第57話 士官学校入学
士官学校入学試験は、それほど難しくなかった。
受験者は百名ほどだろうか。年齢がいっている人が多い。年嵩の人たちは曹長や軍曹クラスだろう。
翌日、合格発表を見に行くと、ちゃんと合格していた。
予想外だったのは成績トップだったことだ。合格者は二十名もいない。
「諸君は明日から合流だ。士官学校は制服があるが、軍籍がある者は軍服でよいぞ」
◇
入学してからは、ひたすら座学だった。
指揮や戦術に関することはもちろん、帝国がよく取る戦術など、仮想敵国に関する教育、そして一般教養。
全く体を動かさないかというと、そうでもない。
剣術などについてもちゃんと習うし、模擬戦などもやる。ただ、そこまで重視されないだけだ。
尉官以上は指揮をする者。戦うのは一般兵だ。個の力もあまり重視されない。
試験はちょくちょくある。そして、ちょくちょく脱落していく者が出る。
また、軍籍がある者は、部隊から呼び戻されることも多い。ただ、士官学校は単位制なため、部隊からの呼び出しに応じて学校を離れた者は、足りない単位を補講で取るなど、救済措置があるらしい。
今は軍も忙しいからな。これは仕方がない。
◇
「さて隊長、どう動く」
模擬戦は隊ごともある。隊長は交代制だ。
ここは森の中。相手を全滅させるか、相手陣地の旗を取ったら勝ちだ。
「散開する」
「各個撃破されるぜ」
「各個撃破に来たところを撃破する。それぞれ、指示する方向に真っ直ぐ進んで。右は一秒に一歩、左は二秒に一歩で。“逃げて”って言われたら、逆の方向に同じ速度で。右や左の指示はできるだけ直角に。では、行こうか」
俺は真ん中を真っ直ぐ、一秒に一歩の速度で進む。
相手方には風魔法の使い手がいる。間違いなく風探知と通信を使ってくるだろう。
気配察知はまだ届かないが、向こうはこっちの位置がわかっている。なら、一番突出している俺を狙ってくるだろう。
向こうの隊長は慎重なタイプだ。
自陣の旗に二人かな。
途中、俺は少しだけ右に進路を変える。
左に向かった二人には敵陣に向かうように指示を出し、速度を上げさせる。
気配察知はまだだ。
だけど、俺の方向転換に応じて、向こうも進路変更しているはずだ。
右に向かった二人に“左”の指示を出す。
俺は少し速度を落とし、気配を探る。
まだだ。
隠密持ちはいなそうだったんだが。
左に向かった二人に“逃げ”の指示を出し、右に向かった二人に“左”の指示を出す。
俺は左に向かう。
いた。
ほぼドンピシャだ。
木剣を構えると、敵方が二人、現れる。
「おや、リュカ君。前に突出しすぎじゃないかな?」
左に向かった二人に“右”の指示。
「そうかな?」
「散開は悪手よ」
そのとき、彼らの喉元に木剣が現れる。
「はい、二人とも退場ね」
唖然とする敵方二人。
こちらに二人来たということは、敵陣地に向かう左側の二人に脅威を感じ、そちらに一人差し向けたということだ。
「二人はこの方向に全速で。敵を殲滅したら、三人は敵陣に、一人は自陣に戻って」
俺は自陣に戻る。
敵がここから逆転するなら、旗を狙うのが一番可能性が高い。
自陣で待っていると、味方が一人、戻ってきた。
「ちゃんと仕留めてきたぜ」
「じゃあ、僕たちはここを守ろうか」
ほどなく、試合終了のラッパが鳴った。
◇
試合が終わると講評だ。
「風探知で敵が散開し、中央が突出しているとのことだったので、三人を中央に差し向けました」
「散開すれば、相手は各個撃破を狙い、まずは突出している中央を刈り取りにくると考えました」
「危険ではないのかね?」
指導官が疑問を口にする。
「接敵までには時間があるので、そのときまでに数的有利をつくれれば良いと考えました」
散開は指導官もあまりお気に召さなかったらしい。
罠っすよ。
「右側二人が私たちの陣地に向かってきたので、自陣から一人出し、中央の三人から一人を出して防衛に当たらせました。中央は一人なので、二人で足りると考えました」
敵方の大将が言う。
「左側の二人は無視かね?」
「左側の動きは遅く、しかも、迷走状態でした」
「迷走状態だったのに、中央で接敵する、と。これは、動きが読まれていたということだね」
「その通りだと思います」
「突出している私を狙いに来るのですから、動きは読みやすいです」
指導官が俺を見たので答える。
「さて、君たちの敗因はなんだね?」
「敵の誘いにまんまと乗ってしまったことです」
風探知に頼りすぎだよ。
◇
士官学校生、特に軍から来たヤツは夜中に抜け出すこともある。
行き先は言わずもがなだ。
士官学校の門限は夜の九時。だが、大人の時間はここから始まる。
気配察知に動きが感じられる。
これは、忍び出るつもりだな。狙いは北の壁か。ちょっと気配察知が届かないかもしれない。
部屋から出て、宿舎の北側に行く。
「あら、リュカ君。どうしたの?」
「脱走劇の見物です。チェシャさんも?」
「あれはフックさんね。さて、どうなるかしら」
チェシャさんも探知が得意だ。
人物までわかるなんて、かなりの精度だ。
「見回りは近くにいませんね。行けるかな?」
フックさんは北側の壁に取りついた。少し先には木が生えている。そこから登るつもりかな?
「「あ」」
俺とチェシャさんが同時に気付いた。
東側から見回りが近づいてくる。
フックさんは一瞬、宿舎に戻るかどうか迷った後、木に登り、葉の間に隠れた。
さて、どうなるか。
見回りが視界に入った。
フックさんは完全に木の葉に隠れ、全く見えない。
「賭ける?」
「フックさん失敗に」
「残念、あたしも同じ」
見回りは木の下を通り過ぎる。
成功したか、と思った瞬間、見回りが木に飛び乗る。
「おっ!」
この瞬間、東側の壁に走り寄る気配を感じる。
そいつは一気に壁に取りつくと、迷いなく壁の上に乗った。
「あれはカインズさんね」
「よくわかるね」
チェシャさん、俺より先に気が付いたっぽい。
軽くドシンという音がして、フックさんが木から落ちた。
同時に、カインズさんは夜の闇に消えていった。
◇
「手合わせしようぜ!」
彼はジョバンニ君、十二歳。同い年だ。
そうそう、俺はとうとう十二歳になった。
ステータスはこんな感じだ。
名前:リュカ・フォン・ヴァルクレイン
年齢:12
職業:司祭(巫女・祈祷師)
レベル:26
力:28
速さ:77
体力:42
魔法力:618
神聖力:961
闘気力:33
知性:225
ステータスポイント:0
士官学校に入ってから、全くレベルが上がらなくなった。
やっぱり治療とか頑張らないと駄目なのかな?
ジョバンニ君は同い年で、背丈も近い。
彼は戦士とのことだが、レベルはそれほど高くないようだ。力は彼の方が上だが、速さのステータスが高い分、こちらが有利だ。
「始め!」
チェシャが合図してくれる。彼女とはそこそこ仲が良い。
ジョバンニ君がすぐ動いた。
躊躇がない。さすが戦士職。踏み込みが速い。
木剣を斜め上から振り下ろしてくる。
速い。
だが、見える。
体が勝手に一歩ずれる。木剣が肩口をかすめて空を切った。風圧だけが頬を撫でる。
「おっと!?」
一瞬、体勢を崩す。その隙に打ち込もうとするが、
「スラッシュ!」
体を捻って躱す。
スラッシュは自動で最適な斬撃を出す。体勢が崩れていようが、おかまいなしだ。
ジョバンニ君の二撃目。
今度は横薙ぎ。さっきより慎重で、牽制も入っている。単純に振るだけじゃない。
ちゃんと考えてるな。
俺は木剣で受けた。
ごつん、と鈍い音。
……重い。
腕が少し痺れる。さすが戦士。力はある。
俺は力で押し返し、相手が力を入れ返したところで抜く。
たたらを踏むジョバンニ君。
その首筋に木剣を当てる。
「そこまで」
「くっそー」
悔しがるジョバンニ君。
「もう一回だ!」
「嫌、パスだね。チェシャは?」
「あたしも嫌~」
意外とチェシャも強そうなんだよね。




