第64.5話 ある教官の独白
リュカ軍曹、あれは面白い人材だ。
あの年齢で軍曹というのは、かなり異例である。
士官学校に入学する軍人の軍歴は、全てこちらに届いている。
一部の大貴族などを除き、士官学校に入学してくるヤツはたいてい軍歴がある。部隊から推薦されるわけだ。
軍歴を見れば、だいたいの人物像はわかる。
◇
例の悪評高い貴族特別徴兵で徴兵されている。
リュカ軍曹は衛生隊だ。
治療記録も添付されているが、冗談かと思うほどの成績だ。
このような逸材を201大隊が手放すとも思えん。
いつか呼び戻すつもりだろう。
面白いのは、切断された腕の接合を過去に二回試みていることだ。
もちろん、二回とも失敗している。
四肢切断は、負傷退役の中で最大の要因となっている。
これが「切られた腕がちゃんとある」という条件付きであったとしても、解決できたら革命的だ。
◇
本人の戦闘力は高くない。中の下くらいだろう。
戦士や武闘家などの戦闘職持ちが半分以上を占める中、無職としてはよくやっている方だろう。
むしろ、低レベルの戦士や武闘家に勝ち越しているのが異常だ。
あれは本当に無職だろうか?
確かに剣筋は良いし、体の使い方も悪くない。きちんと訓練されているのがわかる。
だが、それだけだ。
闘気力の流れから見て、戦闘職ではないことは確実だ。
かといって、僧侶や魔法使いでは戦闘職に殴り合いでは勝てない。
そもそも、戦闘に魔法を使ったのを見たことがないからな。
治療士であることも合わせて考えると、あり得るとしても僧侶くらいだろう。
僧侶が戦士と剣で戦って勝つ?
まぁ、ないな。
それをやってのけるリュカ軍曹には、何か秘密がありそうだ。
◇
士官学校では個人の強さには重きを置かない。
尉官以上は、軍という組織をどのように回すかが問われるからだ。
戦術・戦略関係は秀でている。
軍にある程度いれば、補給の大事さはわかってくる。
リュカ軍曹は治療士だから、治療による兵の損耗率軽減がどのような意味を持つのかもわかっているのだろう。
歴史の理解なども申し分ない。
彼は良い上官になるだろう。
もっとも、本人は軍に残るつもりは全くないようだがな。
いや、惜しい。
◇
ヴァルクレインは武闘派の貴族だ。
当然、軍人も多い。
ウチとは派閥が違うが、少し圧をかけてみるのも悪くないかもしれないな。
あからさまな引き抜きは遺恨を生むが、そこら辺はやりようだ。
実家に手紙でも出しておこうか。




