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第74話 卒業生を送る会

それから二日間は休日出勤だ。

休日の窓口はそんなに人は来ない。しかも午後三時で窓口を閉じる。

だが、やっている窓口は俺だけなので、かなり忙しい。


ずっと待たされている軍人さんもイライラしてるし。

既に午後五時半の退勤時間だが、まだ四人残っている。

「はい、次の方~」

「前の作戦で報奨金が出たんだ。その受け取りだ」

「軍人手帳をお見せください」


軍人手帳を、死んだ目をしている出納係に渡す。

彼女も休日出勤だ。

「お呼びしますので、後ろでお待ちください」


「ったく、いつまで待たせるんだよ」

たぶん、俺も死んだ目をしているんだろう。


「はい、次の方~」


     ◇


終わった。

明日もこれか。

ワンダーに帰るとミュシャが待っていた。


「今日はチェリーが手作り料理をご馳走するんだってさ。今夜はアジェーダで食べてきな」

なんか、レストラン・アジェーダみたいな。


「あと、夢を見させるな、って言ったよね。忘れんないでね」

難易度高めミッションだな。


チェリーの手料理だが、肉は焼いただけ、味付けなし。

パンは焦げている。

野菜は茹でただけ。

そんな感じだった。

ちゃんと完食した。


「初めての料理でしょ? 上出来だと思うよ」

「美味しくなかった……」

「すぐ上達するさ」

作った本人もまずかったと思っているんだろう。

少ししょげている。


「さぁ、チェリー。そろそろ出な。常連さんが待ってるそうよ」

立ちんぼにも出待ちってあるんだ。

ミュシャに促され、外に出るチェリー。


「惚れさせないようにね。ああいう子はね、男に惚れると面倒なんだ。わかるだろ」

前世でもモテたことはない。

わからんぞ。


「今日はこっちに泊まっていきな」

なんでですかね?

「毎回ワンダーに泊まるってのも不公平だろ」


全くわからん論理ですな。


     ◇


朝、出勤しようとするとチェリーに会った。

「えー、リュカ、こっちに泊まってたの? 知ってれば泊まりの客なんてキャンセルしてたのに」

チェリーは昨晩、泊まりの客だったらしい。


「損した~」


いや、損してないでしょ。


     ◇


今日も休日出勤だ。

出納係は別の人だった。


「リュカは昨日も出勤か。精が出るな」

いや、ちょっとしんどいです。

幸いなことに、今日はあまり客が多くない。


「だいたい休日の初日が混むんだ」


前線の診療所勤務の方が楽だった説まであるな。

あっちは休日ゼロだったけど、一日の仕事は数時間で終わっていた。


「うちら事務系はなかなか出世しないからな。給与や年金は階級や職位で決まるから、一概に事務職が良いってことはないぞ。まぁ、命の危険がないってのが最大のメリットだな」


兵はバカでも戦功を立てれば階級が上がるからな。


     ◇


そして、再び平日の勤務だ。

「リュカ君、この申請、退役済みの場合は様式二を使うのよ」

そして、休日出勤中の仕事に対して駄目出しされている。


「リュカ曹長、いるか。会計課がお呼びだ」

計算は得意だが事務系仕事はミスが多い、という評価が定まりつつある。

この世界は紙全盛だからな。


DXが起きるのはずっと先だろう。

そんな感じで、最初の十連勤を終えた。


     ◇


今日は卒業生を送る会だ。


「リュカ君!」

「やぁ、シャノン」

シャノンは誰かと一緒だ。


「あ、紹介するね。こちら、ジェニファーさん。ジェニファーさん、こちら、リュカ君よ」

「はじめまして」

「はじめまして」

赤毛のショート。

すごく痩せているが、何故か胸だけ大きい。

この世界にはシリコンはないはずだが?


「今日の服を買いにお店に行ったら、そこで会ったの」

そういえば、シャノンはかなり綺麗な格好をしている。


「シャノン、その服とても似合ってるね。どこかの貴族令嬢かと思ったよ」

「うふふ、ありがと。でも、これ貸し服だから。授業が始まったら庶民の格好に戻るわよ」

ジェニファーさんの方はみすぼらしい格好だ。

庶民の中でも下の方の格好だな。

服は買わなかったのか。


チラリと見ただけだが、何を考えているか気付かれたようだ。

「高くて買えなかったの。貸し服はどうせ返すんだから、一時着飾るためだけに出すお金はなくて」

「快活な感じで良いと思うよ。俺の服だってこんなもんさ」

学院での一人称代名詞は“俺”でいこうかと思っている。

その俺が着ている服は冒険者ルックだ。


前に実家に帰った時に持って帰ろうと思っていたのだが、全てサイズが小さくなってしまっていたのだ。

「それにさ、成長期だし。学院に通う間に一・五倍くらいの身長になる予定だから」

「一・五倍は高すぎよ」


シャノン、ナイスツッコミ。

ジェニファーも笑ってくれた。


     ◇


さて、いよいよ入場だ。

続々と新入生たちが中に入っていく。

入るときに合格証を見せるだけ。特に出席を取っているわけでもなさそうだ。


さりげなくシャノンたちから離れ、中に入れる柱とやらを探す。

向かって右側だったな。


あれか?


新入生たちに席はない。バラバラに立っているだけだ。

柱を探していても不自然には見えない。

卒業生に近いヤツっと、これかな。


よく見ると、継ぎ目があって開けそうな感じがする。

ただ、問題はジェニファーが俺の近くにいることだ。

ジェニファーは俺を追ってきたわけではない。


たまたまこの場所で合流した感じだ。

これは、もしかしたら?


「ジェニファーさんも柱の中で天啓の儀?」

小声で聞いてみる。

「リュカ君も、なのね」

少し驚いたようだったが、答えてくれる。

よし、時間がない。


柱を調べると、わずかに凹みがある部分を見つけた。

そこに爪をかけ、引っ張ると扉が開く。

中には掃除用具が入っている。


急いで中に滑り込み、ジェニファーを手招きする。

狭いけど、入れるかな。

ジェニファーは一瞬躊躇したが、そこにあった箱に乗るような形で入ってくる。

かなり狭い。いや、近い近い。


とにかく扉を閉める。

内側に紐がついていたので閉めるのは簡単だ。

真っ暗になった中で二人、息をひそめる。

近い。

というか、密着している。お互いに身動きが取れない。

立派なお胸が俺の顔に当たってるぞ。


卒業生の挨拶っぽいのが聞こえるが、中身は聞き取れない。

顔に当たるジェニファーの胸で息がしづらい。

時間がゆっくり過ぎていく。


     ◇


しばらくして静かになったと思ったら、足元に青い光が現れた。

来た!

天啓の儀!!

頭に浮かんだのは、

――僧侶

――魔法使い

この二つは予想していた。

闘気力が上がったから戦士や武闘家もあるかと思ったが、これだけだ。


この二つが選択肢だった場合、僧侶を選ぶつもりだった。

僧侶になれば敗血症にも対抗できるかもしれない。

パッカード軍曹の死は、俺の心に深い傷を負わせていた。

あと、今回の天啓の儀については秘密にするつもりだ。

つまり、今後も無職を装う。


そうなると、魔法使いの派手な魔法は具合が悪い。

僧侶を選択する。

ふと上を見上げると、魔法陣の光に照らされたジェニファーの顔が見える。

ジェニファーもこちらを見る。

少し照れているようだ。

まぁ、この距離だからな。


ものすごく気まずい。


     ◇


外が静かになってから、そっと扉を開ける。

ちょうど最後の新入生が出ようとしているところだった。

俺たちも急いで続く。


ステータスダウンの影響で足がもつれる。

「大丈夫?」

「ずっと立ってたから足が痺れただけ」

他の生徒に混じり講堂を出る。


「ジェニファーさんは王都に住んでるの?」

「ジェニファーでいいわよ、リュカ。ええ、王都住みよ」

「どこかでお昼を食べていかない?」

迷っているジェニファー。


お金のことかな?

「いろいろあったし、奢るよ」

「ありがと。甘えちゃおうかな。いろいろあったし」

これはお胸の件だな。


「王都に出てきて日が浅いんだ。良い店があったら教えてよ」

「うんと高いところにしましょ」


「お手柔らかに」


     ◇


ジェニファーに連れられて行ったのは、お洒落なカフェだった。

ただ、値段は庶民的だし、客層も一般平民だ。

「一度、ここに来たかったんだ」

「良い感じのお店だね」

「リュカ、お金は持ってるの?」


「一応、貴族なんだ。ただ、子爵の五男だからね。平民と変わらないくらいかな。冒険者をやっていて、お金は自分で稼いでる」

冒険者証を見せる。


なんかジェニファーに嘘をつく気になれなかった。

「あたしは、その“平民と変わらない”の平民だけど、その中でも下層の方。ただ、魔法力と神聖力があったの」


ケーキとお茶が運ばれてくる。

「わぁ、美味しそう」

ジェニファーは美味しそうに食べ始める。

「リュカはさ、どんな職に就いたの?」


「普通さ、親しくないと職は訊かないんだよ。スキルに至っては、家族にも教えちゃ駄目なんだって。俺は今回、僧侶になった」

「親しくないと訊いちゃいけないのに教えてくれるんだ。で、なんで僧侶?」


「二年間、軍にいたんだ。衛生兵だけど。ずっと癒しの手で治療の毎日さ。で、そこで人を死なせてしまったんだ」

ここでも本当のことを言う。


「私はね、今まで僧侶だったの」

「庶民の学校を卒業するとき?」

「そう。その学校で推薦されて、ここを受けたわ。僧侶になってから、ずっとここに入るための勉強をしながらスラムの子たちを治療してきたの」

それでレベルが四十まで上がったのか。


「魔法使いになったら“治癒”が使えなくなるなんて知らなかった」

「学院を卒業するまで、俺が治療を請け負うよ」

ジェニファーが驚く。


「そんなつもりで言ったんじゃないんだけど、いいの?」

「うん。その代わり、俺が僧侶であることは秘密にして欲しい」

「スラムはリュカ君が考えるようなところじゃないわよ」


「スラムで暮らしてたこともあるし、今は潰れた娼館に住んでるよ」


なんで潰れた娼館に住んでいるのかを説明しておいた。


     ◇


スラム街への往診は週に一回で良いそうだ。

ただ、緊急の時は来て欲しいとのこと。

俺の“僧侶”は秘密。

ジェニファーの“魔法使い”は公開するつもりのようだ。


魔法使いは戦闘でレベルを上げないといけないからね。


同じ作品をTALESにも投稿しています。

小説家になろうでは表現できない描写はTALESの方で書かせていただいてます。

https://tales.note.com/nekomot_mao/w4gz6seh3e04x/episodes/evr5gtafi3lsz

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