第55話 温水シャワー
夜になり、全ての兵が治療を終えたことにより、交代で守備できるようになったため、陣地は落ち着いてきた。今は10名が外で警戒している。
「最初に来たとき、あのグランドリザードをぶっ倒したヤツは何なんだ?」
大柄な女兵士、ベニンガムが訊いてくる。男みたいな名前だろ、と言いつつ、自分の名前は嫌いではないようだ。階級は教えてもらってない。この部隊では皆、階級を付けずに呼び合っているようだ。
「これで、土の弾を撃ち出したんです」
俺は30ミリ砲の銃身を出して見せる。む、真ん中より少し後ろあたりにヒビが入ってるな。ベニンガムが受け取り、銃口を覗いたりしている。銃でそれやったら駄目ですよ。
「銃という古代魔道具ですよね。でも、稼働状態のものは少なかったはず。特に弾が貴重だとか。王家にも動くものがいくつかあります」
エリザベータ王女が解説してくれる。この世界では銃は古代魔道具か。
「ベニンガム、注意して扱ってくださいね。あなたは粗忽だから」
「わーってるよ。ほら」
ベニンガムが銃口を持って30ミリ砲をエリザベータ王女に渡そうとするが、王女の前に置いてある机に銃床が当たってしまう。ヒビがあった部分から折れる30ミリ砲、床に落ちて割れる銃床。あー、銃身の底にもダメージが入ってたっぽいな。一番圧力がかかる部分だし、要改善だ。
そんな事を考えていると、ベニンガムとエリザベータがあわあわしはじめた。
「え、こ、壊れた?」
「ベ、ベニン、だから注意しろと」
ベニンガムから銃身の半分を取り上げ、観察する。こちらは大丈夫そうだ。
「別にいいですよ。これのおかげで王女が救えたなら、銃も本望でしょう」
とりあえず、恩は売っておこう。
「そちらの部品もいいですか?」
バラバラになった銃床を回収する。
「か、必ず弁償するから」
「ベニン、いくらすると思ってるの? そ、そうだ。確か軍事作戦中の私用武器損耗の際の補償規定があったはず……」
「上限は1万ギルよ。ベニちゃん、もうリュカ君と結婚しちゃうしかないんじゃない」
横からスージーが茶々を入れる。スージーはベニンガムの次にガタイが良い。最初に治療を受けた3人のうちの一人だ。それだけで戦力として信頼されていることがわかる。
「け、結婚!? 無理だろ」
はい、無理です。遠慮します。
「別にいいですって。もうこれのことは忘れてください」
◇
「ところでさー」
スージーがのんびりとした口調で言う。
「リュカ君って、ここに着いたときは泥だらけだったよね。今は小綺麗なのは何でかなーって」
ここに着いたときは、匂いを減らすために体に泥を塗ったりしてたからな。治療が終わって落ち着いた時点で、こっそりシャワーを浴びて着替えていたんだ。
「怪我も治って、水もたらふく飲んで、糧食もたっぷり食べ、ひと眠りすることもできた」
エリザベータ王女、夕食には各人2食を許可したんだ。治療で体力を使うし、もう3日ろくに食べてなかったらしいからね。
「あとは体さえ洗えたらって思ってたのよ」
「水魔法で体を洗ったんです。治療が終わった後、時間があったんで」
「アタシの分の水も出せるかな?」
「出せますけど、どこで出しましょう?」
流石に人目があるここで水浴びはないだろう。ところが、スージーは俺の近くまで来ると服を脱ぎ始めた。痴女か? 痴女だな。
「ちょっと、スージー。はしたないわよ。リュカ君は男よ」
エリザベータ王女は常識人だ。とっととこの痴女を止めてくれ。
「診察の時に胸は見られてるし、今更よ。リュカ君、お願い」
そうだっけ? 記憶にないな。流石に全裸にはならないらしい。ブラトップとパンティーは着けている。よし、サービスして温水シャワー魔法を提供しよう。
「あら? ちょっとこれ、温水よ」
濡れてブラトップとパンティーは透けているが、残念ながらスージーには一切色気が無い。全くない。
「これ、凄いわよ。ベニンも来なさいよ」
スージーはいよいよブラトップとパンティーも脱ぎ、それらを洗い始める。そこにベニンガムも加わるが、色気は増えない。そういえば、魔法の収納に石鹸を入れてあったな。
「スージー、石鹸もあるよ」
石鹸を投げて渡す。
◇
「アイリーン。これ、お願い」
スージーは洗った服をアイリーンに投げ渡す。
「もう、勝手なんだから」
アイリーンは服を受け取ると、火魔法で乾かし始めた。ファイヤーウォールを小さくしたものだな。見事な制御だ。
「これもだ」
今度はベニンガムの服だ。こいつも、いつの間にか全裸になっている。って、シャワーを浴びてる子がもう一人増えている。
「第二王女部隊は痴女集団だった」
「違います」
即、エリザベータ王女に否定された。
温水シャワーを浴びた兵は既に10名を超えているし、中にはかわいい子もいたが、既に司祭となった俺の職はびくともしない。勝ったな。いや、物理的接触はまだわからんが。
「エリザも浴びたら?」
一人の兵が爆弾発言を放り込んだ。
「そんなわけにはいかないでしょう!」
「でも、エリザ、臭いわよ」
別の兵が不敬な発言で追い詰める。
「気持ちいいですよ、エリザ。さっぱりしましょう」
いや、王女やぞ。ありえんだろう。
「そうね」
え? 何と、王女も服を脱ぎ始める。
「この隊では権威は無用、だったわね」
王女の体は幻惑的な美しさだった。
◇
「それにしてもリュカ君、ふざけてるよねー」
大真面目キャラのつもりなんですが。
「そうね、どういうつもりって感じ。確かに魔力の流れを見ると、生活魔法の水と火なんだけど」
「あのシャワー、風の魔法も入ってるね。生活魔法だけど」
そういえば、3属性を見せちゃったな。
「まあ、3属性持ちは珍しいっちゃ珍しいけど、いないわけじゃない。けど、あの魔力制御と魔法力は変よ」
「うん、ふざけてる」
部隊の魔法使いたちが俺のことを変と言い張る。
「風は下手だけどね」
どこに実用性があるかわからなかったから、ほとんど練習してないからね。
「ちなみに、あの癒しの手も異常よ」
目立たないように気を付けていたんだが、ちょっとここでは目立ちすぎたか? 治癒力に関しては既にバレていたから、問題は3属性か。
「リュカ君、心配しないで。あなたの情報がこの部隊から出ることは決してないわ。私たちは大きな家族なの。決して裏切らない」
その家族に俺も含まれてるかどうかはわからないが、俺の情報を漏らさないという点は信用してよさそうだ。
◇
翌朝、残った糧食を食べ、出発した。これで糧食の残りはほとんど無い。
「リュカ君、風魔法で上の音を聞いてみて」
モールスと違う、さらに高い音が聞こえ、数秒続いた。
「あれはビーコンなの。要請すれば1時間に1回、発信されるわ。今のは真上から聞こえたでしょ。だから方向は合ってる。帰隊のときは良いけど、進軍中は距離が離れれば離れるほど不正確になるから気を付けてね」
教えてくれているのは通信係のベンタ。火魔法の使い手でもある。
「風魔法は攻撃力があまり無いからね。うちの隊はもう一つ属性がないと入れないんよ。うちら、一応精鋭だし」
「回復士が水魔法も担当していたんだが、先月妊娠がバレてな。うちの隊は乙女であることが条件だから除隊になった。だから、うちの隊のものに手を出すんじゃないぞ。ところでベンタ、見つけたか?」
「まだ範囲外ね」
魔法使いの職を得てから覚える魔法で、“風探知”というものがあるらしい。文字通りの魔法で、探知範囲は数百メートル。だが、風を送った方向しかわからないから、遠くなるほど網の目が広くなり、敵を見落とす確率が上がってしまう。
解決方法は簡単。とにかく乱れ撃ち。
「魔力感覚がわかるんなら、頑張ってみる?」
と、手を繋いでくれた。ん? 扇風機魔法と同じ?
「風を押し出しているだけ?」
「今のところはね。慌てない慌てない」
「あ、ほら。今の、わかった?」
しばらくするとベンタさんが言ってくる。
「え? いや、何も」
「はぁー」
ため息をつかれてしまう。
「風を押す感触が違うでしょ」
てっきり、ソナーみたいに反射した風を感じるんだと思ってた。
「風が反射するわけないじゃない。風はこっちから向こうに吹いてるのよ?」
すごく頭が悪い子みたいに言われてしまった。
不本意である。




