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第76話 王都のスラム

翌日は仕事帰りに、ジェニファーに会いにスラムがある地域に行ってみる。

スラムは貧民街よりも、より混沌としている感じだ。

ただ、明確な区別はないように思える。


さて、王都のスラムは立ちんぼエリアからさらに南西の方だ。

だいたいの場所はジェニファーに聞いてある。

変に絡まれないよう、持っている中でもボロい服を着ているが、これでもスラムでは上等な部類なはずである。


     ◇


「なんだ、おめぇ?」

「やぁ、ちょっと北の方から来たんだ。ジェニファーって子、知らない?」

「知らねぇな」

おや、間違えたかな?

学院から南西に進んで、変なおっさんの像があったら南に行くと屋台通りがあって、それを通り抜けてさらに南。

いや、この説明もどうかしてると思うんだが。

「間違えたかな。アポなしだしな」


元来た道を戻る。

説明が説明だから、間違えてる可能性は高い。

気配察知で先ほどの子の様子を見ていると、地面から石を拾い、こちらに投げようとしている。


ふむ。


石を投げてきたところで振り返り、ナイフで石を弾く。鞘に入れたままだ。

一瞬で距離を詰め、地面に押し倒して喉元にナイフを押し付ける。

実はまだ鞘に入ってる。見えないだろうが。


「石が当たったら痛いじゃないか」

「くそ、おまえ、ジェニファーとどういう関係だ!」

「ピッタリくっつきあう関係さ」

ホントだけど嘘だ。


辺りを見回すと、近くの机で老人がのんびりタバコを吸っていた。

「リュカが来たってジェニファーに伝えてくれ。治療の日程を相談したいって言ってたって。俺はそこで待ってる」

俺は老人のところに行き、前の椅子に腰を下ろす。


その子は少し迷っていたが、去っていった。

「こんにちは」

「ふぉふぉふぉ」

こんな笑い方する老人、本当にいるんだ。


     ◇


「変な言い方しないでください!」

三十分もするとジェニファーが現れた。

なんか怒ってる。


「やぁ、ジェニファー。ギルドで護衛依頼が入ったんだ。二週間ほど王都を離れるから、スラムでの治療の相談がしたくて」

ジェニファーは溜息をつくと、俺たちと同じ机を囲んだ。

「あなたの前にいる方が、スラムを取りまとめている方です」

「よろしく」

「ふぉふぉ」

まぁ、そうだと思った。


グランベルクの貧民街にいたおばちゃんみたいな人だな。

雰囲気が似ている。

「とりあえず、今日の分を治療してしまおうか。ジェニファー、案内してくれるか?」

「いいわ。本当に来てくれるかちょっと心配だったの。来てくれてありがとう」

「どういたしまして」

ジェニファーの案内で怪我人を治療していき、一通り終わったところで老人のところに戻った。


     ◇


「さて、何か条件があるのかな?」

爺さんが聞いてくる。

特にないな。

「ここを出て裏の組織に入ってしまった子もいるだろう。そういう子は治療しない。組織には組織のやり方があるはずだ。爺さん、ちゃんと伝えておいてくれ」

そして、スラムの取りまとめは裏組織と渡りがついている。

これはグランベルクのおばちゃんに毛布を届けたときに聞いたことだ。


「スラムに慣れているようじゃな」

ちなみに、ヴァルクレインのスラムは取りまとめがいない。スタンピード後にできた比較的新しいスラムだからだ。

「あと、冒険者ギルドでFランク以上は無料での治療はしない」


「それはなんで?」

ジェニファーが聞いてくる。

冒険者はリスクとリターンの天秤に敏感でないと生きていけない。

無料で治療を受けられると思うと、その天秤が傾く。

そう伝えると納得してくれた。


「さて、次に来るのは二週間後だ。学院が始まる前くらいかな。それまで、できるだけ怪我をしないように」

ヴァルクレインの貧民街の子もよく怪我をしていた。

それは、無理を承知で森などに入り、食べ物を探すからだ。

だが、王都はどうなんだろう?

迷宮は完全に管理されていて、スラムの子が入れるとは思えない。

魔物の領域もなさそうだ。


「森はあるのよ。薪を取りに入る子は多いわ。小規模な魔物の湧き点もあるから安全ではないの。あとは川ね。少し下流に行くと護岸がなくなるんだけど、魚が捕れるの」


なんと、カジキに似た小さい魚で、ときどき刺される子供がいるとか。

捕まえ方は簡単。

木の板を持って待っていると、攻撃してきて板に刺さるそうだ。

ちょっとやってみたいな。


「ジェニファーが住んでいるところを教えてよ。次に来るときは、まずジェニファーを呼びに行くよ」

ジェニファーの家はスラムから少し離れたところにあった。ボロ家が集まっている。

「じゃあ、二週間後に」


     ◇


翌朝、日の出前にギルドへ行く。

先方はまだ来ていないようだ。

しばらく待つと、ビーデルさんが執事っぽい人と共に現れた。

「では、よろしくお願いします」


執事任せでナーンヴァ様は現れなかった。

まぁ、それがナーンヴァ様とビーデルさんの関係だ。


ビーデルは無言だ。

馬車に乗り、南の停留所へ。

そこから、目的の長距離馬車に乗り換え、進む。

行きは貴族婦人になることへの期待と緊張に包まれていたビーデルさんだが、この帰りの馬車では何を考えているんだろう?


     ◇


「ひどいと思わない?」

ビーデルさんがようやく口を開いたのは、昼休憩も過ぎ、さらに進んだ休憩スポットだった。

いや、市民と貴族の一夜の過ちなんてそんなもんですよ。

でも、そんなことを言ってはいけない。

同調だ、同調。


「そうですね」

「彼のお母さま、私はスクリーバ家にふさわしくない、って。そりゃ、貴族の所作とか知らないわよ。食事のマナーも変だったかもしれない。でも、それだけで目の敵にするなんて」


貴族のマナーとか、面倒ですもんね。

それにしても、デヴィーゼルさんは最低限の教育も施さずにビーデルさんを送り出したんだろうか。


馬車は初日の宿泊地に到着した。

王都からそう離れていない分、宿泊施設や食事処は充実している。

「手切れ金っていうのかしら。父は二十万ギルで手を打ったみたいね。私の値段がこれだけってこと?」

その額、今回の依頼料より少ないぞ。

でも、和姦だからな。

カスパルの時の半額と考えれば、そんなものか。


「今日は豪華な所に泊まって、美味しいものでも食べるわ。リュカ、付き合ってね」


     ◇


その街で一番高い宿に泊まることになった。

一泊一万ギル。貴族が使う宿だ。

なんと、部屋に風呂がある。

ビーデルさんは併設されているレストランを予約している。

きっと高いぞ。


「このお金はね、私のもののはずよ。そうでしょ? コース料理の正しい食べ方まで仕込まれたのよ。いや、あれはいじめの一環ね。何をしても、“あら、ビーデルさん、そんな動物みたいな食べ方して”ってね」


ビーデルさんのマナーは、確かにしっかりしたものになっていた。

食事はとっても美味しかった。

六千五百ギルだってさ。


夜、風呂の準備をしてもらう。

「では、私はロビーで時間をつぶしてまいりますので」

「何言ってるの。今までもさんざん着替えを見てきたくせに」

ビーデルさんは、そのまま風呂に入っていった。


まぁ、風呂はちゃんと別部屋だしな。


一時間ほど経過したが、ビーデルさんは出てこない。

長湯だな。

気配察知で見ると、動きがない。のぼせたか?

そういえばビーデルさん、ワインを飲んでたな。


ノックをしてから中を確認すると、ビーデルさんは風呂でのぼせていた。


仕方がないので体を拭いてベッドまで運んであげる。

大丈夫そうなので、俺も風呂に入る。風呂なんて久しぶりだ。


将来は毎日風呂に入れる生活がしたいところである。


     ◇


「ナーンヴァ様ったら、結局一度も部屋に呼んでくださらなかったのよ。ひどいと思わない?」

風呂から出たら、ビーデルさんは目を覚ましていた。

いろいろと“ひどい”と思ってることが多いな。

ずいぶんと、この一か月はストレスだったんだろう。


ナーンヴァ様が部屋に来なかったのは当然だろう。

元々、一夜のお遊び予定だったんだからな。


その後、夜中まで愚痴を聞かされた。


同じ作品をTALESにも投稿しています。

小説家になろうでは表現できない描写はTALESの方で書かせていただいてます。

https://tales.note.com/nekomot_mao/w4gz6seh3e04x/episodes/e5vvr4hwwhrlh

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