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第47話 前線の基地に到着

そんな感じで、馬車が止まるたびにレオンとスラッシュの練習をしながら進むこと二週間。ようやくタリケントの町に着く。意外と大きな町だ。


「新兵どもはこっちだ。一等兵はあちらに並べ」


レオンは騎士団見習いのときに既に半年間従軍しているらしく、上等兵になっている。ここでお別れだ。ちなみに新兵は二等兵として配属され、半年間生き延びれば一等兵になるとか。ただ、貴族は一等兵から始められる。


「次、名前は!」


「リュカ・フォン・ヴァルクレインです」


目の前の偉そうな軍人は、俺を上から下までじっくりと見る。


「誰だ、子供を戦場によこしたのは!」


「例の貴族徴兵です。二番目のあれかと」


「じじいの次は子供か! 練兵に耐えられんだろ」


じじいって俺の前の人だよな。確かに年寄りだった。


「ここの嫡男は来てるのか?」


俺の書類をじっくり見ながら訊ねる。


「は、レオンハルト上等兵は既に登録を終えております」


俺に対する質問じゃなかったみたいだ。


「くそ、さっきのじじいと同じところに入れておけ」


「は!」


俺は端の方に連れていかれる。俺の前に並んでいたお爺さんが座っていた。


「ここで待ってろ」


「はい」


     ◇


「わしはな、お情けで貴族名簿に名を載せてもらっていたんじゃよ。家は裕福な伯爵家でな。わしの兄が家を継いだんだが、すでに領主を退き、今はその息子がやっておる。ただ、子供が少なくてな。貴族名簿の端っこに載っておったわしに目をつけたんじゃろう」


おしゃべりをしていると、今度は女の子が連れてこられた。歳は俺と同じくらいかな?


たぶん、従軍不適格ってことだろう。家に帰れるかな?


偉そうな軍人が、さらに二人連れてきた。ヒョロヒョロした若い男性と、老婆だ。


「まったく、五体満足であれば年齢に制限は設けない、となっていたとはいえ、これでどうするつもりなんだか。とりあえず、名前と年齢を順に言っていけ。ああ、家名はいらんぞ。前線では貴族かどうかなんて関係ない。魔物は気にしないからな。我らも気にしない。それが軍隊のルールだ。まずはお前からだな」


老人が指さされる。


「ガドス、六十三歳。火魔法が使えるぞ」


「アリアーナ、五十九歳。巫女よ」


「ヘンドリックス、十三歳」


「アニータ、十二歳です」


「リュカ、十一歳。癒しの手が使えます」


俺が最年少みたいだ。


「新兵はここで一か月間練兵してから前線に行く。だが、お前たちは練兵に耐えられなさそうということで、ここに集められた。ヘンドリックス、お前はなんとかなりそうだ。彼について練兵所へ行け」


ヘンドリックス君はヒョロガリなだけで、鍛えればマッチョになる可能性を秘めているからね。


「アリアーナ一等兵、レベルは?」


「四十です」


「アニータ一等兵、職は?」


「ありません」


「リュカ一等兵、癒しの手でどの程度治療できる?」


「たいていの怪我であれば」


「たいていの、な」


俺の返答に少し不満なようである。


「ガドス一等兵、レベルは?」


「四十ですじゃ」


偉そうな軍人さんは少し考えたあと、


「アリアーナ一等兵とガドス一等兵は前線だ。二人とも下級職とはいえ、レベルが四十あればそこそこステータスはあるだろう。リュカ一等兵とアニータ一等兵は衛生隊だ。リュカ一等兵は、もともと衛生隊で希望を出していたな」


「「はい」」


全員がイエスの答えだ。たとえ歳を取っていても、職がありレベルが四十あれば、無職よりは戦闘力がある、ということだろう。


「アニータ一等兵はどこに行っても役に立たん。衛生隊でリュカ一等兵の助手でもしておれ」


「はい」


アニータさん、栗色ショートヘアーで小柄でかわいいのに、ひどい言われようである。


     ◇


その後、小屋のようなところに連れていかれ、軍服と背嚢を渡される。軍服は一番小さいものでもサイズが合わないが、仕方ない。そのまま着替えさせられる。男女同室だった。軍ってのは、こんなもんかね。


「よし、ではこれより前線へ向かう。全員、駆け足!」


うへぇ。ステータスのおかげでそれほど苦しくはないが、無職と思われておきたいので、しんどそうに走る。アニータさんは本当に苦しそうだ。


三十分ほど走ったところで、アニータさんがダウン。俺たちを連れている軍人さんにとって三十分は満足できる時間だったらしく、小休止をとる。


「俺はニール曹長だ。これからはそう呼べ」


曹長って、どれくらい偉いんだっけ?


小休止のあと、普通に歩きながら軍のルールなどの説明を受ける。本来は一か月の教練で習うものだが、俺たちは短縮版だ。教練で行進のしかたなどをちゃんと習うらしいが、今回は前線に向かいながら実践で習う。


夕方になると野営だ。初日は簡易なツェルトでの野営となる。野営場所の基準や注意事項を習い、二人ずつ寝る。アニータさんが限界だったので、最初は俺とガドスさんが見張りだ。あとで寝る方が楽な気がするから、それはいいけど。


真夜中過ぎにアリアーナさん、アニータさんの二人と交代し、眠りにつく。


     ◇


二日目も、最初の三十分は小走りで、その後は普通の速度で移動する。小休止を挟み、昼頃に大休憩。今のところ、食事はすべてパンと干し肉だけだ。大休憩のあと、再び小走り三十分。ここでアニータさんが限界を迎える。小休止では回復していなさそうだったが、ニール曹長はアニータさんを無理やり立たせ、歩かせる。


夕方、二回目の野営地に着くと、アニータさんは気絶するように倒れた。アリアーナさんもほぼ限界だ。俺がツェルトを用意しようとすると、ニール曹長に止められる。


「こういう野営もある」


焚火を起こし、アニータさんに毛布をかける。今日はこのままで寝るらしい。今夜も俺とガドスさんが先に見張りだ。あとで寝る方が楽な気がするから、それでいい。


真夜中過ぎ、アニータさんとアリアーナさんを起こそうとするが、どんなにゆすっても起きない。すると、ニール曹長がいきなり水をぶっかけた。


「交代の時間だ。さっさと起きろ」


ニール曹長は二人の耳をつかみ、無理やり立たせる。


「お前たちは寝ろ」


なんか雰囲気的に奉祈で気絶睡眠って感じではないのだが、地面は固いし、無理やり立たされているアニータさんも気になるし。でも、眠れないと明日が地獄そうなので、奉祈で寝る。


翌朝、アニータさんもアリアーナさんも、既に死にそうな顔をしている。


体の痛むところをこっそり癒しの手で治し、朝食をとる。アニータさんはもう食事をとる元気もないようだ。


     ◇


昼過ぎに、ようやく前線の駐屯地に着く。


「よし、ここで休憩だ。明日の朝、お前たちは衛生隊に報告しろ。お前たちはこのあと、それぞれの部隊に振り分ける。着いてこい」


ニール曹長はガドスさんとアリアーナさんを連れて、どこかに行ってしまった。


さて、俺たちは明日の朝とやらまで、どうしたらいいんだろう?


周りを見回すと、近くに優しそうな女性の軍人が立っている。訊いてみるしかないか。


「あの、すみません。三日前に入隊し、今、ニール曹長にこの駐屯地に連れて来られました。どうしたらいいかわからなくて困っています」


「ニール曹長? どの部隊だ?」


そういえば、知らないな。


「右肩に、頭にナイフが刺さったゴブリンのマークを付けていました」


「ああ、それなら第二歩兵大隊だな。新兵が来るのは来月のはずだが?」


「初期教練に耐えられなさそうな四名が連れてこられました。二名はニール曹長が部隊に連れていくと言って去っていきました。我々二人は明日の朝、衛生隊に報告せよと言われています」


盛大にため息をつかれたあと、


「お前たち二人は、あそこに見える大きなテントで今晩は寝ろ。食事はあちらで出るから好きに食べろ。朝、二回目のラッパが鳴ったら、遠くに見えるあの旗の下にあるテントに行って事情を説明しろ」


「ありがとうございました!」


道中習った敬礼をしておく。


     ◇


アニータさんは意識はあるようだが、動けそうにない。仕方ないので背負ってテントに運ぶ。テントの中には簡易ベッドが並んでいたので、使っていなさそうなベッドにアニータさんを横たえる。


「食事、いる?」


アニータは弱々しく首を振る。


「わかった。まずは体を休めて」


アニータさんの背嚢から毛布を取り出し、上にかけてあげる。


「ありがと」


アニータはそう言うと、目をつぶった。


さて、とりあえず食べないとどうしようもない。食事が出ると言われていたところに行ってみると、何人かが後片付けをしている。


「昼飯はもう終わったぞ」


「今、着いたんです。三日間歩き通しで、野営二回です」


「おう、そこに座ってちょっと待ってろ」


言われた場所に座って待っていると、パンとスープが出てきた。


「ありがとうございます」


「食べ終わったら食器はここにぶち込んでおいてくれ」


この三日間、ずっとパンと干し肉だったからな。野菜と肉が入った暖かいスープはありがたい。


「体を洗えるところってありますか?」


「向こうに水場がある。そこで水浴びも洗濯もできるぞ」


「わかりました」


食事を終え、礼を言ってから水場に向かう。


水を浴び、洗濯を済ませてテントに戻る。


アニータは眠っているようだ。俺も少し寝よう。


夕方くらいになると、人が増えたのか少しテントがざわざわする。目を開けると、アニータも起きたようだ。


「水、飲める?」


先ほど水場で汲んでおいた水を差し出す。


「ありがとう」


アニータは水を飲み干した。


「夕食までまだ時間があるみたいだから、もう少し休むといい」


「リュカさんは体力あるのね」


ステータスの体力は30だ。無職のステータスはわからないが、巫女レベル4で5だったから、それよりも低いのだろう。アニータさんは無職なのに、よくここまでついてこれたもんだ。


「頑張って食べてたからね。アニータさんも夕食を食べれば元気が出ると思うよ。あと、呼び捨てで良いよ。」


アニータさんは少し微笑んで、目をつぶった。


     ◇


夕方、ラッパが鳴るとテントの中の人たちが外に出ていく。食事の時間のようだ。アニータさんを誘って食事場へ行く。少し回復しているようだ。


食事を受け取る列は長かったが、列が進むのも早く、すぐに食事にありつけた。パンと焼いた肉、サラダと果物。立派な食事である。


「お手洗い、どこかしら?」


「水場の近くにあったよ」


食後、水場まで連れていく。


そういえば、女性はどこで水浴びするのかな?


前線と聞いて恐れてたけど、意外と文明的で助かった。食事も美味しいし、水場もあって衛生的だ。


二人でテントに戻り、ぐっすりと寝た。


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