放つ。相手の脇腹に命中。


再び相対する。


後ろ蹴りもたいしたダメージになっていないようだ。


ふと、相手の雰囲気が変わる。

あ、この動き、前にフリーデガルトから習った型のうちのひとつだ。


「そこまで!」


パヤットが試合を止める。


いや、良かった。


武闘家が型を使ったら、下手したら死んじゃうよ。


     ◇


俺と同時に別の弟子と戦っていたアスース君は、既にのびていた。最後はスタンダー君。俺と対戦していた人が相手だ。

なんか、ストレスが溜まっていたのだろう。スタンダー君は攻撃すらさせてもらえず秒殺されていた。


「さて、お前とお前は俺が指導しよう。名前は?」

「リュカです」

「ムアイです」

「どんな指導を受けたいか要望を言ってみろ」


ムアイ君は無言だ。どんな指導って言われてもな。

そうだ。


「モンクの戦い方が習いたいです」

「ほう、いいだろう」


ムアイ君が少し驚いた顔でこちらを見ている。

キミは武闘家志望っぽいもんね。

早い者勝ちってことで。


その後、モンクの動き方を教わった。


     ◇


「リュカはモンク志望なのか?」

「見ての通り、闘気力があまりないからね。でも、神聖力はあるんだ。ムアイ君は武闘家志望でしょ。悪かったね」

「いや、いい。俺もモンクには興味があったんだ。今はまだ神聖力はないが、王都に来てから毎週末、教会に通っているんでね」

「上級職を目指してるのか。それは凄い」


教会で本当に神聖力、上がるのかな?


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