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第61話 ミケの変態

士官学校に戻ると、全員が講堂に集められた。

もう一方の班は無事、ゴブリン集落を殲滅できたらしい。

指導教官から褒められていた。


一方の俺たち。

倒せたゴブリンは三体。重傷者多数。殲滅からは程遠い成果だ。

「マルミンは放校とする」

お、これは厳しい。

どうしたんだ?


「何故! 教官が撤退を決めなければ、まだゴブリン殲滅の可能性はありました」

「そこではない。負傷者を放置し、現場を去ったことだ」

「あれは、リュカが撤退の命令に従わなかったからです。あの場では僕が上官です。命令違反で放校されるのはリュカでは?」

「負傷兵の治療と復帰に関する判断は、治療士に全権がある。彼が撤退は無理だと言ったなら、上官はそのことを考慮した作戦を立案しなければならない」

「あの場ですぐに治療していたら動けたはずです」

「兵は機械ではない。前線に長くいたリュカ軍曹はそれがわかっているのだろう。いずれにせよ、判断が覆ることはない」

マルミンは下を向くと、とぼとぼと講堂を去っていった。


なんか、マルミン君はいつもトボトボしている印象だな。


     ◇


ある日、チェシャの兄とやらが訪ねてきた。

チェシャと共に応接室で面会する。

「グレーゼル・フォン・グランベルクだ。妹が世話になっていると聞く」

「リュカ・フォン・ヴァルクレインです。チェシャさんにはいつも助けられています」

「君の前線での活躍は聞いている。チェシャも良い交友を持ったものだ」


早く本題に入ってよ。

貴族の長い挨拶は嫌いだし苦手なんだ。


「さて、軍の方から話はあったかもしれないが、君が保護している獣人の件で、チョモゼルク子爵家に調査が入った。たぶん、チョモゼルク家は取り潰しとなるだろう」

一番の当事者であるミケは、俺の膝の上で丸くなっている。

「チョモゼルク子爵家が黒幕だったということでしょうか?」

「いや、どうだろう。さらに上が関与している可能性はある。ただ、チョモゼルク子爵家は今後、徹底的に調査されると思うし、尋問もされるだろう。だが、何も出ることはないだろう」


「この子はどうなるんですか?」

ミケを掲げながら質問する。

「うん、実は僕、そのために来たんだよ。その獣人は部族でもかなり偉いところの子らしくてね。幼体が誘拐されたなんて、一族の恥ということで隠しているらしい」

ミケが起きたので、懐から干し肉を出す。

これは味付けなしで鶏肉を乾燥させたものだ。あまり日持ちはしないが、ミケのおやつとして重宝している。

「先方の代理人がこの街に来ることになっている。君はその子を渡すだけ。で、僕が見届人ってわけ。こういうのはさ、ちゃんと見届人がいないと揉めることがあるんだ。あ、獣人側も見届人が来るよ」


喉が渇いているっぽいので器に水を入れる。

水魔法くらい見られてもいいだろう。生活魔法だし。

「というわけで、一週間後の正午にこの場所に来てくれ」

紙を渡される。

「ここの校長にも話は通してある。丸一日休めるよ」

ミケは部屋の中を走り回っている。ただの猫にしか見えないな。

ホントに獣人なんだろうか?

「じゃあ、よろしくね」


「チェシャはお兄さんとお話ししなくて良いの?」

「別に良い」


グレーゼル・フォン・グランベルクは、言いたいことだけ言って去っていった。


     ◇


あと一週間でミケとお別れである。

講義がない時間は、できるだけミケと遊んであげよう。

普通の猫同様、猫じゃらしで喜んでくれるので簡単だ。

前世で売っていた猫のおもちゃを思い出しながら、何種類か作って遊んでやる。


そういえば、前世で酔った勢いでチャオち〇~るを食べてみたことがある。

友人とバカ騒ぎしていたときだが、俺はとりささみを食べた。意外と美味しかった。

全種類食べたヤツが、マグロが一番とか言っていたが、とりあえずとりささみ味でも再現してみよう。


鶏肉を茹でた後、胸肉を細かく刻む。別の鍋で鳥の骨を茹で、じっくり出汁を取る。

刻んだ鶏肉に少しずつ鶏ガラ出汁を加えて練る。

人間用ならここで塩を加えたいところだが、猫用だしな。少しだけ加えるか。

粘りを出すため、別で煮ていた鶏足から抽出したコラーゲンを加え、最後に網で濾したら完成だ。


さて、ミケは食べてくれるかな?


驚くほどの食いつきだった。

これはヤバい。

なんか、作った本人でさえ違法薬物でも入ってるのではないかと思うほどだ。

一日スプーン一匙だけだぞ。


     ◇


ありのままに、起きたことを話すぜ。

朝起きたら、目の前で人型の猫が寝ていた。

何を言ってるかわからない?俺もだ。

なんか混乱してるぞ。とりあえず、落ち着こう。


目の前にあるのは大きな猫の顔。人の頭くらいある。

この毛並み、ミケだな。

体は人間だ。胸もくびれもある。お、尻尾もある。

問題は、裸体だということだ。


無礼な観察をしていると、ミケが目を開けた。

「おはよう」

そう言うと、俺の顔を舐めてくる。

そして、舌がザラザラして痛い。

「ミケだよな」

「んにゃ」

俺の上に座り、猫式の洗顔をしている。

自分の唾液を自分の顔に塗るって、考えると嫌な感じがするが、どうなんだろう?


「お腹空いた」

人語をしゃべった。

ミケ用の皿に肉を置くが、一口でなくなる。

体の大きさが違うからな。食堂に行くか?その前に服をなんとかしないとな。

風魔法の通信でチェシャを呼び出す。

「ふくを・もって・きて」

三文字は楽勝。

今は四文字を練習中である。


     ◇


しばらく待つと、チェシャが服を持ってきてくれた。

「胸元がキツイにゃ」

チェシャが俺を睨む。

いや、言ったの俺じゃないですから。

「下着も欲しいにゃ」

チェシャが恥ずかしそうに持ってきた下着をミケに渡す。


匂いを嗅いでからそれを履くミケ。

何故匂いをかぐ?そして、何故かまたチェシャに睨まれた。

「とりあえずジュリアナ先生に見せに行きましょう」


     ◇


「ほう、変態したか。第一段階だな。あと一回変態するぞ」

なに、そのボスキャラっぽい設定。

“私はあと一回、変身を残しています”ってか。

格好良すぎるだろう。


「変態後は多量に食べるそうだ。変態にエネルギーを使うんだろうな。食堂に行くといい」

ミケは食堂でひたすら食べていた。


俺たちの三倍は軽く食べている。

細身なのに、どこに入るんだろう。

「俺たち、講義があるから。食べ終わったら俺の部屋に行ってても良いし、兵舎をうろついてても良いけど、外には出ないでね」

「わかったにゃ」

語尾に“にゃ”を付けるのはサービスだろうか?


     ◇


一日の講義を終えて部屋に戻ると、ミケはベッドの上で寝ていた。

荷物を下ろすと、その音で目が覚めたようで、辺りを見回している。

「おやつ!」

食っちゃ寝生活、羨ましいぞ。


食べ終わると遊びたいというので、訓練場へ。

ボールとかあれば良いんだけどな。

水球を操作して、じゃれつくミケを躱していると、あっという間に時間が過ぎた。

ミケは人間サイズになって喋れるようになっても、猫だな。

同じ部屋で寝てもかまわないだろう。


     ◇


翌日、ミケ、チェシャと共に買い物に行く。


猫形態のときなら服は不要だが、現在の形態では服が必要だ。

いつまでもチェシャの服を借りっぱなしというわけにもいくまい。

胸元がきついしらしいし。


ミケの引き渡しは明日だ。一着あれば良い。

向こうはお偉いさんだし、見届人も公爵家だ。ちゃんとした服が必要だ。

俺は軍服でいいだろう。


「支払いはグランベルク家が負担する」


チェシャさんの言葉がありがたい。

入隊前に魔法の収納を買ったからお金がないんだよね。

そういえば、兵役中は微々たる額だけど収入が発生しているはず。

いつ受け取れるんだろう?


「退役してから手続きしないともらえない。貴族は辞退する人も多いから。士官学校在学中は兵役と同じ扱いだから、在学期間中の分も加算される」

おぉ、今も給料は発生しているのか。

ありがたいことである。


さて、チェシャはドレスを選んでいる。

猫顔に合うドレスなんて、全く想像もつかないのでチェシャに任せる。

ミケ、魚柄のドレスはやめておきなさい。


君、魚は好きじゃないでしょうに。

そもそも、魚柄のドレスなんて、なんで売ってるんだ?



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