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第68話 個人護衛

「なかなか良い肉が手に入りそうですぞ。期待しててください」

ヴァイス商会に戻ると、オットーさんがホクホク顔だった。


「肉って腐らないんですか?」

「ちゃんと処理してあれば大丈夫。そもそも、肉は一か月以上熟成させてから市場に出すからね。ちゃんと熟成期間が長いものを仕入れるようにするから、そこは心配しないでくれたまえ」

そんなことになってたとは知らなかった。


「ユリウス君には明後日、出発してもらう。向こうで卸先を選定しておいてくれ。肉の種類と量は明日伝える。リュカ君、王都に着いたらギルド経由でユリウス君に連絡を取ってくれたまえ」

この場合のギルドは商業ギルドだな。


ユリウス、是非是非頑張ってくれたまえ。


     ◇


翌日、リーゼと会うために冒険者ギルドに行く。

「やっほー、リュカ君。久しぶりだね。ちょっと大きくなった?」

「リーゼ、久しぶり。相変わらずだね」

「そこは、綺麗になったね、くらい言ってもらわないと」


イシシシ、と笑うリーゼ。

「で、今日はどうしたの?」

「リーゼは闘気力の扱いは得意だよね?」

「これでも戦鬼だからね」

「ポーションに闘気力を込める手伝いをして欲しいんだ」

「それって、なんだい?」

「う~ん、説明するより見てもらう方が早いかな」


     ◇


「リュカ様」

ギルドを出ようとしたら、受付嬢に声をかけられた。

「はい」

「個人護衛依頼の件です。先方が八万と言ってきました。いかがいたしましょうか?」

「受けておいて。顔合わせの日取り候補を聞いてもらえれば」

「承知しました」


その後、リーゼと共にクララさんのところに行く。

「やってもらうことは簡単だ。この瓶を持って、闘気力を込めてくれればいい。武器に闘気力を通すのと同じような感じだ」

リーゼは瓶を持つ。


「うん、できそう」

「週に一回くらい来てくれれば。拘束は一時間くらいだ。それで一回千ギルでどうだろう」

「いいね、受けた」


良かった。これで一つ、解決だ。


     ◇


次は個人護衛依頼の件だ。

なんか、帰省してのんびりとか考えてたのに、やけに忙しくない?


「ワシがハーナマル商会の商会長、デヴィーゼルだ」

なんか、こちらを見下しているような雰囲気がする。

ちょっと脅してやろう。


「リュカ・フォン・ヴァルクレインだ」

ここはヴァルクレイン領だからな。

これだけでビビらせることができる。


デヴィーゼルは驚き、横にいるギルド員を見ると、ギルド員が頷く。

俺が本当にヴァルクレイン家の者だと理解したのだろう。しどろもどろに言葉をつなげる。


「こ、この度は依頼を受けていただき、ありがとうございます」

「良い良い。だがな、そちも今後、貴族と付き合うならあまり値切ったりするのは考え物だぞ。足元を見られるからな。貴族は金を使ってなんぼ、というのもある」

「は、はい。そうですな」

「で、依頼はそちらの娘を王都に届ければ良いのであったな」

「はい。こちらが不肖の娘、ビーデルでございます。こちらを王都のスクリーバ子爵家まで届けていただければ」

「スクリーバ子爵は法服貴族であったな。よかろう。ちゃんと届けてやる」


ちょっと偉そうにしてみた。

ビーデルは見染められるほど美人ってわけでもない。ただ、気が強そうな雰囲気は出している。


「出発は明後日であったな。では、明後日の朝、ギルド前で」

王都にこの子を届けてから、士官学校に戻って修了式だな。で、また王都にとんぼ返り。


この世界、移動だけでも結構疲れるから大変だ。


     ◇


翌日、ヴァイス商会に行き、肉を魔法の収納に詰める。

俺はどれがどの肉だかわからないが、オットーさんが、

「これは良い肉ですよ~」

などと言っているので、お高い肉であろうことは想像がつく。


「では、明日出発します」

「ええ、気を付けて」


その後、家に戻り、一日中ソフィアと遊んだ。


     ◇


出発の日、ギルドに行くと既にデヴィーゼルさんとビーデルさんが待っていた。

「よろしく頼む」

「では、行きましょうか」

乗合馬車の停留所へ行き、北西向きの馬車に乗る。


エーベルシュタインで北東向きの馬車に乗り換える予定だ。

出発して三十分もしないうちに、ビーデルさんがもじもじし始めた。

おしっこか?


「ビーデルさん、大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫です」

大丈夫ではなさそうだが、我慢できるなら我慢してもらおう。

さらに三十分が経過し、もう我慢ができなくなったのか、小声で、


「リュカ様、あの、痛いんです」

「どこがお痛いんですか?」

「あの、下が」

下?

足の方を見るが、特に問題はなさそうだ。


「いえ、そちらではなく、座席が硬くて」

馬車の席にはクッションなどない。

ただの板張りだ。

「お尻ですか?」

「はい」

顔を赤くしながら答える。


いや、こんなことで恥ずかしがられても。箱入り娘か?

とりあえず、収納に入っていた毛布を畳んで渡す。


「これをお尻の下に敷けば、少し楽になるかと思います」

この馬車はエーベルシュタインの領都は経由せず、グランベルクへ向かうから、今日中にグランベルク入りすることができる。


だが、まだまだ先だぞ。


     ◇


三時間後にようやく休憩となった。

皆、馬車を降りて体を伸ばす。


「あの」

「はい、どうしました?」

「その、お手洗いはどちらでしょう?」

ここは草原の真ん中だ。

トイレなんてものはない。

皆、そこら辺で適当に用を足している。女性もだ。

ちょっと先にちょうどしゃがんで用を足している女性がいるので、そちらを指さし、


「皆、あんな感じでしてます」

「え、え?」

しばらく躊躇しているが、待っていても尿意が消えることはない。

俺は既に立ちションは済ませている。


ビーデルさんは意を決して茂みに向かったが、しばし立ち止まると戻ってきた。

「来て」

俺の服をつまんで再び茂みに向かう。


なんなんだ?


すると、俺に毛布を渡すと、

「これで隠してて」

と言い、その場にしゃがんだ。


男どもの視線に耐えられなかったか。

こういう場合、そっちを見ないのが暗黙の了解だが、男たちは見ないふりをして見る。

ビーデルさんはそれを敏感に感じ取ったのだろう。


まぁ、このポジションだと音は丸聞こえだけどね。

ひとしきり終わると立ち上がり、俺を無視して馬車に戻る。


まぁ、王都に着くまでに慣れるだろう。


     ◇


しばし進んだのち、小さな村で昼食。

スープとパン。ただ、スープには肉が入っている。

これは豪華な部類だ。


「あまり美味しくないわね。肉は硬いし」

ハーナマル商会はそれほど羽振りが良さそうでもなかったが、ビーデルさんは甘やかされて育ったっぽいな。


「田舎の村ですし、こんなものですよ」

昼食後、再び馬車に乗って出発。

さらに一度の休憩を挟み、夜を過ごす村に着く。


さて、ビーデルさんは宿に泊まるわけだが、俺はどうすれば良いんだろう?

部屋の前で警護か?

個人護衛、初めてだから勝手がわからん。


外で野宿っていうのは、緊急事態に駆けつけられないから違う気がするが、隣の部屋を取るというのは金銭的に割に合わない。

なんせ、相場よりもずいぶん安く請け負ったからな。


「私は床で寝ますので、ビーデル様はベッドをお使いください」

「え? 一緒の部屋に泊まるのですか?」

「個人護衛は通常、護衛対象と同じ部屋に泊まります。何かあったとき、すぐに対応するためです」

本当のことは知らないが、ビーデルさんも実際どうなのかは知らないだろう。

言い切ってしまえ。


「それもそうね」

「ねぇ、あなたはヴァルクレイン家の者なのでしょう? 貴族の生活ってどんな感じなのかしら?」

「貴族にもよるかと思います。貧乏男爵なら、大きな商家よりも貧しい生活をしていたりもしますし、公爵家なら王家と遜色ない生活とか。スクリーバ家は子爵ですが、子爵家はずいぶんと資金力に差があるのです。商売上手なら、良い生活ができるのではないでしょうか?」

「そうよね。楽しみだわ」


法服貴族は領地を持たないからな。商売力次第だ。


頑張ってくれ。


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