第46話 出兵準備
なんと、一週間後にルイトガー・フォン・アイゼンフェルト様とディートハルト様がヴァルクレイン領を訪れ、あれよあれよという間に婚約が決まった。そしてさらに一週間後、今度はマリベルがギルベルトと共にアイゼンフェルトへと向かっていった。十八歳のうちに結婚してしまいたいらしく、超特急のスケジュールである。十八歳であれば、まだ行き遅れ扱いではないとか。
俺は既に十一歳になったからな。マリベルが十九歳になるのも、もう目前だったわけだ。
そんな今の俺のステータスは、こんな感じである。
名前:リュカ・フォン・ヴァルクレイン
年齢:11
職業:司祭(巫女・祈祷師)
レベル:10
力:21
速さ:53
体力:30
魔法力:408
神聖力:635
闘気力:21
・奉祈
・老化軽減 10%
・投擲
・毒耐性(強)
・気配察知
・隠密
スキルポイント:5
祈祷師のときのレベル34くらいのステータスにはなっている。レオンが戦士レベル1のときと比べると、力や体力は少し劣るくらいかな。まあ、戦士はここから力と体力が急激に伸びるわけだが。
そして、スキル“神託”が、スキルポイント5で取れるようになっている。これも、いわゆる“予知系”だろう。取るしかないな。
とりあえず、のんびりした日々を送る。リーゼ、ティナと軽く依頼を受けたり、貧民街に顔を出したり、グランベルク領に行って上級ポーションを納めたついでにイリーナちゃんと遊んだり。クルガンさんのところにも顔は出す。イリーナちゃんのところに行くと、いつも居るんだよな。仕事してるんだろうか?
そんなふうに、がっつりとのんびり生活を楽しんでいると、ギルベルトとフリーデガルトが帰ってきた。マリベルは無事、結婚できたらしい。
そんな夜、いきなりギルベルトが爆弾を投下した。
「リュカ、軍に入り、東部での戦争に参加してもらいたい。王命による貴族徴兵だ」
「貴族徴兵は嫡男が対象で、貴族徴兵による従軍が領地を継ぐ条件、ということだったのではないですか?」
「うむ、その通りだ。だから、本来なら貴族徴兵は一貴族家につき一人のはずだった。ただ、今回、王は二人の従軍を求めている。建国以来、なかったことだ。レオンハルトは当然参戦する」
「私はまだ成人しておりませんし、無職で戦力にもなりません。十一歳の私が戦場に出ても、足手まといにしかなりませんよ」
現在二十三歳で、魔法使いとして十分戦力になるアルドリックが候補に挙がるはずだろう。
「ユリウスは既に貴族名簿から抜いてある。エレノアとマリベルは既に他家の人間だ」
カスパルもだね。ここで、あえてアルドリックの名前を出さないということは、本来ならアルドリックを出すべきなのに、事情があるからだろう。
「厳しい戦いになりそうなのですね。本命と予備を同じ戦場に出すわけにはいかない、と」
ギルベルトは驚いた顔をしてこちらを見た。アルドリックは、レオンハルトの予備だ。
「リュカ。お前が既に冒険者として自立可能で、家を出てもやっていけることは把握している。そのうえで、なお、お前に頼むしかないんだ」
嫌だなあ。貴族じゃなくなっても困らんしな。パスするか。
「貴族徴兵では配属に希望を出すことはできないし、必ず最前線に送られる。ただ、今回に限り、嫡男指名を受けていない者は配属に対して希望を出すことができる。お前は癒しの手が使えるし、衛生隊を希望すれば最前線は避けられるだろう」
体が出来ていない十一歳を最前線に送っても、隊の行動を乱すだけで負の要素が強すぎる。行軍すらままならないだろうから、そもそも最前線に立たせようがない、ということだ。後方勤務になるかは微妙だが。
なんというか、あまりメリットが無いんだよな。
「戻ってくる頃には十二歳近く。貴族名簿に載せておくにはお金がかかるようになる年齢になってますね」
兵役が終わったら、はいサヨナラ、は普通にありそうだ。
父は首を横に振りながら言った。
「流石にそれをやったらヴァルクレイン家は貴族界隈から総スカンだ。王家にも睨まれる。戻ってきたら王都の学園に行くことになるだろう。でなければ、ヴァルクレインは貴族として立ち行かなくなる」
いや、学園に興味ないです。貴族との交流、かったるいし。
ところが、そこで急に“参戦した方が良い”といった感覚が頭に流れ込んだ。この感覚、“虫の知らせ”と似ている。
「わかりました。そこまで言うなら」
こうして、俺の従軍が決まった。
◇
出発は十日後。レオンと共にヴァルテンブルク領の東にある町へ行き、そこで入隊になるらしい。それまでに、やれることをやっておこう。
まずグランベルク領へ行き、ルーカスさんに会う。
「そのような事情であれば、仕方ないですね。どうか無事に帰ってきてください」
「あと、相談があるのですが」
有り金をはたいて、収納の魔道具を買うことにした。腕輪タイプで、バックパックくらいの容量がある。百八十万ギル。ルーカスさんは頑張って、ずいぶん安く手に入れてくれたようだ。
クルガンさん、イリーナちゃんにも挨拶し、ヴァルクレインに戻る。
次に寄ったのはクララさんのところだ。猛毒接種による毒無効取得では、一種類を二か月くらいかけて接種する。今、ちょうど二種類目が終わったところだ。次の毒をもらっておこう。
「リュカ君は軍に入るのか。せっかくだから、今持ってる猛毒は全部持って行くといい」
いや、七種類もですか?
「それと、相談なんだが、闘気力を上げるポーションの開発は進めているんだが、手持ちの金が少なくなってきてね」
この人は金がなくなると何をするかわからない。
「特級ポーションを売って、そのお金を使ってくれて良いですよ」
「おお、助かる。残った金をどう増やそうか考えてたんだ」
発想がギャンブラーです。
残ったお金で、今より少し大きい蒸留器を買った。
◇
魔法の収納には、ポーション作成の道具のほか、念のため水と干し肉くらいは入れておこう。他にも必要そうなものを突っ込む。
武器は現地で配給されるはずだが、念のためナックルダスターとバグナク、短剣は魔法の収納に入れておく。これらの武器はフリーデガルトに買ってもらった。
着替えなどの一般的なものは普通のカバンに詰め、準備完了である。
レオンと共に、ヴァルテンブルク領の東にあるタリケントという町に向かう。
「今回は貧乏くじを引いたな。リュカは断ると思ってた」
「まあ、家の事情を考えると仕方ないのかな」
レオンに訊きたかったことを、この機会に聞いておこう。
「レオンは、戦士レベル40になったときのステータスって覚えてる?」
「家族にだって教えないって言っただろ」
「でも、レオンはもう戦鬼だからいいじゃん」
渋っていたが、教えてくれた。
「なんとなくしか覚えてないからな。十三歳のときだったと思う。力は68だな。70に届かなくて悔しかったから覚えてる。速さも30にあとちょっとか。体力は50台の中頃。闘気力も59で、これも60に届かなかったんだ。魔法力と神聖力はどっちも一桁だった」
知性については教えてくれなかった。それにしても、力は七十弱か。司祭がレベル30になっても届かないな。
「あと、スキルポイントのことなんだけどさ」
「スキル情報は、誰にも絶対に言えないぞ。リュカも将来スキルを得るようになっても、誰にも言うんじゃないぞ」
いや、ポイントが足りないことについて訊きたいんだけどな。なんか教えてもらえる雰囲気じゃなさそうだ。
「そうそう、一つだけ教えてやろう。戦士の初期スキルはスラッシュだが、これ、練習すれば戦士以外でも取得できるらしいぞ」
レオンに教えてもらうことにした。
「正しくスムーズに体を動かして、闘気力を乗せればスラッシュだ」
「自分の闘気力、感じられないんだけど」
「リュカ、たぶん低レベルの戦士くらいの闘気力はあるぞ」
そう、数値上はあるんだ。わからんけど。
「まあ、やってみろ。腹の下からぐわ~っと大きく広げてから、剣に伝える感じで」
レオンは自前の剣を持ってきている。それを使って練習だ。
「いや、違うんだな。広げるところは少しできてそうだ。それをまずは手の方に、ずずずって感じで」
ぐわ~、とか、ずずずって。
「そこから、すぱーん!って感じで闘気力を剣に乗せながら振るんだ」
さっぱりわかりませんって。




