第6.5話 閑話:馬車にて
「で、どうだ?」
馬車の中で、ルドルフ様がそう訊いてきた。
こういう場面は、先輩であるエミリア先輩が答えるべきだろう。
私はそう判断して、とりあえず黙っていた。
すると案の定、沈黙に耐えられなくなったエミリア先輩が口を開く。
ちょろい。
「レオンハルト様は、たしかに才をお持ちです。戦鬼までは確実かと。ただ、魔法力は乏しめですので、中級職止まりかと思われます。勉学はあまりお得意ではありませんから、領の運営には補佐役が必要になるかと。アルドリック様は、闘気力は中庸ですが、聡明でいらっしゃいます」
はい、満点回答。
さすがはエミリア先輩だ。
褒めるところは褒める。足りないところも言う。言いすぎない。余計なことも言わない。こういうのができるから先輩なのである。
「クラリッサはどう思う?」
げ。
こっちに球が飛んできた。
仕方ない。何か別の方向から答えるしかない。
「マリベル様は、フリーデガルト様の才をよく継いでおられます。闘気力ではレオンハルト様に及ばないかもしれませんが、魔法力もお持ちです。カスパル様は、まだ才能の開花がはっきりとは見えません。今後の育ち方次第かと」
無難。
たぶん無難。
少なくとも、「あのエロガキ、前にスカートをめくって尻を揉んできやがった」などとは言っていない。えらい。あのとき蹴りを出さなかった自分を、今でも褒めてやりたい。
「マリベルは、まあよい。アルドリックをレオンハルトの補佐につければ、ヴァルクレインはひとまず安泰か」
ルドルフ様はそう言って、短く鼻を鳴らした。
相槌を打ちながら、私は別の子のことを考えていた。
リュカ様。
あの子は、変だ。
まず、必要なときにしか泣かない。
赤ん坊なんて、必要不要に関わらず泣くものだ。
眠い、腹が減った、暑い、寒い、なんとなく気分が悪い。理由があることもないことも含めて、泣く。
なのに、あの子は妙に泣き分ける。
いや、泣き分けるというより、必要なときにしか本気で泣かない。
それに、生活魔法を見せると、こちらを見ていないようで見ている。
水を出すたび、あの子の目はどこか違うところを追っていた。
水差しでも、手元でもなく、もっと別の何かを。
しかも、一度だけだが――本当に一度だけ、水魔法を再現したように見えたことがある。
もちろん、確信はない。
ただ、あのとき確かに、それまでなかったはずの魔力の動きがあった。
ほんのわずかに。
小さく。
けれど、たしかに。
「リュカはどうだ?」
うわ。
よりによって、その名前が出た。
頑張れ、エミリア先輩。
私は心の中で先輩を応援した。
エミリア先輩は一瞬だけ、本当に一瞬だけ、考える顔をした。
あ、これ。
先輩も違和感を覚えてるな。
「手のかからない子です。ただ、まだ二歳ですので」
うまい。
そう。普通の二歳児なんて、意味のあることはしない。
したように見えても、だいたい大人が勝手に意味を見出しているだけだ。
だから、そういうことにしておくのが一番いい。
「そうだな」
ルドルフ様はそれ以上は追及しなかった。
馬車は街道を進んでいく。
車輪の音が規則正しく響く。
私はそっと息を吐いた。
これ以上、変な質問が来ないよう――
祈っておこう。




