第73.5話 やくざ準幹部のつぶやき
俺はグリューン。
“緑の暖炉”って組織で準幹部をやっている。
これでも出世は早い方だ。順調にいけば、あと数年で幹部入りだろう。
緑の暖炉は王都北西部では最大勢力だ。南東の“三本の槍”との抗争も、最近は落ち着いてきている。主なシノギは賭場、売春、薬だ。
特に北西部は貴族エリアが近いため、賭場と売春が主な稼ぎとなる。
貴族様が主に利用するのは高級娼館とコールガールだ。
高級娼館があるエリアから少し外れると、中低級娼館、置屋、立ちんぼとランクが下がっていく。俺は、置屋と立ちんぼが担当だ。
そういう店は理不尽な暴力に対する防衛手段がない。
衛兵は、彼女たちを取り締まる立場だ。
無力な女を力ずくで、という輩は多い。
そこで、俺たちの出番だ。
◇
ある日、俺が管理する区画で、女が客に斬られるという事件が起きた。
別に、珍しいことではない。
上がりの一部をいただいている以上、早急に解決するのは俺の仕事だ。
犯人は斬られた女の知り合いだった。最近、つきまとわれていたらしい。
こういう事件は簡単だ。
すぐにその輩を探し出し、徹底的にかわいがってやった。
そいつの周りの者は、夜の女に手を出すとどういうことになるのか、よくわかっただろう。
そいつ本人?
もう息をすることもできない。
◇
その事件からしばらく後、同じ通りで別の女が襲われた。
問題は、襲った相手が一見客だったことだ。
こういうとき、犯人捜しは難航する。
地道に聞き取り調査を行うしかない。
俺はふと、襲われた女も何か見ているかもしれないと考え、そいつに話を聞いてみようと思った。
売春婦は僧侶の治療を受けられないから、死んでる可能性が高いが、ダメ元だ。
だが、驚いたことにその女はピンピンしていた。
誰かに癒しの手で治療してもらったらしい。
いやいやいや。
聞き込み情報からすると、両腕骨折のはずだ。
癒しの手のはずがない。
すると、教会の息がかかっていない僧侶か?
教会の息がかかっていない僧侶は、少ないながら存在する。
そして、そういう僧侶は俺たち裏社会の人間にとって貴重な存在だ。
もしやと思い、以前に斬られた女も調べてみたが、こちらも治療を受けている。バッサリと内臓までやられていたはずだ。
ビンゴだ!
この僧侶を手に入れれば、幹部の椅子が待っている。
◇
手下を使って調べてみると、厄介なことが判明した。
軍属、しかも曹長だ。曹長ってことは前線に出てたんだろうが、今は中央軍事務局で内勤をやっている。
俺たちは軍には関わらない。退役軍人は俺たちの良いお客さんだが、現役の軍人に手を出すと面倒なことになる。
しかも、退役後はエーデルヴァルト王立学院だと。
あそこは学長が面倒で、学生が自らやってこない限り、こちらからは接触しないことになっている。
打つ手はないな。
だが、幹部の椅子が諦めきれなかった俺は、本人に会ってみた。
なんと、潰れた娼館に住んでいる。
接触は簡単だった。
◇
「これは丁寧にどうも。どういったご用件で?」
思っていたよりずっと若い。
てっきり好色すぎて教会からつまはじきに遭っているエロ爺僧侶だと思っていたが、当てが外れた。
いかにもなナリの俺の姿を見ても、ビビる気配もない。
「お礼はこの子たちからもらってます」
欲もなさそうだ。
取り込むのは今のところ、無理か。
だが、人生普通に生きていれば裏組織と関わらないような人間も、一度コネクションを作ってしまうと使ってみたくなるものだ。
「そこで、店主にこのメダルを見せると私たちと連絡がつきます」
彼はいつか、“緑の暖炉”を頼る日が来るだろう。
俺はのんびりそれを待つとしよう。




