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第56.5話 閑話:嵌められたエリザ

今回はかなり危なかった。


全滅を覚悟したほどだ。


元第6陣地まで迷った、というのはある。だが、それが怪しい。


ビーコン魔法によって方角は示されていた。ビーコン魔法は距離が離れると精度が落ちるが、日ごろから第6陣地と通信していた通信兵が発するビーコンだ。そこまでずれるのはおかしい。


だが、我々は大きく北にずれていた。


     ◇


元第6陣地に向かったのは、我々を含めて八つの小隊だ。


我々は他の部隊と合流するため、作戦開始後、速やかに南下した。だが、南下を始めてすぐに、元第6陣地の兵が逃亡した。


案内の兵が逃亡するというのも変だ。逃亡は重罪である。まず死罪になる。


だが、我々以外の小隊、元第6陣地の兵を中心とした部隊は陣地にたどり着き、その後、速やかに撤退した。


速やかすぎて、どれほどの精鋭かと思ったほどだ。


作戦開始前から撤退を始めていたという噂すらある。


そこからが大変だった。


そもそも、逃亡した兵が示した方向を信じるべきではなかった。元第6陣地を通り過ぎ、南下を続けるうちに魔物の大群が迫ってきた。


我々は他の隊との合流を諦め西進したが、既に遅かった。


魔物の大群に追われ、たどり着いたのは第8陣地だった。


     ◇


私たちは第8陣地に残っていたテントと逆茂木を使い、簡易の陣地を構築した。


誤算だったのは、第8陣地は水場が離れていたことだ。


今考えれば、水魔法使いと回復士の補充要求に対し、「魔法の収納に水とポーションを入れることによって当座をしのげ」という回答が来たのもおかしな話だった。


そう。

我々は巧妙に嵌められていた。

そして、糧食、水、ポーションが尽きた。


そこからは悲惨だった。


空腹を我慢しながら戦い、傷つく。怪我を押して戦い、さらに怪我をする。


救援を求めるも、現在は撤退作戦中。我らの隊以外にも、あちこちから救援を求める通信が飛び交っていた。


全体の戦況がある程度落ち着いたころ、ようやくノーフォーク基地と連絡がついた。


救援を求める我々に対して、基地から届いたのは絶望的な内容だった。


癒しの手が使える伍長の少年を、救援物資と共に送る。


兵役一年未満。成人すらしていない未熟な兵を一人だけ。


たどり着けるわけがない。


奇跡的にたどり着けたとして、何ができる。


こちらは全員が重傷といっても過言ではないほどの状態だ。癒しの手では骨折一つ治すことができない。


     ◇


しかし、リュカ伍長が奇跡的にたどり着いてからは、驚きの連続だった。


三十名近い重傷者を一時間ほどで全員治療し、水の生活魔法で全員の喉を潤した。


多量の糧食と武器は、ニースおじさまの配慮だろう。


後ほどニースおじさまに聞いたところ、やはり救援部隊を出すことにはストップがかかっていたようだ。


ニースおじさまは、後ほど偵察と称してなんとか救援を送るつもりだったらしいが、最終的にはリリサの案に乗ってみることにしたようだ。


兵を一人なら目立たないし、後ほどいくらでもごまかしがきく。


今回、謀略を練ったのは第二王子派か、もしくは第一王女か。


いずれにせよ、リュカは守らなければならない。


勲章など派手なことはせず、こっそり昇進させ、士官学校に送り込む。これなら目立たないし、ここや前哨基地に探りを入れたところで本人はいない。


リュカが救援に向かったことはバレるかもしれない。だが、彼一人が我が部隊を救ったなど、馬鹿らしすぎて報告できないだろう。


     ◇


そんなことを考えていると、ノックと共に秘書が入ってくる。


「例の調査、あまり芳しくありません」


「ふむ」


「ヴァルクレイン家が銃の魔道具を持っているという報告はありませんでした」


それくらいの情報では、わざわざ報告に来ないだろう。


「ただ、ルートヴィヒ王子が以前、ヴァルクレイン家を訪問しています。あのとき、ルートヴィヒ王子は西方で勢力を拡大するため、各家に魔道具を配っています。その総数は百三十六」


アホ王子、そんなに配ったのか。

いくら自分の味方が少ないからといって、やりすぎだ。


「ヴァルクレイン家には、半稼働状態の用途不明な魔道具が送られています」


さすがにあのアホ王子も銃の魔道具のことは知っている。用途不明の魔道具とは言わないだろう。


「ただ、目録外の魔道具も配っている形跡がありますし、リュカ殿は王子の配下との決闘で成果を出し、褒美を約束されています」


追加で何かもらったか。


「宝物庫から稼働状態の銃魔道具が持ち出された形跡は?」


「ありません。ただ、未稼働のものはわかりません。なにせ、数が多いので」


銃の魔道具は、実は出土数が多い。

動くものが少ないだけだ。


「破損状態のものを自力で修理、はさすがに無理か」


「ただ、過去にシュライバー博士がヴァルクレイン家に滞在しています。時系列的には王子の訪問前に領を出たことになっていますが、その後の痕跡はわかっていません。あるいは、ヴァルクレイン領に滞在していたのかもしれません」


古代文明研究の奇才、シュライバーか。


彼女なら、あるいは。


     ◇


「リュカ伍長に関しては?」


「調べた限りでは、平凡な子爵家の五男かと。母セシリアの才を引き継ぎ、神聖力は高いと思われますが、天啓の儀を受けたことはありません。間違いなく無職でしょう。ギルドランクはDですが、姉のマリベルと共に受けた依頼が多く、このギルドランクは姉の功績によるところが大きいと思われます。実際、マリベルが嫁いだあとは目立った功績はありません」


姉が嫁いで、すぐに入隊していなかったか?


ギルドどころではあるまい。


「平凡な子爵家の五男が、王子から壊れた銃の魔道具を受け取り、どこかに潜んでいるシュライバー博士に修理してもらい、それを使って我が部隊を助けた。この線で行くか」


平凡な子爵家の五男。

我が部隊の者が聞いたら、大受けするだろう。


とりあえず、銃の魔道具の出所に関する噂でも流しておこう。


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