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第70話 合格発表

エーデルヴァルト王立学院の合格発表が近づいてきたため、王都に向かう。

王都は物価が高いのが困るんだよな。


軍からもらえる手当を試算してもらったら、二年間で三十~四十万ギルになるという。

それがもらえれば一息つけるが、それまでは極貧だ。


さて、王都では、安宿はどこにあるんだろう?

「エーデルヴァルト王立学院の近くだったら、南西の方向だな」

そのあたりだと、前回千二百八十ギルで泊まった宿のあるエリアだな。

もしかして、千二百八十ギルでも安いのだろうか?


今日は天気も良いし、寒くもない。

もう野宿でいいか。

夜、路地で横になっていると、気配察知に二人組が近づいてきているのが引っかかる。ガラの悪いのが来たのかな?

とりあえず、場所を移動しよう。


「そこの君、ちょっと待ってくれたまえ」

立ち上がり、去ろうとすると呼び止められた。

見ると二人組の衛兵だった。


「君、そこで何をしていたのかね?」

寝ようとしていただけです。

軍人手帳を提示し、事情を説明する。

「中央軍事務局ね~」

「そういうときは、ちゃんと兵舎や宿に泊まるもんだろ」


軍務での移動ではなく休暇扱いなので兵舎には泊まれない。

手当がもらえなかったので宿にも泊まれない。

事情を説明しながら、教官からの推薦状も見せる。

「とにかく、この辺りでの野宿は禁止だ」

「こちらとしても、曹長さんと揉めたくはないんだ。ここから南に向かって大通りを越えれば見回りも厳しくない。できればそっちに移動してくれ」


     ◇


言われた方向に移動する。

大通りを渡ると、とたんに雰囲気が変わった。

建物の質、路上のゴミ、気配察知にかかるうろつく者達。

なるほど、確かに大通りの反対側とは明らかに違う。

知らない場所を夜中に歩き回りたくない。大通りからそれほど離れていない小道で夜を明かした。


     ◇


翌日、合格発表を見にエーデルヴァルト王立学院へ行く。

エーデルヴァルト王立学院は、大勢の若者とその両親でごった返していた。


しばらくすると、合格者が掲示される。

自分の名前は、ふむ、ちゃんとあるな。

合格者はこのまま手続きがあるらしい。


列に並んでいると、以前会ったシャノンとアスースも現れた。

「やぁ、久しぶり。二人とも合格したんだね。デキン君は?」

「デキン君は残念ながら落ちたみたい」

それは残念。


手続きを済ませ、講堂に入る。

合格者は四十名程度。

平民っぽいのは五、六人くらいか。

まぁ、平民でも立派な服を着ればわからないからな。


講堂で注意事項などを聞く。

新学期は六週間後。ただ、二週間後に卒業生を送る会がある。

これが、アルドリック兄が言っていた、こっそり天啓の儀を受けられるヤツだろう。


説明会が終わった後、合格証を受け取り解散となった。

「リュカ君は始業式までどうするの?」

「ちょっとワケありで、事務仕事かな。シャノンは?」

「叔母に挨拶してから、一度家に戻るよ」


アスース君は両親と来ていたようで、連れ立って帰っていった。

「じゃあ、またね」

「あぁ、卒業生を送る会で会おう」


     ◇


俺はそのまま中央軍事務局へ行き、申請書などを提出する。

「ではリュカ曹長、四日後にまた来てください。結果をお伝えします」

曹長ってそこそこ偉いみたいなんだよな。丁寧に対応される。


もう夕方だ。

昨日はあまり見て回れなかった大通りの南側をチェックしてみよう。安く泊まれる宿があるかもしれない。

大通りの南側は寂れた繁華街だった。たぶん、以前は娼館だったんだろう。

だが、全ての店が潰れている。

さらに進むと連れ込み宿があった。こちらは営業しているようだ。

ここなら安いかも。


しばらく歩き回っていると、露出度が高い派手な服を着た女性が街角に立ち始める。

なるほど、立ちんぼエリアか。


そのうち、男どもも現れ、徘徊し始める。

ところどころで交渉成立し、先ほどの連れ込み宿へと消えていく。


連れ込み宿の方は繁盛してそうだな。

安くは泊まれないかも。


     ◇


そんな感じで観察していると、少し離れた場所から怒号と悲鳴が聞こえてきた。

行ってみると女性が血を流しながら倒れている。

「ベネット、ベネット!」

傍らでは別の女性が倒れている女性に声をかけている。

いや、揺らしちゃ駄目でしょ。


「どいて。傷を見せて」

不審そうな顔をして俺を見る女性。少し躊躇したが、どいてくれた。

傷は左胸から腹部までバッサリ。剣による傷かな。

魔法で水を出し、傷を洗ってみるが特に汚れなどはないようだ。

ただ、内臓が見えている。


「治療するね」

「お願い、ベネットを助けてあげて」


見たところ、内臓に傷はないようだ。癒しの手で傷を塞いでいく。

驚いた表情で俺を見るもう一人の女性。


いや、これくらいの傷なら楽勝でしょ。

「もう大丈夫だと思う。この子を寝かせられる場所はあるかな?」

傍らの女性が潰れた娼館を指す。

幸い、斬られた女性は小柄で軽い。


「カテリーナよ。開けて」

娼館の一つでカテリーナはドアを叩き、中に向かって呼びかける。

すると、ドアが開き女性が顔を出す。

「どうした?」

「ベネットが剣で斬られて。幸い、この人が治療してくれたんだけど、まだ目を覚まさなくて」


事情を聞くと中に入れてもらえ、二階の部屋に通される。

ベネットをベッドに横たえると、瞼を開き、ライトの魔法で光を入れる。

瞳孔反射はあるようだ。呼吸もあるし、心拍もある。

大丈夫だろう。


「寝かせておけば大丈夫だと思う」

「本当?」

いや、わからんし。


     ◇


「誰にやられたんだい?」

ドアのところにいた女性が訊いてくる。

この女性、顔が青あざだらけだな。切り傷もあるようだ。

最近、手ひどく殴られたんだろう。


「最近ベネットにつきまとっていた野郎よ。最初は交渉してただけなんだけど、いきなり剣を出して」

「あのクソ野郎か」

ベネットが身じろぎする。

ちゃんと生きてるね。


「ベネット!」

「あ、カテリーナ。あれ? なんであたし、ここに?」

カテリーナが事情を説明する。

「本当にありがとう」

半身を起こし、礼を言うベネット。


顔をしかめている。貧血だな。

「痛むところはない?」

「うん、大丈夫」

ベネットは伸びをすると、いきなり服を脱いだ。


「傷は完全に塞がってるね。でも、雑菌が入ったかもしれないから、これを飲んで」

中級ポーションを取り出す。

「いや、そうじゃなくて。お礼よお礼。アタシ、カラダくらいしか渡せるものないから」

病気持ってそうだし、いらん。

「頭、痛いでしょ。血を流しすぎてるんだ。魔法での治療は万能じゃないんだ。体力を消耗するし、流れ出た血は戻らない。今日明日は安静にしておいて」

中級ポーションを押し付ける。


ベネットはそれを飲むと、ベッドに横になった。

「正直、体がきつかったんだ。頭も痛いし。お言葉に甘えて、もう寝るね」


しばらくすると、ベネットは寝息を立て始めた。


     ◇


「アンタ、ここに女を買いに来たんじゃないのか?」

ドアのところにいた女性が訊ねる。

まぁ、こういう場所に男が来るってのは、そういうことだしね。


「いや、昨日スールドから来たんだけど、宿代がなくて。昨日、野宿しようとしたら衛兵に文句言われて。野宿するんだったら、大通りのこっち側にしろって言われてこっちに来たんだ」


正直に打ち明ける。

隠すこともないしな。

「スールドから王都にはどうして?」

今度はカテリーナが訊いてくる。

「士官学校を卒業してね。兵役が一か月残ってるんだけど、前線に行くのは効率が悪いから、中央軍事務局で残りの一か月を過ごせないかなと思って」

軍人手帳を見せる。


「ふ~ん、リュカ曹長か。その年で曹長なんて、たいしたもんだね」

「ずっと衛生兵をやってただけさ。その顔の傷も治そうか?」

「あぁ、お願いするよ。この顔じゃ客が取れないからね」

癒しの手で顔を治してやる。


「ありがとうね。アタシは、イエヴァってんだ。泊まるところがないなら、ここに泊まっていくといい。ちゃんと清潔にはしてある」


宿を手に入れた。


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