第56話 王女の帰還
「見つけた、ジャイアントフォレストエイプ」
そう、昨晩、ここに来る途中でジャイアントフォレストエイプに襲われ、せっかく手に入れた香辛料を失ってしまったことを話したら、仇を取ってくれることになった。
「おし、スージーは左、アウリは右だ」
ベニンガムが指示を出す。
しばらくすると、気配察知でもわかるようになる。スージーとアウリは、ジャイアントフォレストエイプをこちらに追い立てているようだ。
「あと十、五」
ベンタがカウントダウンする。気配察知で見てもタイミングはぴったりだ。
「うぉりゃー!!」
ジャイアントフォレストエイプが木々の間から飛び出した瞬間、ベニンガムが前に出て、脳天から真っ二つにした。
漫画で見るような見事な真っ二つだ。
あんな斬り方をして、剣は大丈夫なのか?
ベニンガムも剣をチェックしている。そして、ニヤリと笑った。
「なんともねぇ。コイツはな、ウチの家宝で、古代遺跡から出土した剣なんだ。噂通りのふざけた強度だ」
家宝を試したんかい。
「あの剣があれば、ベニンは王国三本の指に入るわね」
そんなですかい?
「闘気力による身体強化は女性の方が高効率なの。でも、男は闘気力を外に出す、例えば剣に纏わせるとかが得意なの」
「男は外に出す、女は受け入れるってな。がははは」
ベニン、王女の前で下ネタはやめておけ。
◇
ベンタから風探知を教わりつつ進む。何度か魔物にも遭遇したが、全くわからない。
「お、これはどうだ? リュカ」
全くわからない。
「まぁ、風に適性がある魔法使いでも苦手なヤツはいるからな」
そんなの、練習させるな。
◇
「前方に陣地が見えました!」
「偵察が出てきています。もうすぐ合流かと」
しばらくすると、陣地から出てきた偵察部隊と合流した。お、リリサ少尉もいるな。
「エリザ!」
「リリサ!」
感動の対面である。抱き合う美女二人。いい絵柄である。
「王女殿下、ご無事で何よりです。第232歩兵小隊のギンギル曹長であります。新第8陣地まで先導させていただきます」
きちんとした兵もついてきていた。
「わかりました。お願いします」
リリサとの長い抱擁を終え、王女モードに入ったエリザベータと共に進む。陣地まではそこからすぐだった。
◇
「よく戻った」
「ニースおじさま、救援ありがとうございます。送っていただいた救援がなければ、全滅は免れませんでした」
「おじさまはよせ」
「アタシは幼少の頃、エリザの遊び相手にと何回か城に招かれてな。まぁ、私はあまりエリザに好かれず、その役はリリサに譲ったのだが、父は何故かエリザに懐かれていた」
ベニンガムが語る。
エリザ、父性に惹かれるタイプなんすかね。
ニース大尉も、あんな子に懐かれたらデレデレであろう。
「明日、ノーフォーク基地に行く。兵を休ませておけ」
「もちろんですわ。あと、よろしければリュカ伍長に特別休暇を与えることは可能ですか?」
おぉ、エリザちゃん、優しい子やね。
ノーフォーク基地で文明を味わえるぞ。
「いや、無理だな。ここ数日で負傷兵が溜まっている。第一診療所を任せる。この者に案内してもらえ。あと、今回の救出作戦については知らぬ者も多い。吹聴せぬよう」
えぇ~。いけずぅ~。
◇
確かに負傷兵が溜まっていた。しかも、重傷者も多い。前線を下げる過程で、あちこちで被害が出ていたらしい。
診療が終わるころ、アニータが食事を持ってきた。
「任務、お疲れ様でした」
休暇の代わりか、良い食事が運ばれてきた。
◇
そこからしばらく、治療の日々が続いたが、途中から負傷兵の数が減りだし、一週間もすれば一日に数人という状況になった。
「リュカ伍長、アニータ一等兵、ノーフォーク基地に移動だ」
お、用済みか。
まぁ、戦力にはならんしな。
そもそも、俺が徴兵された特別貴族徴兵は、戦力を一時的に増強して東の戦線を押し戻すという理由だったはず。それが後退していたのでは、戦力増強の意味がないからな。
数日後、俺とアニータを含む三十名ほどの兵がノーフォーク基地に戻された。
「リュカ伍長はニース少佐のもとに出頭するように」
少佐に昇進したのか。
◇
「ニース少佐、昇進おめでとうございます」
「なに、今回の東進失敗で上に空きが出ただけだ。リュカ伍長、本日付で軍曹だ。これからも励むがよい」
いや、励むも何も、あと二か月で除隊のつもりですが。
まず、魔法の収納を返そうとする。
「“やる”と言ったはずだ。それはお前のものだ」
「この容量、子爵家の五男が持っていてよいものではないのではないでしょうか? しかも、ただの軍曹ですし」
「それは軍のものではない。私物だ。それに、うちの娘がそちらの高価な魔道具を破壊したと聞いている。持っておけ」
いや、高価な魔道具ではないんですけどね。
「リュカ軍曹は休暇が溜まっているな。休暇を利用し、一週間後にスールドで行われる士官学校入学試験を受けてこい」
それって休暇じゃないのでは?
この世界では士官学校を出たからといって尉官になれるわけではなく、二等兵から始めなくてはならない。だが、士官学校を出ていないと曹長止まりだ。
これは、軍曹になった俺への配慮なのかな?
軍人としての人生を送るつもりは毛頭ないのだが。
「これが推薦状だ。過去問はリリサ少尉からもらうと良い。下がって良いぞ」
なんか、断るタイミングすらなかった。
◇
「士官学校に行くんですってね。これが過去問よ。そんなに難しくないわ」
「あまり気乗りがしないんですが?」
「ニース少佐の推薦状を持って落ちたら、顔に泥を塗ることになるからね。リュカ君は下士官だから筆記のみだけど、くれぐれも油断しないように」
わざと落ちようとしていたことがバレた?
「士官学校は本来二年間だけど、従軍経験者は最初の練兵三か月が省略できるわ。あと、下士官は模擬訓練も減らされているはず。実戦経験者に模擬訓練させてもね」
私は従軍前に士官学校に行ったから損しちゃったわ、と笑うリリサ少尉。
「この時期の入学試験だと、従軍経験者の途中入学用ね。試験が終わったらすぐに入学よ。頑張ってね」
完全に退路をふさがれたのである。
◇
翌日、ノーフォーク基地からタリケントの町までは二十名くらいの隊で行軍する。
除隊する者や長期休暇が与えられた者など、皆、晴れ晴れとした表情をしている。
アニータは休暇だ。別の女性兵士と話している。
「あたし、タリケントで内勤になるの。アニータは?」
「私は休暇です。休暇が明けたらノーフォークに戻ります」
志願兵は一年従軍すると異動願いを出すことができる。彼女は一年間務めてから半年おきに異動願いを出し、ようやく認められたそうだ。
「もう二年半よ。いつの間にか上等兵になっちゃった」
「内勤で上等兵は悪くないんじゃないか。内勤になったら階級は上がりにくいって聞くぞ」
「いいのよ。タリケントでいい男をつかまえるわ。アニータも一年経ったら異動願いを出した方がいいわよ」
「はい、そのつもりです」
アニータは内勤の方が向いているな。
◇
タリケントからは馬車だ。
この国には士官学校が二校、王都の北と南にある。スールドは南側だ。ここから三日間かかる。
一週間後の試験って、かなりギリギリじゃないか。移動続きってことになる。休暇の定義がゆらいでいるな。
休暇中の兵は娼館通いと酒が基本だ。
そういえば、女性兵士が休暇中に何をして過ごすのか知らないな。
俺はずっと試験対策だ。過去問五年分に目を通す。
◇
スールドに着いたのは士官学校入学試験の前日だ。士官学校受験者は兵舎に泊まることができる。
「リュカ軍曹です。明日の入学試験を受けに来ました」
「あぁ、聞いてるよ。403号室に入ってくれ」
下士官だから二人部屋のはずだが、同室はいない。
一人で街に出る。
スールドは比較的大きい街だ。王都に隣接しているため、人の流れも多く、獣人も多い。
そういえば、軍では獣人を見かけなかったな。
何かあるのだろうか?




