第78話 狭くて深い森ダンジョン
「森ダンはからくりダンと同じく、上層階の見学でいいのか?」
今日は狭くて深い森ダンジョンに来ている。
「できればポーションの素材が採取できるところを案内してくれると助かる」
「なら十層より下だな。さっさと降りよう」
このダンジョン、一層が体育館くらいの広さしかない。
階層をまたぐ階段まで数分とかざらだ。
「あれから、からくりダンには入ってみたのか?」
「二回ほどソロで。でも、あまり稼げる感じがしなくて」
「からくりダンも稼ぐなら二十層より下だな。上の方は魔石くらいしかドロップがなくて、しかも小さいだろ」
「三十層から先まで行ければ、森ダンより儲かるらしいぞ。ただ、ゴースト系が出るから対策は必要だな」
いろいろと教えてくれる。
ソロで三十層より下は厳しいな。
「ソロだと眠れないから日帰りだろ。だとしたら、十層までだな。深く潜るとなると、運ぶ水と食料がどんどん増えるから五人以上欲しいところだ」
確かに、交代で寝ずの番をしないといけないから、ダンジョン内で泊まるならソロでは無理だ。
「森ダンは狭いからもっと潜れるぞ。食べられる魔物も出るから食料の心配も少ないしな」
死骸は消えるのに、どう食べるんだ?
「素早く捌くのさ。捌いておくと死骸扱いじゃないらしい」
謎。
既に九層だ。
このペースなら半日で二十層は行けるだろう。
出てくるのもゴブリンやラビット系の弱いヤツばかりだ。
全てバンディッツのメンバーが処理してくれている。
俺は階段の場所を覚えるので必死だ。
目印とかないからな。
◇
「ここが十一層だ。薬草が生えているはずだ」
探してみると、確かに薬草が群生しているところがある。
せっかくだから採取しておくか。
一口に“薬草”といっても何種類もある。
ポーションを作るときは、それらを配合するわけだ。
薬草の名前は正直、ややこしい。
成長の過程によって名前が変わったりするし。
ブリかよ。
しかも、名前が変わるだけでなく、効能も変わる。
「もっと潜ってみるか?」
「今日、行けるだけ行ってみたいです」
十一層から先に進むと、別の種類の薬草が現れる。
別に一つの層に一種類という決まりがあるわけでもなく、複数種類が生えている層もある。
十五層までで初級ポーションは作れそうだ。
「今日はここまでだな。そろそろ戻るか」
現在、十八層だ。
中級ポーションの材料は揃わない。
価格や需要を考えると上級ポーションが一番良いんだが、ソロ日帰りでは難しそうだ。
「ありがとう。今度、ソロで潜ってみるよ」
バンディッツと別れ、娼館に戻る。
お土産としてフルーツポンチもどきを買っていったら、とても喜ばれた。
◇
翌日、早朝から森ダンに来た。
ソロでどこまで潜れるか挑戦だ。
森ダンはからくりダンより俺に合っていると思う。
気配察知で森の中の魔物配置がわかるし、薬草の単価は低くてもポーションにして付加価値を付ければ利益は増える。
学院に入れば寮だから宿泊費もないし、食堂は無料ではないが、ポーションで稼げば生きていくのに問題はないだろう。
個人護衛依頼と肉の売却で貯金もできたしな。
ソロで初級ポーションの素材が手に入れば上出来だろう。
ということで、目標は十五層。
一人でダンジョンに入るのは、やはり緊張する。
気配察知を全開にして森を進む。今日はタイムアタック気味の攻略になる。
魔物の気配を避け、階段へ急ぐ。
一層の階段はさすがに覚えている。
すぐに見つけ、二層へ。
◇
今回も弓を装備しているが、森だと射線が通りにくい。
気配察知で魔物の場所がわかっても、射線が通っていなければ倒せない。
いや、風の魔法を使えば軌道を曲げられないか?
風の生活魔法もずいぶん強くなっている。
ヴィント上等兵みたいに体を飛ばせるほどではないがな。
まだ二層で敵も弱い。一発くらい試しても良いだろう。
さて、やってみるか。
軌道を曲げられたとしても、そのコース上に枝や葉があっては駄目だ。
矢が飛ぶコースをイメージし、矢を射る。
そして、風魔法で――
いや、曲げすぎか。
矢は魔物とは別の方向に飛んでいってしまう。
ぶっつけ本番は無理だな。
今度、練習しておこう。
◇
薬草が生えていない上層に用はない。とっとと進んでいく。
五層になって、魔物を避けて進むのも難しくなってくる。
隠密を使っても、目の前を通ったりするとさすがにバレるからな。
通り過ごせない魔物の前に出、矢を射る。
命中したが、魔物はそのままこっちに突っ込んでくる。
犬型の魔物だ。
マリベルとか、魔物の名前に詳しくてすぐに教えてくれたんだけど、俺にはよくわからない。あとで調べないとな。
真正面から剣を振り下ろす。
避ける犬。
だが、剣を避けた方向に滑らせ、足を切り裂く。
動きが遅くなった犬の腹を切る。
気配察知から、近くの魔物が寄ってくるのを感知する。
この犬にそれほど時間をかけるわけにはいかない。
もう一匹はウサギ型魔物だ。
コイツは知っている。キラーラビット。
すれ違いざま、首を落とす。
魔物二匹の魔石を拾い、木陰に入って気配を消す。
◇
戦闘自体はそれほど難しくない。
この程度であれば、深手を負うことはないだろう。
だが、戦うと時間をロスする。
日帰りで十五層往復を目指す場合、時間のロスは痛い。
往復するだけじゃ駄目だからな。
薬草を探して採取する時間を入れると、片道三時間くらいが目安か。
下へ下へと向かう。現在十二層。
体感では三時間は越えてしまったな。
時計が欲しいところだが、この世界では高い。
遺跡で出てくるスマホもどき、あれって時間表示機能くらい残ってないかな?
前方の魔物に矢を射る。
命中するが魔物は倒れず、こっちに向かってくる。
第二射も命中。
そのままジャンプして突っ込んできた魔物を剣で倒す。
この階は木が少ないため、弓矢が使いやすいが、いかんせん威力が弱い。
この弓、ずいぶん前にマリベルが買ったショートボウだもんな。
もう五、六年前か。
兵役中は使ってないとはいえ、よくもったもんだ。
◇
そんなこんなで十五層に着いた。
体感で四時間以上五時間以下かな。だいぶかかってしまった。
さて、戻ろう。
だが、足元にある薬草に目が留まる。
これは意外とレアな薬草だ。
しかも、処理すれば保存がきく。
結局、一時間ほど採取をしてしまった。
急ぎ、戻る。
急ぐとはいっても、魔物はこちらの事情なんて頓着しないから、見つかれば襲ってくる。
地上に戻ってきたときには、夜も更けていた。
◇
今回は少し採取に時間を使ったが、なんとか日帰りで初級ポーションぶんの薬草採取は可能かな。
レベルアップでステータスが上がれば、中級ポーションにも届くかもしれない。
問題は、あまりレベルが上がっていないことだ。
転職から今まで、あまり治療を行っていないから、そのせいだろうとは思う。
しかし、学院に通い始めたら治療の機会が増えるかというと、これも難しいと思う。
この先、コンスタントに治療することになるのは、娼館少女たちの治療と、ジェニファーから依頼されているスラムでの治療くらいか。
軍に戻れば怪我人三昧なんだがな。




