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第69話 士官学校卒業

同じような日々が続く。

特に野盗に襲われるでもなく、旅路は順調だ。


ビーデルさんも馬車旅に徐々に慣れてきているようだ。食事に文句を言うことも少なくなる。

「私、ヴァルクレイン領を出るのはこれが初めてなの。最初は旅に出ることにすごく興奮したわ。でも、そろそろ旅にも飽きたわね」

まぁ、それはそうだろう。


立ち寄る場所も村から町、町から街へと規模は大きくなっているが、その間は農村や草原、荒野などだ。

ここら辺の街はヴァルクレインの領都よりも栄えているが、夜に着いて朝に出発するため、買い物などはできない。


「私、ヴァルクレインの収穫祭が大好きなの。去年、収穫祭の最終日、踊りの輪でナーンヴァ様に声をかけていただいたの。一目惚れだったわ」

惚気話か。

まぁ、馬車の中での話題なんて、それほどないしな。

「食事のあと、家まで送ってくださるって。で、ウチは表通りから少し入ったところにあるのだけど、わかるかしら。布屋通りの方なんだけど」

いや、知らんす。


「ウチの手前に休憩できる宿屋があるの。ナーンヴァ様は少し歩き疲れたから、休憩しませんか、っておっしゃられて」

連れ込み宿ですか。


「翌朝、宿を出たらお父様が待っていて。あのあたり、知人が多いから、きっと誰かが父に知らせたんだわ。とっても恥ずかしかったのよ」


あちゃー。


     ◇


そんなこんなで、ようやく王都に到着である。

スクリーバ子爵家の場所はすぐにわかった。

「リュカ・フォン・ヴァルクレインです。冒険者ギルドの依頼を受け、ナーンヴァ・ドゥ・スクリーバ様へのお客人をお連れしました」

執事っぽい人は「少々お待ちください」と言い下がったが、しばらくすると戻ってきた。


「身分を示すものをお持ちですか?」

家紋が入った小刀を見せる。

これは以前、マリベル姉が持っていたものだ。マリベル姉がアイゼンフェルト家に嫁いだときに返却され、今は俺が使っている。

貧乏貴族はこんなものでも再利用だ。


執事っぽいのが再び下がり、今度は若い貴族っぽいのが出てきた。

「リュカ・フォン・ヴァルクレイン殿、私がナーンヴァ・ドゥ・スクリーバだ。客人を連れてきてくれたとのことだが……」

ビーデルさんの顔を見て固まる。


「デ、デービル嬢、久しぶりだな。今日はどのような要件だろう」

おい、名前間違えてんぞ。

「ビーデルですわ。夜会に招待していただき、ありがとうございます。あいにく父は商用で外せないため、私だけで参りました」

懐から手紙を取り出す。

あれが招待状なのだろう。


「あ、あぁ。少し待っていてくれたまえ」

中に通される。

「依頼は完了ですね。こちらの書類に署名をお願いします」

俺はギルドの依頼状にビーデルの署名をもらう。

これで任務達成だ。


ナーンヴァ様が戻ってきた。

「ナーンヴァ様、私はギルドで受けた依頼で、こちらのビーデル嬢をお届けしただけですので、そろそろ失礼させていただきます」


なんか、修羅場が待ってそうだし、とっとと退散しよう。


     ◇


その後、ギルドに行って完了報告を済ませるとともに、入ダン申請がどうなったか聞いてみる。

「はい、申請は受理されました。入ダン許可証を発行しますか?」

申請しておいて、許可証を発行しない人なんているのだろうか?


「はい、お願いします」

「では、六万ギルとなります。発行から五年間有効です」

許可証にもお金がかかるのか!

申請で四万、許可証に六万って、どれだけぼったくりよ。


個人護衛依頼のお金が吹っ飛んだ。

「最初にダンジョンに入られる際は、案内人をお付けすることをお勧めします」

「はい、そうします」


案内人に払うお金、足りるかな。


     ◇


その後、商業ギルドへ行き、ユリウス兄への伝言をお願いする。


「ここでお待ちいただければ、すぐにいらっしゃると思います」

待っていたら、本当にすぐに来た。


「肉がないとやれることが少ないからね」

ユリウスが借りた倉庫まで移動し、肉を降ろす。


「お金を渡せるのは一か月後かな。現金取引じゃないから時間がかかるんだ」

手形取引か。

「楽しみに待ってるよ」


さて、そろそろ士官学校に戻らないとな。

試験の結果発表がもうすぐだ。

本当なら王都にいる間にエーデルヴァルト王立学院の入試結果を確認したかったのだが、結果が出るのはまだ先だ。


他の会場の試験結果も照合しないといけなかったりするため、時間がかかるらしい。

仕方がないのでスールドに戻ることにする。


     ◇


スールドの士官学校に戻る。

帰省していた士官学校生もポツポツと戻り始めている。

「やぁ、リュカ。実家はどうだった?」

「特に変わったことはないよ。ジョバンニ君は?」

「俺の方もだな~」


「よう、お前ら。休暇、楽しんだか?」

抜け出しの名人、カインズさんだ。

俺も含め、彼のように軍から直接士官学校に入った者は、この休暇を軍役中の休暇とは見なされないのでお得である。

今も軍務中扱いなのである。


カインズさんは遊びまくったな。

「いや、隊のヤツらに土産も持って行かないといけね~し、落ちたら隊長にどやされるし、大変なんだぜ」


彼は意外と成績は優秀だ。


まぁ、通るだろう。


     ◇


いよいよ試験結果発表である。

さすがに落ちることはないと思うが、どうだろう。

結果が書いてある大きな紙が貼り出される。

さて、俺の名前はあるかな?


「おぉ、リュカ君、すごい。トップだよ」

俺が自分の名前を見つける前に、チェシャさんが見つけてくれた。

どれどれ、確かに俺の名前が一番上にある。

チェシャさんは二位だ。


「チェシャの方が上だと思ったんだけどな」

「あたし、数学は嫌い」

そういえば、そうだったな。


「よぉ、リュカ。主席卒業だってな。羨ましいぜ」

フックさんも合格はしているらしい。

下の方だな。


「別に主席になっても良いことないでしょ。軍に戻る予定はありませんし」

「なんだ、知らないのか? 主席卒業は一階級上がるんだぜ」

「軍に戻るならですよね」

「戻らないのか? 戻れば曹長だぞ」


この世界には上級曹長はないので、曹長の上は少尉になる。

曹長って、尉官達の都合の良い使い走りってイメージがあるんだよな。


「あまり興味ないんですよね~」


     ◇


続いて卒業式である。

主席ということで挨拶させられたが、なんとかやり通した。


「今夜はよろしくな!」

「ご馳走になるぜ!」

なんか、卒業する人たちがいろいろと言ってくる。

なんだ?


「リュカ、知らないのか? 士官学校の伝統で、主席卒業者は卒業パーティーで皆に奢ることになってるんだ」


マジか!


チェシャ、これを知っててわざと二位になった説。


結局、かなりの散財になってしまった。

金欠なのにこの仕打ち。


涙目である。


     ◇


「あたしは軍に戻るわ」

「俺もだな」

士官学校の宿舎に一泊し、翌日出発だ。

チェシャとジョバンニ君は軍に戻るそうだ。


「リュカは除隊の手続きね」

「ちゃんと軍務中の手当をもらわないとな」

そう、金がないのである。


事務所は士官学校真ん前の建物にある。

さっそく手続きだ。

「リュカ軍曹の軍役期間は二十三か月になります。このまま除隊となりますと十八か月ぶんの手当しか支給されませんが、よろしいですか? あと一か月の軍役で満期となりますが?」


満期分欲しいに決まってる。

「エーデルヴァルト王立学院を受験したんです。受かれば通いたいのですが、なんとかなりませんか?」

「では、王都の軍事務所での勤務はいかがでしょうか? 既に二年近く就役していますし、理由がエーデルヴァルト王立学院入学であれば認められる可能性は高いかと思います」


「はい、それでお願いします」

「では、エーデルヴァルト王立学院の合格通知と共に、こちらの申請書を中央軍事務局にご提出ください」


え?まだお金もらえないってこと?


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― 新着の感想 ―
一応、軍からとはいえ、年下のガキに集る大人たち(主席卒業で奢らないといけないとか……) ビーデル嬢は見染められた訳ではなかったかww(それでも依頼受けて無きゃ払えなかった、というか、入ったら入っただけ…
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