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第64話 一時帰省

「迷惑をかけたな」

「いえ、こちらこそご期待に沿えず申し訳ありませんでした」

アルメン軍曹は除隊となり、去っていった。とりあえず故郷に帰るそうだ。

「これでも戦士のレベル四十だ。何かできることはあるだろう」

意外とさっぱりとした顔をしていた。

何か吹っ切れたんだろう。


     ◇


俺も今日で実戦訓練期間が終わる。

この陣地とも、今度こそおさらばだと思うのだが、どうだろう?

夜になり、ベッドに横になってしばらくすると、アニータがベッドに忍び込んできた。

「リュカ君、今までいろいろありがとうね。リュカ君がいなかったら、たぶん私は前線に送られて死んでいた」

「こちらこそ、アニータにはずいぶん世話になった。ありがとうね」

洗濯とかもお願いしてたからな。


俺は鈍感系主人公というわけではない。

このアニータの行動が何を意味しているか、わかっているつもりだ。

アニータと口づけを交わす。


問題は巫女の職だ。

ステータスを開き確認するが、なんの変化もない。

司祭(巫女・祈祷師)と表示されている。

“巫女”の表示は健在だ。

けれど、ここから先に進んでいいのかどうかは、別の話である。

俺はしばらくアニータを抱きしめたあと、そっと体を離した。

「ここから先はいけないよ。アニータも貴族でしょ」

アニータは何も言わなかった。


ただ、少しだけ泣きそうな顔をして、それから自分のベッドに戻っていった。

その夜、俺はなかなか眠れなかった。

“巫女”の職は無事だった。


一人でごそごそと出発の用意をする。

アニータは顔も合わせてくれない。

「じゃあ、行くね」

「はい、リュカ軍曹」

うん。

完全に距離がある。

これはつらい。


     ◇


新第8陣地を出て、ノーフォーク基地経由でクラクフへ。

実戦訓練終了の手続きを取る。

士官学校生が集まり、いろいろと話しているが、皆、さまざまな経験をしてきたようだ。

実際に魔物と戦ったり、陣地設営をしたり。


あれ?


ずっと治療しかしてこなかった俺は、かなりレアケース?

「チェシャはどんな感じだった?」

「結構厳しかった。野営、行軍、戦闘、いろいろやらされた。ジョバンニ君が一緒の班で良かった」


え?


他の人は士官学校の班で参加してたの?

俺だけボッチ?

その後、皆でスールドの士官学校に移動する。

実戦訓練で同じ班だった人たちは、かなり打ち解けたようだ。

寂しいでござる。


     ◇


そして、士官学校の日々が戻る。

この時期は主に試験だ。週に一回試験がある。それ以外は皆、試験対策で自主勉強だ。逆に言えば、週に一回の試験さえ受ければ意外と暇である。


そんな折、父ギルベルトから手紙が来た。時間があるときに顔を出せということだ。

ここからヴァルクレインまで行って帰って一週間。無理ではないな。キツいけど。


というわけで、倫理学の試験が終わった日、俺はヴァルクレインに向けて出発した。

かなり急ぎの旅程となる。

馬車では間に合わないので、馬を借りる。丸一日馬に乗ると尻が痛いんだよな。

スールドからヴァルクレインまで二日半で到着した。


     ◇


「ただいま戻りました」

「今は士官学校に通っていると聞く。元気でやっているか?」

「はい、特に問題もなく過ごしています」

迷い猫騒ぎとか、トラブルもあったけどね。


「リュカは軍曹だって? ずいぶん出世したね」

レオンは半年で戻ってきて、次は上等兵だ。

「もうすぐ兵役二年だからね。レオンも次に従軍したら、きっと曹長さ」


「さて、リュカはすぐに戻らないといけないんだったな。なら、本題に入ろう。来月、エーデルヴァルト王立学院の入学試験がある。これを受けてこい。願書はもう出してある」


おや、いきなり東大ですかい?


「第三王子が入学されるらしい。お前は一年遅い入学だからな、ちょうど同じ学年だ。親交を深めてくるがよい」


いや、さすがに向こうはこっちのこと、覚えてないでしょ。

「わかりました。最善を尽くします」


西側は第三王子派が増えていると聞く。

たぶん、ヴァルクレインも第三王子派になったのだろう。

母の死の遠因となった第一王子と第三王子は対立しているって聞くしな。

「合格したら、士官学校から直接王都に向かうが良い。士官学校の卒業式からエーデルヴァルト王立学院の入学まで、それほど日がないはずだ。合格したら学費はこちらで払っておく。あと、これを支度金とするといい」


金貨がじゃらじゃら入った袋を渡された。

いくら入ってるんだ?


     ◇


父との面談を終え、懐かしの子供部屋で休んでいると、アルドリック兄が入ってきた。


「やぁ、士官学校に通ってるそうだな。そして、士官学校卒業後はエーデルヴァルト王立学院だそうじゃないか」

「もし受かったらね」

「リュカなら受かるさ。そうそう、エーデルヴァルト学院からアウレリア学院に短期留学してきた子に聞いた話なんだけどさ、卒業式で行われる天啓の儀に忍び込む方法があるらしいよ」


え?

それ、むっちゃ興味ある。


「天啓の儀の会場に一本柱があって、中に入れるらしい。で、その柱が魔法陣の範囲内なんだそうだ。向かって右側、卒業生に一番近いあたり」


どうやら、新一年生は入学前、卒業生を送る会に招待されるらしく、天啓の儀の会場にも入れるらしい。

そこでうまく柱に隠れることができれば、職が得られるとか。


「リュカはこういうの、興味ありそうだと思って」

アルドリック兄、俺の職業のこと、どこまで知ってるんだろう。


     ◇


翌朝、出発の用意をしているとロッテが弁当を持ってやってきた。

「これ、道中にどうぞって、マルタさんから」

「ありがとう。ロッテは元気にしてる?」

「もう、むっちゃ元気ですよ。これでもメイドの中で最古参ですからね。ヴァルクレイン家のことは私に聞けって感じです」


いろいろあったからな。

ギルベルトもレオンも、ロッテにはあまり文句は言わない。


「ロッテが家を守ってくれるなら安心だ。これからも頼むよ」

「もちろんです!」

ロッテは鼻息を荒くして応えた。


ロッテのこのキャラはヴァルクレインでは貴重だ。

是非このままでいて欲しい。


     ◇


馬に乗り、急ぎ戻る。

どうしようもない理由で試験が受けられなかった場合は再試験もあるが、今回の帰省が“どうしようもない”判定されるかわからない。

馬の延滞金もあるし、急ぐのがベストである。


試験前日の昼頃、スールドにたどり着いた。


今回の試験は数学だ。

ノー勉でも問題ないだろう。



同じ作品をTALESにも投稿しています。

小説家になろうでは表現できない描写はTALESの方で書かせていただいてます。

https://tales.note.com/nekomot_mao/w4gz6seh3e04x/episodes/evdh7ed0c03lk


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― 新着の感想 ―
おや?実践訓練から、ちゃんと士官学校に戻れただけじゃなく、卒業後は、別の学園へのルートが親から開かれたか(もう、軍事編みたいな兵役時代、元のテイストからすると、望まれて無かった展開からは離脱出来るかな…
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