第58話 怪しい護衛依頼
「冒険者ギルド~?!」
士官学校では、ときどき変な課題が出される。
「そうだ。二週間、冒険者ギルドで適当な依頼を受けてこい」
なんでだ?
完全に別組織のはずだが。
「軍事行動中、たまに冒険者連中ともめることがある。あいつらの考え方を知っておくのは悪くない」
そんな理由?
うわぁ、あいつら、軍服のまま冒険者ギルドに突っ込んでいった。
俺は普通の服に着替え、適当な依頼をピックして受付に向かう。
なんか、軍人さんが受付で揉めてるな。
「これと、あと、何か塩漬け依頼があれば受けますよ」
「リュカ様、ありがとうございます。では、デザートシープの角の採取依頼はどうでしょう?」
スールドは都会なので討伐依頼はない。採取依頼ばっかりだ。
お、ギルマスが出てきたな。
「近場がいいな。こっちの依頼と一緒にできそうなヤツ」
「なら、ジャイアントビーの蜜の採取依頼でどうでしょう。少し奥ですが、同じ森で採れます」
「じゃあ、それを受けるよ。こっちの薬草もどこで採れるか教えてくれるかな?」
乱闘が始まった。
だが、ギルマスの無双中だ。
兵士と違い、冒険者ギルド員は個人の戦闘力を上げることに重きを置く。あのギルマスも相当強いんだろう。
「ありがとうね」
情報をもらった俺はギルドを出る。
あいつら、課題をこなせるんだろうか?
◇
二週間の自由があるので、クララに手紙を出す。
実は、持ってきた猛毒は全て馴化完了してしまっている。
「リュカ君、何してるの?」
うぉ、気配察知に引っかからなかった。
ホント、この人何者?
「やぁ、チェシャ。ちょっと手紙を出していたんだ」
「今回の課題、ちょっと手伝ってくれないかな?」
「どういうこと?」
なんでも、一部の兵が初日にやらかしたおかげで、士官学校生の審査が厳しくなったらしい。初日に暴れた兵は出入り禁止とか。
「どうしたら良いか、わからない。他にも困ってるのがいる」
暴れた兵は自業自得だが、チェシャなど他の人はただの巻き込まれだ。
別のギルド支部に行けばいいだけだと思うんだが、俺が行く必要ってあるんだろうか?
「やっぱり経験者が一緒の方が安心」
助けるためだけに隣の領に行くのもな。
「わかった。なんとかできないか考えてみる。同じように困ってる人を集めておいて。初日に暴れた人以外で」
◇
受付に行き、商隊護衛任務がないか聞いてみる。
「ちょっと怪しいのでもかまわない」
商隊護衛任務は信用第一で、知り合いの冒険者やその紹介で決めることが鉄則だ。
だが、ときにはその鉄則から外れるものもある。
リスクが大きいことを隠していたり、違法な積み荷だったりなどだ。
「先ほど入った依頼です。かなり怪しいですが、どうですか?」
クラクフへの輸送。東側にある街だ。
積み荷は酒。そこそこ高額だが、護衛は昼までに依頼を受けた人全員。人が集まったら即出発。
確かに、なんか怪しい。
Dランクの冒険者はこの依頼、避けるんじゃないかな。
「これ、受けます」
◇
荷主と会い、そのまま受託。
その日の昼、出発となる。
なんと、応募したのは俺一人。
「チェシャたちは、この馬車を見つからないようにつけてきて」
初日の騒ぎで困っている士官学校生十名に言う。
「チェシャ、風魔法の通信、使えるでしょ」
こくりとうなずく。
「チェシャは隠密、使わないでね。場所がわからなくなるから」
俺は馬車に向かい、再び荷主に挨拶する。
「護衛さんは馬車に乗ってくんな」
馬車は街道を走りだす。
昼に出発だから、数時間後には停車するだろうと思ったが、日が暮れても馬車は進む。
馬は暗い中を走るのが苦手だ。速度はゆっくりになる。
これなら後ろをついてきている士官学校生も大丈夫だろう。
◇
馬車は街道をゆっくり進んでいたが、途中から道が荒くなる。
あれ?
この街道、こんなに凸凹だったっけ?
馬車の後方を気配察知で探る。チェシャはこれだな。
「この、みち、なに」
風魔法の通信で話しかける。
「この道は旧街道よ。森林地帯を迂回しているの」
なんとスムーズな風魔法通信。
いや、俺だって三文字まではいけるんだ。
このみ、ちなに、とかになると混乱するから二文字で区切ってるだけで。
しばらく馬車はでこぼこ道を進んでいたが、とうとう止まった。
さて、何が起きることやら。
馬車を出ると、真ん前を冒険者っぽい六人組が道を塞いでいる。
「積み荷をよこしな」
「なんでですか?」
一人が剣に手をかけ、前に出る。
「その馬車に積んであるのは盗品なんだ。俺たちの依頼主が盗まれたと言っている」
最初の男が、剣を今にも抜きそうな男を制止して言う。
「私はこの馬車の護衛を請け負っている冒険者です。その話が本当であるなら、街で憲兵に相談すれば良かっただけですよね。なぜ、こんなところで?」
「違う。これは盗品なんかじゃない。ちゃんと領収書もある」
馬車の荷主が言う。
「面倒だ、やっちまおう」
俺たちを止めた冒険者が全員、剣を抜いた。
「そうですね、面倒です」
周囲から十人の兵が出てくる。
逃げ出そうとした一人の鳩尾に、ジョバンニ君が剣の柄をぶち込む。
同時に、俺の方に向かってきた一人のこめかみに剣を叩き込む。鞘に入れたままだ。
「さぁ、説明してもらいましょうか?」
誰も口を開かない。
「捕縛して」
ロープで拘束する方法は、つい先月習ったばかりだ。
下手にやると抜け出されちゃうんだよね。
◇
「この樽、なんか変」
積み荷を調べていたチェシャが言う。
叩いてみると、確かに他とはちょっと違う音がするし、気配察知にもわずかに反応がある。
蓋を開けてみるが、入っているのはワインだ。
「そいつは売り物なんだ。気を付けて扱ってくれ」
なんか態度が怪しい。
手を突っ込むと、ずいぶん浅いところに底がある。
二重底か。
規制された薬物とかかな。
樽を傾け、上部のワインを捨てる。
上から三分の一のところに板がはめ込まれている。
「ま、待ってくれ」
剣の柄で板を叩いて外す。
ん?
なんだこれ?
樽の底には猫がいた。
ネコ?
首元をつかみ、持ち上げる。寝ているようだ。起きないところを見ると、薬で眠らされているのかな。
「それは俺のペットなんだ。離してやってくれ」
そんなわけ、あるか。
◇
俺とチェシャ、ジョバンニ君で馬車と共にクラクフに向かう。残りは盗賊に見張りだ。
「この荷の送り先はどこ?」
「知らない」
いや、知らないってことないだろう。
朝早く、クラクフに到着した。
この事件、面倒くさそうだ。
当初の目的を果たしてしまおう。
まずはギルドに寄り、完了報告。さらに、チェシャとジョバンニ君のギルド登録を済ます。
ミッション達成だ。
が、この荷主、どうしてくれよう。
猫を抱きながら考える。
なんか、猫に懐かれた。
この街には駐屯地はない。衛兵に突き出しても駄目な気がする。
ワインを運んでいただけです、で終わってしまう。
証拠は俺の腕の中で寝ているしな。
よし、荷主の件は後回しにしよう。
◇
衛兵のところに行き、荷主に盗賊に襲われたことを報告させる。
これは事実だしな。
荷主はワインを運んでいたところ、盗賊に襲われた。たまたまこの街に向けて移動中だった士官学校生に助けられ、盗賊を捕縛した。
ジョバンニ君を案内に付け、衛兵に現場へと向かってもらう。
「ここまで手を貸したんだ。そろそろ解放しちゃくれないかな?」
「駄目に決まってるだろう。まだ何も解決してないからな。で、この猫を誰に渡すのか思い出したか?」
「いや、知らない」
「この猫の名前は?」
「知らない」
埒が明かないな。
元々、俺たちがこの事件を解決する必要はない。
誰かに放り投げたいところだが、投げる先が見つからない。衛兵に猫の密輸事件と言っても笑われるだけだ。
◇
「軍務中に貴族格の話をするのが避けられていることは知ってるけど、そのうえで聞きたいんだ。チェシャってさ、貴族家でしょ。しかも、そこそこ上の」
「グランブルク公爵家。継承権は持ってるけど、かなり下」
「それを使って解決しちゃうっての、駄目?」
「リュカ君も貴族でしょ」
「俺は子爵家。格が違う」
「この際だから、しょうがないわね」
よし。
この街の長官に任せてしまおう。




